第20話 アルバイトウォーズ!〜怪ミーさん高単価案件〜

I 怪ミーさんの通知音


ピロンッ♪

《✨怪ミーさん:あなたにおすすめの高単価案件があります✨》


若き日のキューティーグリズリーは、

スマホを見て目を輝かせた。


【ヒーロー拘束・現場軽作業】

勤務地:郊外の廃デパート屋上

労働時間:14:00〜17:00

報酬:日給1万円

備考:敵ヒーローは若手モブ。安全管理徹底。


「3時間で一万円!? 帰りにステーキ買ってかえろーっと♡」


ピンクのエプロンをキュッと締め直し、

モフモフのしっぽをピンと立てる。


(よーし、今日もみんなをハッピーにするお仕事っ!)



II  現場集合


風が吹く廃デパート屋上。

現場には、同じくバイトで来た怪人たちが集まっていた。

・エレクトリカル・イール男(漏電系)

・デスパイダー(糸ベタ系)

・キューティーグリズリー(癒し系筋肉女子)


イール男「グリズリーさん、前衛お願いしまーす!」

グリズリー「はーい♡ みんなケガしないようにねっ」

デスパイダー「……いや、戦う気あるの?」


イール男「つーかそのピンクのエプロン、現場向きじゃなくね?」

グリズリー「え? “職場に彩りを”って求人票に書いてたよ?」

デスパイダー「多分そういう意味じゃない!」



III  ヒーロー側


対するヒーロー三人も、屋上に集結。

・ジャスティスくん(専門学生、スタンガン型の武器)

・スピードライト(ウバーEat兼業、懐中電灯型の武器)

・フレイムナッパー(派遣、チャッカマン型の武器)


リーダー「目標は怪人拘束! 3時間勤務、報酬は日払いだ!」

全員「うおおおっ!(財布の中身のために!)」


スピードライト「今日でガス代払える……!」

フレイムナッパー「冷蔵庫に氷しかねぇからな……!」

ジャスティス「この戦い、生活がかかってるッ!!」



IV  戦闘開始


ドォォォン――!!

煙が舞い上がる中、巨大なシルエットが現れた。


「よーし、みんな元気ね♡」


ハートマークのエプロンに、筋肉の塊。

キューティーグリズリーが仁王立ちしていた。


ジャスティス「でっけぇ……!」

スピードライト「猛獣が相手とか聞いてないぞ!」

フレイムナッパー「しかもあの笑顔が一番怖ぇ!」


怪人仲間「グリズリーさん、ちゃんと前出て殴ってください!」

グリズリー「うん、まかせてっ♡」


――モフモフのクマが一歩前へ。

全身で可愛くキメる。


🩷「キューティーポーズ♡」


ふわっとハートのエフェクトが舞い、

現場の空気から不安と恐怖がスッと溶けていく。

胸のつかえが取れ、妙に前向きな気持ちに――敵味方まとめて。


デスパイダー「……なんか、イケる気がしてきた!」

ヒーロー「やる気上がっちゃったんだけど!?(敵だよね?)」

イール男「モチベ向上させるな! 戦闘意欲が健全に高まってんだが!」



V  混乱


怪人「……あれ? 体が軽い?」

ヒーロー「動悸が落ち着いたのに、やる気だけ上がってる……」

イール男「完全にメンタル回復入ってるじゃん!」


グリズリー「まずは心から健康にね♡」


さらに両手をひらひら、腰をくいっと――


🩷「キューティーダンス♡」


軽快なステップに合わせ、見えないリズムが全身に入る。

筋力・防御・素早さが敵味方まんべんなく底上げ。

足が勝手に速くなり、打撃が重く、被弾しても妙に硬い。


ヒーロー「パンチが軽くジャブでも重い! 何この筋出力!」

デスパイダー「俺の糸、張力上がってベタつき強化された……相手にも効いてるけど敵なんだが!?」

イール男「回避行動が最速になってて自分が怖い!」



VI  無限ループ


10分後。


ヒーロー「もう……勝負がつかねぇ……」

フレイムナッパー「さっきからずっと性能バフかかったまま……」

グリズリー「はい、追いハチミツっ♡」


🧴🫧「ハチミツシャワー〜♡」


ブシャァァァ!! 甘い香りの霧がふわっと広がる。

範囲回復で敵味方のHPがごっそり戻るだけでなく、

肌はしっとり、キューティクルつやつや、喉の調子まで良好。

(※主婦界隈で人気の“美容と健康の女神”効果つき)


ヒーロー「また回復したァァァ!!」

デスパイダー「肌ツヤまで回復すんな!!」

イール男「これ戦場という名のエステだろ!!」



VII  埒が明かない


スピードライト「……このままじゃ、埒が明かねぇ」

ジャスティス「あのふざけたクマを先に倒すぞ!」

フレイムナッパー「了解!」


3人が同時に跳んだ。炎と光と雷の三重攻撃。

(※さっきのダンス強化で踏み込みが速い)


グリズリー「うわっ!? ちょ、ちょっと待って待って待って!?」


🩷「助けてぇ〜みんなぁ〜!!」


反射的に前腕でガード――豪腕がうなり、衝撃が反転。


ドゴォォォォォォン!!


