第2話

 彼女と僕が恋仲になったからと言って、特に大きな変化はなかった。


 きっと昔からお互い好きだったのだろう。 



 一緒に登下校したり、勉強したり、遊びに行ったり。

 何も変わらない生活に僕は満足していた。


 

 ただ、二人の距離は着実に幼馴染のそれではなくなっていた。




 二人で歩く帰り道、僕たちは手を繋ぐようになった。

 反対の手にはサイダーが握られている。


 あの日以来、帰りにサイダーを飲むのも日課になっていた。







 季節はだんだん暑くなって、そしてだんだん寒くなった。




 ある冬の日、

「サイダーじゃないものが飲みたい。」

 と君が言った。



 君は自動販売機の前でそういうと、ココアのボタンを押した。


 相変わらずサイダーを飲む僕の隣でココアを飲む君が笑う。



 その日のサイダーは少し炭酸が弱く感じた。





 季節はまた巡って気づけば僕たちは高校三年になっていた。

 

 付き合ってからおよそ二年が経とうとしていた。

 気づけば僕も、別の飲み物を買うようになっていた。



 僕と彼女はずっと変わらなかった。変わっていないはずだった。

 いい意味でも、悪い意味でも。



 何も変わらない関係だった。

 ずっと。ずっと。そうなはずだった。





「今日はサイダーにしない?」


 

 彼女がそう言った。



 あの日、ココアを買って以来、一度もサイダーを飲まなかった彼女が僕にそう言った。


「おう」

 僕にはそう返事をすることしかできなかった。


「プシュ」とやる気のない音が響く。


 いつもは車通りのある住宅街なのに、今日はやけに静かに感じた。




「別れたいんだよね。」


 そう彼女は言った。




 なんとなく分かっていた。

 でも僕は、簡単に頷けなかった。


 きっと、それが彼女にも分かったのだろう。


「距離、置いてみたいんだよね。」

「長い間一緒にいすぎて、好きなのかよく分からなくなっちゃった。」


 彼女はそう言って笑った。



「そっか」

 僕は微笑み返すことしかできなかった。




「ーーーサヨナラ」


 そう言ってコツンとサイダーをぶつけ合った僕たちは別々の方向に歩き出した。

 僕は、振り返ることができなかった。








 それから、彼女が高校に来ることはなかった。


 僕はただ、空白の彼女の席を見つめていた。

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