第5話:わがまま美少女と救世主
翌日、昼休み。
放課後は生徒会が混み合うと考えたので、翌日、私は陽介との昼食の誘いを断り、昼休みを利用して生徒会室へと向かった。
残念ながら、こうした小賢しい考えを持つ者は私だけではなかった。生徒会室の前に着くと、見知らぬ金髪の女生が既に立ち番をしていた。
彼女も中に入るのだろうと思い、私は二歩下がって「お先にどうぞ」と示したが、彼女は奇妙な目で私を一瞥するだけだった。
「今、中には誰かがいるのよ」
私はうなずき、それきり視線を合わせるのを避けて沈黙を保った。ところが、彼女のほうから話しかけてきた。
「ねえ、あなたも部活のことで生徒会に来たの?」
「は、はい」
心事を読まれたように驚いてしまい、その隙に彼女の容貌を詳しく見ることもできた。
この顔と、あの金髪……間違いない。昨日、クラスまでやって来て悪戯に偽告白をした紫雲英菫の、あの動画を撮っていた相棒だ。
私の顔と背格好が極めて平凡なのが幸いして、彼女はこの無造作に話しかけた相手が、昨日自分たちが「傷つけた」当人だとは気づいていない。そうでなければ、これほど平然としていられる彼女の図太さはいったいどうなっているのか。
「じゃあ、あなたの部活も人数不足で廃部になるってこと?」
「ええ」
「本当に、今日部室に行ったらメモが置いてあって、人数が足りないから文化祭の後に廃部だって。3人じゃなぜダメなの? 3人でいいって書いてあったじゃない。何か心当たりある?」
「一応、最近最低人数の要件が5人に変更されたって聞きました」
彼女も私に重要な情報をくれた。廃部が執行されるのは文化祭後、10月末だ。つまり、あと1ヶ月ほどの猶予がある計算になる。
「そんな! なんでそんな大事なことを、私たちに相談もなく決めるのよ!」
「私に聞かれても…答えはわかりません」
「頭痛いわね。入学時点で精一杯勧誘しても5人集められなかったのに、今更どこから新聞部に来てくれる人を二人も見つけろって?」
「は、はは…そうですね…」
「新聞部がつまらないから、人が集まらないって言いたいの?」
「い…いえ、そんなこと」
「そうでしょう? 当たってるわよね。確かにつまらないし、誰も来たいと思わないんだから。でも私、記者が好きなのよ、どうしろって言うのよ!」
彼女は私の気持ちなどお構いなしに、ひたすら不平をこぼし続け、私がまったく抱いていない考えをあて推量で決めつけてくる。うんざりした。
「あんたみたいな人に友達がいないわけないだろ。悪戯に来た時のあの二人の友達に名前を借りりゃいいじゃん」
そう言って黙らせたい衝動に駆られたが、明らかに余計な一言なので、心の中のツッコミに留めておいた。
ドアが開き、一人の男子生徒が出てきて、私たちが中に入れるよう合図した。
「あの…お先にどうぞ」
「いいえ、結構。これが本当だってわかった以上、もう聞くこともないから」
そう言い残し、彼女は怒気を帯びて去っていった。そんなわがままて道理を弁えぬ人間が、よくまあ良い記者になれるものだ。まったく、彼女の部活に誰も入りたがらないのも無理はない。とはいえ、部活の運営や、適格な部長であるということに関しては、私も他人を非難できる立場にはないのだが。
ドアを開けて中に入ると、会長は机に向かい、何かの書類にサインをしている最中だった。
昨日、私の部室に廃部の通告に来た、ピンク髪のあの子もいた。会長の傍らで書類の整理を手伝っている。
「あの…来ました。天崎会長…」
「花壇同学! こんにちは、来てくれて嬉しいわ。ちょっとした処理があるの、一分待ってね」
会長は壁際の一列の席を指さした。そこに座ると、ピンク髪の女生と向かい合わせになった。彼女はうつむいて書類の整理に集中しており、私が彼女を見ていることには気づいていない。
彼女は相変わらず、似合っていない眼鏡と、奇妙な髪型をしている。私は昨日、彼女が眼鏡を外していた時の姿を思い出し、もし彼女の髪型が最近の女子高生に流行っているボブショートだったらどう見えるだろうと想像した。
おそらく、あの可愛いランキングトップ10の人たちも、自分の地位が危うくなると思うだろう。
突然、彼女が顔を上げ、彼女をじっと見つめる私の視線と合ってしまった。一瞬固まり、彼女の顔は激辛ポテトチップスを食べたかのように一瞬で赤くなり、私よりも恥ずかしそうに素早く顔を背けた。
