第4話:主人公の思い人



ゲーム機の接続された大画面テレビの前で、陽介と私は汗だくになってコントローラーを操作していた。


今、私は一日の中で最も心が試される試練と苦難——陽介というゲーム音痴との協力プレイ——を味わっているところだった。


プレイ前からネットの評価で多少の難しさは覚悟していたが、ここまでイライラさせるものだとは思わなかった。


スマホの時刻はもう夜の八時半近く。ゲームを始めてから九十分が経過している。


YouTubeやTwitchのゲーム実況者たちが平均二十分でクリアするプロローグに、我々はまる一時間も費やした。その後の三十分間は全て第一章の小さな关卡に注ぎ込み、それでもまだクリアの兆しすら見えない。


今の关卡では、陽介と私が操作するキャラクターが、互いに見える二つの分かれたレーン上を、ゴールへ向けて同期しながら走らなければならない。どちらか一方が、カウントダウンして爆発する爆弹を持っている。爆発までの時間はゴールに到達する時間よりも短いが、もう一方のプレイヤーに渡せば爆発までの時間はリセットされる。


つまり、クリアするためのおおまかな思路は、ゴールに着くまでの間、私と陽介で爆弹を投げ合うことだ。


难点の一つは、投げる・受け取るの精度。爆弹が地面に落ちれば即座に爆発しゲームオーバーだ。


难点の二つ目は、マップに多く仕掛けられた妨害である。爆弹の受け渡しを阻む地形やトラップ、投げるのを妨げる出現・消滅する屏障、そして爆弹を持ったプレイヤーに向かって突進してくる大量のモンスターなどだ。


二つ目の难点で彼が苦戦するのは仕方ない。彼のゲーム経験が少なく、この手のゲームの定石に慣れていないからな。しかし、バドミントンのエースである陽介なら、投げ合いや受け渡しの協力動作ではさぞ慣れたものだろうと思っていたのに、最も基礎的な最初の难点ですら、彼を苦しめていた。


何度も、彼の手からコントローラーを奪い取って、自分で二つのコントローラーを両手に持って二つのキャラを別々に操作した方が、陽介と協力するよりずっとマシなんじゃないかと思ってしまった。


陽介とは物心ついた頃からの腐れ縁の親友同士だ。汚い言葉や軽い暴力が飛び交うのも日常茶飯事の冗談のようなものなので、ゲームの进度を邪魔されたと文句を言ったり、実際にコントローラーを奪い取ったりしたところで、相手が気にすることはまずない。


だが、彼の額ににじむ汗、緊張した眼差し、震えるコントローラーを握る手を見るたび、その衝動は消えた。彼は確かに全力を尽くしている。問題は、彼が単純にゲーム音痴で、努力してもうまくいかないだけなのだ。


人類という種族は、全力を尽くしてもできないことが山ほどある。だが、才能がないと知りながら、前途多難だとわかっていても諦めずに続けることは、自惚れや時間の無駄だと見なされる危険はあれど、それでも尊重に値すると思う。おそらく陽介が今日のようなスポーツの実績と人気、多くの女子からの支持を得ているのは、単に「天賦の才」という一言だけでなく、彼がそういう人間だからなのだろう。


そして私は今、そんな人間である心境を失ってしまった。だからこそ、尊敬の念や、少しの羨望さえ感じてしまうのかもしれない。


突然、どこからか交響曲の音が聞こえた。私の音楽の趣味が悪く、クラシック交響楽をほとんど聴いたことがないので、何の曲かはわからない。


「悪い、電話がかかってきた」


案の定、陽介の着信だった。彼はゲームを一時停止し、コントローラーを置き、私に静かにするよう手振りで合図した。私は悪夢から解放されたようにその場にへたり込み、ようやく押し続けて痛くなった指を休めることができた。


「もう遅いから、そろそろ帰るよ。ゆっくり電話してて。次回また続きをやろう」


時刻を見ると、電車の運行残り時間は切迫しているわけではないが、決して余裕があるわけでもなく、あと三十分ほどしか陽介の家にいられない。私はさっさと家に帰ることにした。


