二年後〜シロ〜

レモン・イエローとセルリアン・ブルー

 扉を開けると、セルは床に魔法陣を描いていた。

 本を見ながら、慎重に円を描いている。

 ……きれいな円だ。けっこう上手な気がする。ぼくがそう思った矢先、

「あら、ずいぶんとちゃっちい魔法陣ね?」

 レモンの言葉にぼくはびっくりして、彼女を見た。レモンは腕組みをしてセルを見下ろしている。心なしか、大きく見える。

 あわててセルを見ると、彼は手を止めて、こっちを見た。

「……だれ?」

「うふふ、知ってるくせに」レモンはわざとらしく笑う。

「石職人の、セルリアン・ブルーさん?はじめまして?わたし、レモン・イエローと申します」

 レモンはスタスタとセルリアンに近づく。

「……人の家に入る時は、ノックぐらいしたら?」

 セルリアンは警戒心を隠さず、描きかけの魔法陣を背に、レモンに向き直る。

「あなたに聞きたいことがあるの」

 レモンは単刀直入に言った。

「チャコール・グレイがいなくなったのはわたしのせい、って、どう言う意味かしら?」

「あ?……ああ」セルはチラッとぼくを見た。

「なに、シロ、話したの?本人に?」

「え、えっと」

 ぼくはどぎまぎする。謝った方がいいんだろうか?

「まあ、いいけど」

 セルは、ふっと笑う。そしてレモンを見る。

「ちょうどよかった、俺も一度、あんたと話してみたいと思ってたんだ」

「……へえ?」

 レモンは余裕の笑みを崩さない。

「どういう意味って……よく聞けるね」

 セルが、少しニヤニヤしている。初めて見る、なんとなく嫌な感じの笑みだ。

「もちろん、そのままの意味だよ。だってそうでしょ?あんたと、カーマインってやつのせいだ。あんたらがいなかったら、チャコールは」

「……あなたがカーマインの何を知ってるの?」

 レモンの表情から笑みが消えた。

「知ってるさ。本人とも話したよ」

 セルは少しもひるまずに言う。

「……いつ?」

「チャコールがいなくなってすぐかな。カーマインは認めてたけどね?オレのせいだって」

「――カーマインは悪くないわ」

 レモンは淡々と、早口で言う。

「まあでも彼らしいわ。カーマインなら、自分が悪くなくてもそう言うでしょうね、自分のせいだって。優しいもの。

 ……で?あなたはそれで満足?わたしも、はいそうですわたしが悪かったですって言えばいいのかしら?それであなたは満足するの?」

 レモンはせせら笑う。「あなたこそ、あの時何もしなかったくせに?」

「――!」

 セルリアンの顔から笑みが消え、さっと赤みがさす。

「……何も知らないくせに、知ったような口きくんだな」

「その言葉、そっくりそのまま返すわ」

 …………沈黙が落ちる。

 怖い。

「……よくわかった。まあいい」

 セルリアンがつぶやき、引き出しから何かを取り出す。

 ぼくはハッとした。

 ――虚玻璃うつろばりだ。

 レモンは何か感じたのか、さっと、杖を自分の前に掲げる。

「セルリアン、駄目――」

 ぼくが声を上げるのと、

「その身をもって、心を映せ――」

 セルリアンが虚玻璃うつろばりをかざすのと、

くらき地のうねりよ、我が声に応えよ――」

 レモンが何か詠唱を始めるのと、同時だった。


 ドオオン!


 すごい音と地響きがぼくらを襲った。

「何!?」

 みんな、はっと入り口を見る。

 入り口の扉は壊され。

 そこから乳白色の、巨大な何かが部屋に侵入してきていた。

 なんだろう。ヘビ?

 なんかすごく大きな――イモムシみたいな形。

 体中に粘液がまとわりつき、ほのかな光を放っている。

 そいつはゆっくりとこちらに先端を向けた。

 その体の先端には、丸く大きな口があった。小さな牙がびっしり生えている。

「――ミルキーワーム!?」

 レモンが息をのむ。「こんな大きな――」

「ミルキーワーム?三層の――乳白の層のか?」

 セルの声にも驚きがにじむ。「なんでこんなところに――あっ」

 ミルキーワームは、ずるりと身体をうねらせ、床に落ちていた紫水晶にバクリと喰らいついた。

「まずいわ」レモンがつぶやく。「ミルキーワームの主食は鉱石よ、この家はエサの宝庫だわ」

「……冗談じゃない」

 セルが低い声でつぶやく。ミルキーワームを見据えたまま、虚玻璃を引き出しにしまい、鍵をかける。

「ミルキーワームの弱点はたしか――」

「乾燥、炎」レモンが続けた。「でも炎ははじくことがあるから気をつけて。消化液にも」

「了解」セルが机の上の石をひとつかみして、ミルキーワームをにらみつけた。

 ふと気づくと、ぼくは剣を握っていた。

 無意識のうちに出していたらしい。

 剣のつかを握る手に力をこめて、ぼくもミルキーワームを見つめた。

 今日はあまり剣の練習はできてないけれど、そんなことを言ってる場合ではなさそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る