「会長…これ、全て整理できました…」
「ご苦労様、葵ちゃん。一旦休憩してていいよ」
彼女の名前を昨日聞いたことを思い出した—錦南葵。むしろ、錦葵と呼んだ方が響きがいいかもしれない。
彼女は会長にうなずき、生徒会室から小走りに飛び出していった。まるで何か恐ろしいものでも追いかけられているかのように。どうやら、私がさっき彼女を見つめたことを、変質者の凝視と誤解し、同じ部屋にいることを恐れたらしい。
今、オフィスに残っているのは私と会長だけだ。
「大地君、女の子をじっと見つめて何してたの? エッチ!」
「なに?! ち、違う…ただ、彼女がそんなに速く走って、スカートを踏んで転ばないか心配しただけだよ。だって、彼女の制服のスカート、他の女生のよりずっと長いから」
「あら? 大地君がいつからそんなに細やかで気が利くようになったの? やっぱり変だわ!」
「いや…あなたの話し方と口調の方がずっと変だと思います。今はまだ学校内ですよ、会長。お忘れなく」
「もう~、もう葵ちゃんも帰したし、ここには誰もいないんだから、なんで校内敬語なんか使うのよ?」
「本題に入りましょう」
「嫌だ。私の名前で呼んでくれないなら、話したくない」
「なんでだよ! そんなこと、どうでもいいだろ」
「お互いの呼び方って、もちろん大事よ! 日本では、親しい間柄だけが名前で呼び合うんだから。大地君、私のことを親しいお姉ちゃんだと思ってないの?! お姉ちゃん、悲しい!」
案の定、紫苑先輩はまたしても私をからかうチャンスを掴んだ。
私が高校に上がって以来、子供の頃の印象にあった、いつも気高く優雅で、挙動も言葉遣いもお嬢様らしかった紫苑姉の姿は、他人がいる場面でだけ維持される「人設」になってしまった。
私と二人きりになると、彼女は劣悪で可愛らしい女子高生の本性を露わにしたかのように、自身の威力や他人の気持ちも考えず、私におてんばやいじめ(からかい)をふるってくるのだ。
いったい何に刺激を受けたのか、成熟して美しい先輩が、思春期の不安を抱える後輩に甘えるなんて。もし私たちが幼い頃から知り合いで、姉弟のように長く付き合ってこなかったら、おそらく私はこれを幸運と興奮で仕方なく思っていただろう。
「はいはい、紫苑姉さん…からかうのやめてくれませんか」
「うん、いい子ね。もう一回呼って」
「……はあ、天下一の姉御、天崎紫苑、最も好きなあなたの弟が、少し本題を話してもいいですか?」
「大地君、今私にプロポーズした? 嬉しい!」
私は彼女の机の前の椅子に座ろうとしたところで、びっくりして転びそうになった。
「紫苑姉さん、度が過ぎますよ!!!」
「ははは、ごめんごめん。最近ストレスが溜まってたから、大地君ともっと楽しみたかっただけなんだ。さあ、本題に入ろう」
「それは…紫苑姉さんが昨日言ってた、部活を救う方法って何ですか?」
「簡単よ。人数が足りないなら、今すぐ部員を5人に増やせばいいじゃない?」
「でも、昨日もう紫苑姉さんに、人集めが難しいって言いましたよね…新入部員以外の方法があるって、姉さん自身が言ったじゃないですか」
「ち・が・う・よ~」
彼女は人差し指を振りながら、意地悪そうに言った。
「私が言ったのは、大地君が『新入部員を募集する』のは難しいってことだけよ。でも、新しい部員が欲しければ、募集するしかないわけじゃないでしょ?」
「どういう意味ですか? まさか志願する人がいるって? ありえない…待って、まさか姉さんは…」
「その通り! お姉ちゃんが大地君の部活に入ってあげるよ。喜んで」
「そんなこと言われても…姉さんが入っても5人には足りません」
「大地君? お姉ちゃんがどこかの部活に入ったら、その部活がまだ人数不足で悩むと思う?」
この言葉は傲慢だが、確かに反論の余地のない事実だった。北木鶯学園で最も可愛く、人気と知名度で最高位に立つ彼女には、何か動きがあれば、数え切れないほどの人々が付いてくる。
もし彼女が本当に軍武部(ミリタリー部?)に入ったら、5人どころか、50人以上の人々が私に入部を申し込んでくるだろう。
「ダメです。そうしたら、変な人たちがたくさんうちの部活に来てしまいます」
「あらあら、大地君が心配なら、小陽も呼べばいいじゃない? それであなたは篭城して、全ての入部申請を断ればいいのよ」
彼女の言う通りだ。最終決定権は私の手にある。私が入部申請を断り続ければ、そのうち大概の人は来なくなる。