立ち上がって鞄を手に取ると、陽介は私の腕を掴んで離さない。彼は通話の相手と簡単だが形式的な挨拶を交わしながら、床を見るように目配せした。どうやらもう少し座って待っていろ、ということらしい。彼はまだ諦めきれず、この关卡をクリアするまでは終わらせるつもりはないようだ。ならば最後まで付き合ってやろう。最悪、今夜は彼の家に泊まればいい。初めてのことじゃない。


私はBluetoothイヤホンを取り出し、ノイズキャンセリングをオンにし、長時間テレビ画面を見続けて疲れた目を休めるため、床に寝転がって一時的に目を閉じた。


イヤホンは幾度ものソフトウェア更新により、ノイズキャンセリング効果はかつてほどではなくなっていた。長期間使用による部品の経年劣化も一因かもしれないが、メーカーが売った製品をリモートで調整し、新型製品を推奨するのは業界では常識となっている。


ノイズキャンセリングを最大にしても陽介の話し声ははっきり聞こえるので、普段聞いている音楽を流して無理やり遮るしかなかった。


水樹奈々の美しい歌声と、所々に聞こえる陸上関連の話題らしき通話の声に混ざり、私の意識は次第に遠のいていった。


目の前で泣きじゃくる小さな女の子に、私は苛立ちを覚えた。彼女の髪を見て、さっき事務所でこっそり拝借したボランティアのお姉さんの花びら型のカラフルな髪留めを思い出した。私はポケットからそれを取り出し、全身ほこりだらけの少女に差し出した。


「このきれいな髪留め、あげる。もう泣きやんでくれる?」


「で、どうして……」


「だって泣き虫は嫌いなんだよ。恥ずかしいよ。嫌なことがあったらパパとママの所に行けばいいじゃん」


「で、でも……私、パパもママもいないの、うわぁぁん!」


なるほど、そういうことなら、もう何も言うことはない。私は彼女の前に歩み寄り、さっき持ってきたティッシュを渡すと、立ち去ろうとした。


「行かないで……行かないで……」


彼女は私の手を離さない。私は振り返り、手に持った髪留めを、もう固まりかけている彼女の髪に無理やり留めた。


「おい、起きろよ、起きろ」


陽介が私の頰を軽く叩いた。


「ん……」


「ったく、参ったな。十分ほど電話した間に寝落ちするとはよ。変な寝言も言ってたし」


私はあくびをして、体を起こし、伸びをした。


「悪い、午後の授業で先生に邪魔されたせいで、すごく眠くて。ところで、さっきの電話は何の用だったんだ?」


「陸上部の部長だよ。彼女の代わりに生徒会に予算の交渉をしてほしいって」


「陸上部か……お前はそこではただの部員だろ?マネージャーでもないのに、なんでそんなことまでしなきゃなんないんだ」


「考えりゃわかるだろ。姉貴が会長だからさ」


「ああ、紫苑姉さんか。姉さん、家にいる?」


私はゲームに夢中になりすぎて、廃部のことを会長に聞くのを完全に忘れていたことにようやく気がついた。さっきまで部活が大事だと言っていたのに、あっという間に忘れていた。私は自分で自分の頰を強く叩いた。


「なんで自分を殴ってるんだ?」


「別に。ちょっと頭を冷やしただけさ」


「そうか。姉さんは今日、父さんと晩餐会に出かけてて、帰りは遅くなるって。姉さんに用事か?」


「俺の部活のことで……生徒会と相談しないと」


「じゃあ、明日放課後、一緒に行こうぜ」


「わかったよ。じゃあ、続けるか」


私はコントローラーを拾い、再びゲームに集中する態勢に入った。


「いや、今日はここまでにしよう。もうくたくただ」


「じゃあ、さっき俺が帰ろうとした時、なんで引き止めたんだよ?」


彼は笑いながら床に寝転がり、座り上がった私も一緒に引き倒した。


「引き止めたのは、大事な話があるからだ」


「どんな話がわざわざお前の部屋で……まさかホモで俺に告白するんじゃないだろうな?前もって言っとくけど、俺の性別趣味は女だ。お前が相手でも同性愛はありえないからな」