屋上全体が揺れ、ヒーローたちは空中で3回転半ひねり。

地面にドゴンッ!


「ぎゃあああああ!! 骨がバキバキ!!」

「この戦い、命がけのコントかよ!!」


グリズリー「もーっ! びっくりさせないでよぉ〜!!」


即座に――


🩷「ハチミツシャワー♡」→HP満タン&つやサラ

🩷「キューティーポーズ♡」→恐怖が取れてやる気↑

🩷「キューティーダンス♡」→筋力・防御・素早さ↑↑


ヒーロー「ヒーリングフルコンボやめろ!!」

デスパイダー「敵味方問わず最高コンディションにするな!!」



VIII 定時


それからさらに1時間。

戦闘(?)は終わらず、ついに午後4時55分――。


スピードライト「……あと5分で定時だ。」

イール男「やっとか……(でも体が軽い)」

フレイムナッパー「これ以上やると残業になる……(脚が速すぎて帰宅も最速)」

デスパイダー「労働基準守るスタイル、好き。(肌つるつる)」


パン、パン。みんな砂を払って整列。


「本日はありがとうございましたー!」

「お疲れ様でしたー!」


全員、死んだ魚のような目でお辞儀をし、

ヒーローも怪人も一列で仲良く帰っていった。


ただ一つ違うのは――

全員、筋肉の張り良し・肌ツヤ最強・足取り軽快になっていたことだ。


グリズリー「今日もみんな元気に帰れてよかった〜♡」


イール男「……いや、たぶん元気すぎる。」

デスパイダー「これ明日、善悪の前に“健康診断オールA”になるやつ。」



IX  帰り道


帰りの電車。

ガタンゴトン──静かな車内に、巨大なシルエットが座っていた。


ピンクのエプロン、もふもふの耳、金のツインテール。

キューティーグリズリー。


乗客「うわっ!? か、怪人だ!!」

乗客2「出たー!!」「撮ってる場合じゃねぇ逃げろ!!」

人々は一斉に立ち上がり、車両の端へと避難。

次の駅では、半分以上の乗客がドアの向こうに吸い込まれていった。


グリズリー「えっ……あ、あれぇ? 席、空いちゃった……」

首をかしげながら小さくつぶやく。


「うーん、やっぱり地方線ってのんびりしてていいなぁ♡

 みんな遠慮しちゃって、座らないんだもん。

 ……あ、もしかして私、ゆるキャラだと思われてるのかなっ♪」


(※本人は“マスコット枠”として一般社会に受け入れられていると思っている)


しっぽをふわふわ揺らしながら、スマホを開く。


《バイト終了報告:勤務時間3時間00分》

《報酬:10,000円+交通費支給》

《評価:★★☆☆☆(2.1)》


「……えっ?」


過去のコメント欄には:

・誰も倒せなかった

・戦闘がリラクゼーション化した

・敵も回復された

・精神的に癒されすぎて集中できなかった

・仕上がりすぎて帰りに筋トレした


「うぅ……せっかくがんばったのにぃ……」

「私って、どうしていつも“元気”すぎちゃうんだろ……」


電車の窓に映る自分を見つめる。

逃げ出した乗客の反対側では、

小さな子どもが手を振っていた。


「バイバーイ! クマさんかわいい!」

「えっ、ありがと♡」


グリズリーの目に、ほんの少しだけ元気が戻る。

夕暮れの光が、その頬を優しく照らした。



X 締め


やがて電車が停まる。

駅のアナウンスが流れる中、グリズリーは胸を張った。


「でも……みんな元気だったもんねっ!」


金色のツインテールをぴょこんと揺らしながら、拳を突き上げる。


「低評価なんて怖くないっ!

 これからも――世界を明るく、元気にするわ♡」


ブォン、と風を切る音。

しっぽが誇らしげに揺れた。


そのとき、スマホがまた鳴る。

転職サイト《怪Works》からの通知――


ピロンッ♪

《✨面接のご案内✨

 怪人フォルムを解除して、楽な格好でお越しください♪》


「えっ、書類審査とおっちゃった♡」

グリズリーの目がまた輝く。


「次のお仕事も、がんばっちゃおっ♡」



🕊 次回予告


第21話  レオンとレン 泣いてもヒーロー


🌸昼下がりの園庭。

ベア先生の両肩に、今日も園児たちの笑顔が乗っかります。


順番を待つレオンくんは「ヒーローは泣かない」と自分に言い聞かせていたけれど、

小さな心はまだ、そんなに強くない。


やさしいレンくんとの約束が、彼の涙を“ヒーローのしるし”に変えていく。


――泣いてもヒーロー。

これは、幼い心が“やさしさ”を覚えていく日の物語。



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