さらに紫苑と陽介本人については、彼らは学園の頂点に立つリア充で、普段はそれぞれ忙しいので、部室に来る時間はあまりないだろう。だから、彼らはおそらく名前だけのメンバーで、私の部室での快適な生活には何の影響もない。
「どう? この方法、いいでしょ?」
「わかりました。もし紫苑姉さんと小陽がそれでいいなら」
私はため息をついて折れた。そうしなければ、部活が「変質」するよりも恐ろしい結果——廃部を迎える。
「本当に聞き分けのいい良い子ね。ほら、これにサインして」
彼女は一枚の紙を私に差し出した。
「もう入部届を書いてあるの? いや…待って、なぜこれが『生徒会入会申請書』なんだ? 間違えてないか」
「間違ってないわよ。だって、大地君が私の助けを受けたのに、代償なしってありえないでしょ?」
「代償って、私が生徒会に入ること?」
「そう。私があなたを助けた代償として、大地君は生徒会の雑務係になるの」
「それは何の役割だ?」
「正確に言うと、生徒会の仕事を補助する仕事よ。例えば、掃除、飲み物やお弁当の買い出し、それに、私という会長の側に付き従ってお世話すること」
「それは使用人じゃないか!」
「うーん…執事って呼んだ方が聞こえがいいかもね」
私は部活を守るために、彼女に助言を求めに来た。正確に言えば、私の私的な縄張りであるあの物置部屋と、毎日の放課後の悩みのない、誰にも邪魔されない時間を守るために。
もし彼女の条件を飲めば、彼女が「主人と使用人」の立場を利用して、私を死ぬほどこき使い、私の空き時間をすべて圧迫してくることは容易に想像がつく。私の学園生活を完全に破壊してしまう。
そうなれば、むしろ本末転倒だ。
「嫌です。お断りします」
「えっ?! なんで? 廃部でもいいの?」
「もし私が同意したら、紫苑姉さんの奴隷になる。とにかく、嫌なんだ。それに、あなたがさっき自分で言ったじゃないか。あなたは会長だ。どうしてあなたの世話をしたがる人がいないなんて心配するんだ」
「もし公募したら、確かに数え切れないほどの人が来るわ。でも、彼らはみんな信用できない。私が信頼できる男の子は、小陽と大地君だけなの。小陽は忙しいから、他に何かをする時間なんてそもそもない。だから、お姉さんを助けてくれない? お姉さん、今すごくストレスが溜まっていて、誰かに世話をしてほしいの」
この女はほんとにたちが悪い。感情に訴えてくるなんて。
「それに、この仕事を引き受けることは、大地君の学生生活にもすごく役立つわ。単位が取れるだけでなく、大学の面接の履歴書にもプラスになるよ!」
そして現実主義的な考慮に戻ってきた?
「それに…私と一日中一緒にいれば、たくさん面白い光景を見られるし、青春感あふれる思い出もいっぱい作れるよ。男子高生の大地君、期待してないの?」
最後のこの手は何だ? 色仕掛けか?
「何を言われても、ダメなものはダメです」
「ええっ?! なんでなんでなんでなんで! 明明両方にとって良いことだろうに」
「だから、他に部活が廃部にならない方法はないんですか?」
「嫌だ嫌だ嫌だ! 私は大地君に一日中私の周りをぐるぐる回ってほしいの!」
私は信じられない思いで、もうすぐ成人する高三の女生が机に突っ伏して駄々をこね、小さな女の子のように私に甘えているのを見つめた。
彼女は全校一の美少女で、ハンサムで気の利く男子が側にいるのに事欠かない。昨日はドレスを着て、大人のように成熟していたのに。なぜ私にそんなことをするんだ?
ピラミッドの頂点に生き、周りにイケメン美女がひしめく天崎紫苑が、私に特別な感情を持っているなんて信じるくらいなら、地球が宇宙人に侵略されたと信じるほうがましだ。
単なる姉弟としての感情で、実は隠されたブラコンなのか? それなら、小陽を探せばいいじゃないか。
まったく、この女が何を考えているのかさっぱりわからない。私は心中ひそかに祈るしかなかった。
「お願いだ! 早く誰か来て、彼女を正気に戻してくれ!」
「会長、参りました」
背後でドアを押す音と話し声が、天の応答のように聞こえた。私はこの水火の中から救ってくれた来客を、感謝の気持ちでいっぱいになって振り返った。
「あら、風信子同学、こんにちは」
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