「何言ってるんだよ! お前の妄想力には感心するよ。でも、一点だけ当たってる。確かに告白に関係ある話だ」


「………………」


「なんで黙るんだよ。ホモじゃないって言っただろうが、お前に告白するわけないだろ、安心しろよ」


「いや……ただ、恋愛とかそういうことに関しては、お前と俺は話が合わない気がするんだ」


「なぜだ?」


「だって、俺とお前は同類じゃない……っていうか、恋愛に関して、お前が考えるようなことは、俺に話したって何の役にも立たないからさ」


「いやいやいや、もちろんお前にも関係ある話だよ。まず答えろよ、クラスにお前が好きな子はいるか?」


「気になる子はいるかもしれないけど、好きだなんてことは絶対にない。それに、仮にいたとしても、どうということはないだろ」


「それは大事なことだよ。だって、俺が好きな女の子はクラスメートなんだ。もしお前が好きな子と同一人物だったら面倒だろ?」


「取り越し苦労だよ。仮にそうだったとしても、どうせ俺のことなんて好きになる人はいないんだから」


「でも、お前の気持ちだって大事だろ」


「もういいよ、心配ないって。俺に好きな人はいない。それと、お前が好きなのは風信子千樹って子だろ」


「え? なんでわかった?」


「だって隣の席だものな。だから俺も彼女を好きになるんじゃないかと心配してたんだろ。安心して大大方方に追いかけろよ。俺と彼女は何の関係もないから」


「ならいいんだけど。それなら何も心配することはないな。おっと、もう帰るのか?」


私は立ち上がり、鞄を背負った。


「電車の運行終了まであと一時間しかないんだ。もうゆっくり話してる時間はない。詳しい話はまた今度な」


「わかったよ、気をつけて帰れよ」


「あと、お前は根本的に勘違いしてる。俺のことを心配する価値はまったくない。お前が本当に心配すべきは、お前の幼なじみの方だ。長年離れ離れだったとはいえ、お前も彼女の気持ちに気づいてるだろ? じゃあな」


彼は返事をしなかった。どうやら、数年ぶりに突然転校して彼の元に戻ってきた「天降り」型の幼なじみは、大きな悩みの種になっているようだ。うまく処理できることを願うよ。


陽介家の豪邸の一階に降りると、陽介の母であり、私の母の大学時代の同級生である天崎理子が、別れの挨拶をしてくれた。この貴婦人は私の母と同じ趣味——中国のドラマを見ること——を持っている。大学時代、それのために二人で中国語を勉強したらしく、日本に輸入されていない作品を見るためだったという。今、彼女は出張ネイルサービスで足のネイルをしてもらいながら、日本語字幕のない中国ドラマを見ていた。


理子おばさんに別れを告げ、私は靴箱の前で腰を屈めて靴を履き替え、靴紐を結んで出ようとした。一度腰を屈めると、重力の作用で血液が頭に流れ込み、加えてさっきまでずっと座りっぱなしだったため、少し意識がぼんやりとした。さっき十分ほど居眠りした時の夢を突然思い出した。


あの女の子と、あの髪留めを。ここ数ヶ月、私はあの情景と女の子、髪留めの夢を何度も見ていた。


ただ、目が覚めた後、どう努力しても、女の子の顔や髪留めの様子を思い出すことはできなかった。ぼんやりとした子供の頃の記憶から、この夢の舞台が、十年前以上前、父がまだ軍隊に勤務していた時に仕事場に連れて行かれた場所らしいということしかわからない。具体的な時間や詳細はまったく見当がつかず、そんなつまらないことのために父に聞くのも面倒くさい。


考えているうちに両方の靴の紐を結び終え、頭を上げようとした。


突然、一隻の手が私の頭の上に落ちた。細い指が、乱れきった私の髪と、疎らな毛髪の間の地肌を優しく撫でる。


「もう、大地君、最近また夜更かししてゲームしてたでしょ?髪の毛、減ってるわよ」


私は頭を上げる動作を止めた。なぜなら、この髪を撫でる手の優しい感触、成熟していながらも青春の活力を失わない声、そして高級香水の心に染み入る香りから、誰だかわかったからだ。


