第50話 『優子の気まぐれクッキング』
第50話 『優子の気まぐれクッキング』
とある日の午後、柔らかな日差しがリビングとキッチンに差し込み、部屋の中に淡い影を落としていた。
信吾はコーヒーを淹れながら、ソファでテレビを観ている美沙に声をかける。
「今日はのんびりできるね。ここ最近、バタバタだったし。」
「ほんとね。カッピーもお昼寝中だし、静かでいいわ。」
美沙はリモコンを握ったまま、穏やかな笑みを浮かべる。
桶の中では、大の字になったカッピーが「クゥ」と短く寝息を立てていた。
――そのとき、インターフォンが鳴る。
「ん? 誰だろ。」
信吾が玄関に向かうと、映ったのは見慣れた笑顔だった。
「こんにちは〜。優子です〜。」
「……え? 母さん!?」
信吾は慌ててドアを開けた。
---
山之内優子
信吾と美沙の母。
信吾と美沙の父の茂夫との喧嘩の末、しばらく家を空けていたが、今は元気に帰ってきており、天然なところもあるが、家族想いの女性である。
---
「今日、他に行くとこらがあってついでに寄ったのよ。」
優子がそう言うと、
「だから、来る時は連絡してってば。」
信吾がツッコミを入れる。
「まぁいいんじゃない。お母さんらしくて。」
美沙が嬉しそうに言う
その二人の様子を見て、優子はにっこり笑う。
買い物袋には色々な材料が入っていた。優子はそのままキッチンへ向かい、冷蔵庫に材料をしまった。
「今日は久しぶりに、私が二人に夕ご飯作ってあげるからね。」
優子はもう一つの買い物袋を肩にかけながら、キッチンの流し台に手を置き、得意げに笑った。
「えっ、今日?それに母さん料理したっけ?」
信吾が驚く。
「失礼ね。毎日じゃないけど、してるわよ。」
優子は胸を張る。
信吾は少し嫌な予感を覚え、美沙は微笑みながらその光景を楽しんでいた。
---
――こうして、優子の気まぐれクッキングが始まった。
材料を取り出し、包丁や鍋を持つ優子。しかし、天然の失敗がいくつも続く。
人参を切ろうとして、半分だけ切れたところで手を止めたり、鍋に水を入れすぎて「うっかり〜」と小声で呟いたりする。
信吾が「あ、こぼれる!」と慌てて手を差し伸べると、優子は「大丈夫よ、大丈夫!」と笑って材料をかき集める。
美沙は笑いをこらえつつ、「お母さん、もう少し落ち着いて……」と声をかける。
カッピーはその様子に興味津々で、材料に顔を近づけたり、鍋のふちをつついたりして、場は自然に賑やかになった。
優子が「これ、どうやって煮るんだっけ?」
と一瞬戸惑うと、信吾が小声で「これは水から火にかけるんだよ」
と囁き、美沙が「お母さん、こっち焦げないでね」とフォローする。
そんなやり取りを繰り返しながら、夕食作りは進んでいった。
――優子達が作っていたのは、野菜たっぷりのカレーだった。
人参、じゃがいも、玉ねぎ、鶏肉がゴロゴロ入った鍋から、スパイスの香りと少し甘い香りが漂ってくる。
見た目は少し不揃いだが、家庭の味らしい温かみがあった。
「あれ?これって本当に食べられるの?人参皮付きで入れてたけど……」
信吾が心配そうに尋ねる。
「あれっ?そうだった?まぁ見た目はアレだけど、美味しいわよ。」
優子は笑顔で答える。
「まぁいいんじゃない。これもお母さんの料理ってことで。」
美沙が優しくフォローを入れると、優子はにっこりした。
「まぁ手際は悪いかもしれないけど、心はたっぷり込めてるの。」
天然だけど、愛情たっぷりのクッキングに、部屋は和やかな空気に包まれた。
---
やがて料理が完成。見た目は少し不格好だが、味は意外と美味しい。
家族で笑顔で食卓を囲む。
「そういえば、カッピーのご飯どうしようか?さすがにカレーは食べられないし。」
信吾がふと思い出す。
「あっ、忘れてたわ。カッピーはいつもキュウリばっかり食べてるでしょ。たまには他の物も食べないと。」
優子は冷蔵庫からカニカマ、カマボコ、そしてお刺身を取り出す。
「後、カッピーってお魚は食べるでしょ。今日はご馳走よ。」
優子はお刺身を小皿に並べながら、笑顔で言った。
色とりどりの刺身に、カッピーは小さな手を伸ばし、「クゥ」と鼻をひくつかせる。
「まぁ、別にきゅうりしか食べてない訳じゃないけどね。」
美沙がすかさず言う。
「いや、ぼくもお刺身が良いんだけど……」
信吾が羨ましそうに呟く。
「ふふ、あらそう。けっこうあるからあなた達も食べなさい。」
優子は自分たちの分もお皿に盛り付け、満足そうに微笑む。
三人は笑顔で料理を囲み、カッピーも嬉しそうに食卓のそばに寄った。
「料理って、人に喜んでもらうと楽しいわね〜」
優子の言葉に、信吾と美沙は微笑む。
カッピーも「クゥ」と短く鳴いて同意する。
「……まぁ……カレーとお刺身って組み合わせ、ちょっとアレだけど……」
信吾は笑いながら、少し照れくさそうに言った。
日常の温かさが、家族の笑い声とともに部屋を包み込んでいた。
---
窓の外には冬の柔らかな光が差し込み、部屋の中が穏やかな橙色に染まる。
家族とカッピーがともに過ごす、静かで幸せなひととき――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます