episode5


****


彼にフラれた時、私はすごく悲しかった。

問い詰めても彼は言葉を濁すだけであやふやな言葉しか返してくれない。どんなに話し合おうとしても煮えきらない彼。最後には頭に来てバッグでぶん殴ってしまった。

「まじクソ男!」

その日は友達と飲みながら元彼となったあの人の悪口で大いに盛り上がる。店で飲む方が好きな私だけど、友達に泣きながら電話したら家に呼んでくれたのだ。

持つべきものは女友達!

「あんなやつでも好きだったから頑張ったのにさ…。あーあ、男はしばらく懲り懲りだよ」

「んー、でもさ、あたしは良かったと思ってるよ。今言うことじゃないけど」

「え?そうなの?」

「うん…だってさ、アイツやばかったし。あたし、心配だった…」

別れてから聞く友達の本音。口には出さなくても本当に心配してくれてことが分かり、また泣けてしまった。




──3ヶ月後


「うーん!今日も良い天気!」

気持ちが良くて大きく伸びをすると大好きな人が隣で柔らかく笑った。


私は今、新しい恋をしている。


元彼のことは1ヶ月もあればサッサと忘れてしまったけれど、噂好きな友達が何かと情報を仕入れて来るから今じゃ酒のツマミにして笑い話にしてる。

そんなある日、妙なことを聞いた。

「あいつ、仕事辞めたらしいよ」

「へー、元々向いてなさそうだったし良かったね」

「あんたってホント、興味なくなると冷たいよね。でもでも、辞め方が変だったらしいの」

もったいつけて声を潜める。私もふざけて固唾を飲むような顔を作った。

「たぶんあんたと別れてすぐからだと思うけど、全然家から出てこなくなって、会社にも連絡してなかったみたい。で、同僚……ってあたしの友達なんだけど、その人が家に行ってみたら…」

寒いとでも言わんばかりに両腕を掴みさすり、表情を歪めている。

「なーんにも書いてない便箋みたいなの手に持って謝ってたらしいわよ。ブツブツ言ってたのは…あんたの名前だって」

何通もの封筒の中には白紙の便箋が1枚のみ入っており、中には小石や写真が同封されている物もあったとか。声を掛けてもそれらを見るばかりで返事をすることはなかったという。

テーブルに広げられたその手紙の山の前にいる彼は、謝りながらもどこか幸せそうだった、と目撃した人は語っていたらしい。

「バカっかバカしい。理想の私にでも会えたんだろうね」

笑い飛ばしその話を一蹴した私は、内心気味が悪くなり話題を変えた。


友達と別れ家に帰りポストを確認する。

「あれ?手紙だ」

差出人も宛名もない。用心してしっかり触ってみても、振ってみても危険物はなかった。誰かが別の部屋と間違えて入れたのかな?


「久しぶり。君に謝りに来たよ」


後ろから良く知る声がした。




~完~

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サヨナラが終わらない彼女の手紙 猫戸針子 @mopepesan

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