「紫苑姉さん……お、おかえりなさい」


「よしよし、お姉さんが撫でてあげる、もっと髪が生えるようにね。そうじゃないと、若くして大地君がハゲちゃうかもしれないじゃない?」


「でも、俺の髪、脂でギトギトだし……」


「お姉さんは大地君のこと嫌なんかじゃないわ!ね、今からお風呂入らない?お姉さんが髪洗ってあげるよ?」


「もうからかわないでよ……」


「えっ!ひどいよ、小さい頃はよく一緒にお風呂入ってたのに」


「でも、もう子供じゃないんだよ。そんな話するのすごく恥ずかしいし……」


「ははは、ごめんごめん。でもお姉さんは永遠に大地君のこと構わないわよ。小陽に遊びに来たの?」


「はい。今、帰るところです」


「ごめんね、最近本当に忙しくて、せっかく大地君が来てくれたのに、一緒に遊んであげる時間がなくて」


「い、いえ……別に……」


彼女がようやく手を離したので、私はやっと頭を上げ、ずっとこの姿勢を維持して痛くなった腰を休めることができた。


私の目の前にいる、成熟した体躯、紫色のオフショルダーのドレス、腰まである長い紫の髪をしたこの女性こそ、陽介の姉、北木鶯学園生徒会長、そして三年連続で全校一可愛い女生と評される天崎紫苑だった。


彼女は靴箱からスリッパを取り出し、私の隣に座った。


彼女は優しく髪をかき上げ、男子すべてを魅了するであろう横顔を露わにし、優雅な動作でハイヒールを脱いだ。ネイルを施された足は形が良く、白く汚れがなく、足フェチではない私でさえ顔を赤らめずにはいられなかった。


「あ、あの……紫苑姉さんにちょっと相談したいことがあるんですが……」


「おや?何の話?遠慮なく言いなさい。お姉さんと出かけたいの?いいよ、構わないわ」


「い、いや、そうじゃないんです!学校のことで、今日生徒会の人に部活が廃部になるって通告されて……」


「なるほど、葵に会ったのね?彼女をあなたの部活に派遣したのは私よ」


「では、なぜ部活が廃止されなきゃいけないんですか?部活手册には三人いないと廃部になると書いてあるのに……」


「今期の新入生は新しいサークルを作る意欲が高いの。でも学校に残っている部屋が足りなくてね。だから会議で既存の部活の存続条件を厳しくすることを決議したの。ごめんなさい大地君、会長として新入生の意見を考慮しないわけにはいかないの」


「いえ……別に……わかりました。では、さようなら紫苑姉さん」


私は落胆して立ち上がった。もし規則が確かにそうなっているのなら、仕方ない。今更、短期間で新たに二人の部員を集めるのは完全に不可能だ。入学時の部活勧誘活動で私は四方にポスターを貼り、学校の掲示板や様々な北木鶯学生がよく利用するネットコミュニティで新入部員を募集して、やっと三人集められただけなのだ。


「待って、大地君、あなた自分の部活すごく大事にしてるんでしょ?」


「でも、短時間でまた二人集めようとするのは難しいです」


彼女は私の手を掴んで離さない。私は仕方なくうなずいた。


「今、もう一度十分な人数を集めるのは難しいかもしれないけど、大地君の部活を救う方法はまだあるわよ」


「ほ、本当ですか?」


「もちろん本当よ!急いで帰らないで、今から私の部屋に来て、お姉さんがゆっくり教えてあげる」


「すみません、紫苑姉さん、電車がもうすぐ止まってしまいます。どうしても帰らなければ」


もう一度スマホを見ると、時間は非常に厳しかった。


「えっ、大丈夫でしょ?後で運転手に家まで送らせるから?それか、うちに泊まっちゃいなよ?残念だけど両親と小陽が家にいるから、さもなければお姉さんが一緒に寝てあげられたのに」


彼女のその言葉は、私の逃げる決意をさらに固めさせ、私は外へ向かって走り出した。


「結構です!明日、生徒会室に紫苑姉さんを訪ねます!さようなら!」


「えっ?!じゃ、じゃあ、転ばないように気をつけてね!」


私は振り返らずに一気に駅のホームまで走り、息を切らしながら電車の到着を待った。


私はもうすぐ十七歳で、紫苑姉さんは成年に近い年齢だ。彼女は私を相変わらず子供のように扱う。全校一の美少女である彼にそう扱われることは、無数の男子が願っても得られない幸運かもしれないが、私にとっては、幸せというより、むしろ困惑の方が大きかった。なぜなら、どうあっても、幼い頃から一緒にいて、実の姉のように接してきたこの女の子を、愛することはできないからだ。


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