あの娘とサイダー
日向陸
第1話
「わ、つめた」
彼女が僕の頬にサイダーをくっつける。
えへへといたずらっ子のように笑う君に僕は目を逸らす。
「なんだあ、いい感じじゃん」とか周りから囃し立てるクラスメイトの声が聞こえてくる。
僕は彼らから逃げるように教室を飛び出した。
ずっと幼馴染だった。
でも、いつからか、ただの幼馴染とは思えなくなってしまった。
遠足?体育大会?文化祭?
思い出せないくらい彼女との思い出はたくさんあった。
さっきから右手で汗をかいているサイダーを開ける。
「プシュ」と弾けた音がする。僕はそのアワアワを口に含みながら、
「ダテに生まれてから16年一緒にいるわけじゃないんだなあ。」
と笑みを零す。
「なにそれ笑」
知らぬ間に後ろからついてきた君が、そう言って笑う。
君はいつもそうだ。僕が一人どこかに行こうとしても、ついてきてくれる。
高校だって、同じところに進学した。
彼女と二人で帰るのも、小学生以来の習慣になっていた。
「なあ」
そう言って足を止めた僕に、君が振り返る。
肩の辺りで切り揃えられた髪がふわりと揺れる。
そこだけ時が止まったような路上で僕は彼女に告げた。
「僕、君のことが好きみたいだ。」
その言葉は気づかぬ間に口から飛び出していた。
「アハハ」
彼女は急に笑い出した。
「何?好きみたいって。」
「そゆとこ昔から変わらないね。」
そう言って目を細めた彼女が僕の方に一歩、二歩と歩み寄ってくる。
「私も、君のこと好きみたいよ。」
後ろ手で少し上目遣いになって笑う彼女は、いつもより頬を朱に染めていた。
「あーあ、私も喉乾いちゃった。」
そう言って彼女も手に持っていたサイダーを開ける。
さっきと同じように「プシュ」と軽い音が僕たちを包んだ。
「乾杯」
そう言って僕は彼女とサイダーを突き合わせた。
あの日のサイダーは、ちょっぴり炭酸が強く感じた。
その日を境に、僕と彼女はただの幼馴染ではなくなってしまった。
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