最後の女子会を二人で

満月 花

第1話


陽が沈んでいく。


ホテルの窓から、街が柔らかい朱色から薄闇に変わって行く様子を

私は眺めている。


今夜は恒例の女子会。


大学時代から

何回かホテルのスィートの一室を借り切って

幼なじみと一晩語り合う。

ホテルといっても親の持ち物だからタダ同然だけど。

テーブルには美味しいそうな食べ物や飲み物を揃えて。


約束の少し前の時間、控えめドアがノックされた。


久しぶりの再会を喜び合う。


おとなしい幼なじみは清楚系の服がよく似合う。

今日の淡い色合いのファッションでまとめている。


幸せそうだ。


もうすぐ、結婚式が控えている。

今が1番幸せで輝いてはず。


結婚相手が私の好きだった人なのは

少し複雑な気持ちだったけど。


大学卒業と共に、大企業の社長令息と結婚。


再度、結婚を祝えば


「私なんかに勿体無い人」と謙遜する。


「私なんて、全然駄目だし」と弱気になる。


全く自己肯定感が低い。


彼が選んだのは幼なじみなんだから、もっと自信を持ってと言っても

「本当にごめんなさい」と謝られた。


長年一緒にいたせいか、私達の好みはよく一致した。

大抵のものは幼なじみが譲ってくれたけれど。


さすがに、恋する相手は違った。

彼は幼なじみを選んだのだからどうしようもない。


わがままで自分勝手な私よりも

優しく気遣いの出来る、幼なじみを守りたいから

ときっぱりと言われた。


それでも変わらずに私達は仲の良い関係。


幼なじみの父親は子供たちの親密さの縁でうちの傘下に入った。

家族とも付き合いが深い。


私の親も、ずっとそばで支えてる幼なじみがお気に入りだ。


あらぬ事を言われ孤立した私に寄り添ってくれた。


親友だから、ずっとそばにいる。

ずっと味方でいると。


今までの二人の思い出話とコイバナに

盛り上がる。

照れながらも、彼の惚気話しにお腹がいっぱいになりそう。


でも、結婚したらこんなふうに

女子会もお出かけも旅行も、行けなくなるね。

と寂しそうにため息つく。


幼なじみは、そんな事ない。

ずっと親友だ。

と言ってくれる。

そう、私たちはお互いを知り尽くしている。


でもきっともうこんな日は来ない。

私は今日が二人だけで過ごす最後の日と思っていた。

そして今までの長い時間で感じた思いを幼なじみに伝えようと思った。




「……今まで、私を貶めてきたのは何故?」

「いつまで、私を利用する気なの?」



その言葉に幼なじみの表情が凍り付いた。


……親友なんかじゃない。

幼なじみの正体は、フレネミー。


人よりも多くの物を持ちすぎている私は反感を買いやすい。


でも、そんなこと気にせずに穏やかに楽しく過ごしてた日々は

いつの間にやら不穏が漂い始めていた。


そうこの幼なじみと出会ってから。



口癖の

「私なんて……」

「私なんか……」


その言葉に隠された巧みな誘導。

言われたら、誰でもその先が気になる。

慰めたくなる。


決定的な誹謗中傷はしない。

だけど、その先を思い馳せる余韻は残す。


実に巧みな戦略。


幼なじみによると


私はわがままで、自分勝手で

いつも振り回されている。

私はプライドが高く、他の人を見下してる。

そんなことに心を痛めてるらしい。


誰も友達がいないから、せめて自分だけでもと寄り添い続けてる。


確実な表現はしない。

匂わせ、想像させて、指摘されたら

曖昧に答える。


それで確定。


完璧な優しい親友の出来上がり。


なんのこと?と悲しげに眉を寄せる幼なじみ。


そんなあざとい仕草もとても自然。


私は淡々告げる。


もうとうに気づいているから。


噂を辿っていけば、いつもたどり着くのは幼なじみだったこと。


私と親しくなりそうな人物は全て遠ざけ

私が積み重ねてきた評価も印象も潰してきた。

頑張った努力さえも、幼なじみの手柄にされる。


悩みという形で周りに私の悪印象を植え付ける。

そうやって、私を孤立させてきた。


周りから同情を買える。

私からは数々の恩恵を受けれる。



幼なじみが口に端を歪ませ、ニヤリと笑う。


「なんだ、バレてたんだ」


そして、私を睨み付けた。


「今まで引き立て役をやってあげたんだから感謝してよ」

「あんたなんて、私の人生の踏み台でしかない」


やっぱり、私はため息を付いた。


大学だって留学だって、うちの親が援助した。

娘のために親友である幼なじみがそばに居た方がいいと

考えてくれたんだろう。

人間関係でつまずきやすい娘を思った親心。


住まいも私と同じマンション。

多分生活費も援助してる。

その立場を維持するために、私の親友という位置を保持し続けていた。


でも大学卒業となれば、それらの援助もなくなる。


だから、私の周りに集まる似たような家柄の男性を狙った。

次の寄生先はハイスペックの彼だ。


好きだった。


いい感じの雰囲気だったのに、ある日

幼なじみと付き合うと宣言されたのだ。


ああ、またか、と思った。


こうやって私の大事なものを奪って行くのだ。



私が切り出さなければ、一生纏わり付いてたかもしれない。


幼なじみが、

いかに私の評判を落とし

簡単に同情や好意を掻き集める事が出来たことを

自慢げに告白して行く。

所詮、周りの人は私を捨てて、幼なじみを選ぶ事も。

男達もちょっと縋れば、簡単に寝とれたという事も。


すでに圧倒的に自分が有利だと思ってるのだろう。

勝ち誇って嘲笑う。



「……ねえ、あれを見て」


いつもの儚げな佇まいは何処へやら

足を組み、腕を組んで

私が指差した方を訝しげに視線を向ける。


なによ、と言いながらも、気づいたらしい。


部屋の一角にある棚の上の小型カメラのかすかに光る赤い色に。


私は柔らかく微笑んだ。


「今のやりとり、全部見られているから」


映像の向こうには──婚約者の男性と、二人の親族達。


結婚前の余興として、恥ずかしがり屋の幼なじみの

本心を聞き出すから、と別の部屋に呼んだのだ。




幼なじみの優しげな顔が引きつる。

「……うそ、でしょ?」


部屋に沈黙が流れ、カメラの赤い光だけが静かに瞬いている。




私が味わった地獄を、たった一回の復讐で許してあげるんだから。


……ねえ、優しい親友でしょ?



もうすぐ、彼らがこの部屋に来るだろう。


椅子から崩れ落ちて呆然とする幼なじみを残して


私は部屋を出た。


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