第8話 静かな制裁と、崩壊する熱狂
結局、俺の質問に対し美月は答えず逃げた。
そして翌日から、俺の「パーフェクト・ボッチ」としての日常は、皮肉にも、美月によって完璧な孤独へと引き戻された。
月曜日。
美月は俺の席に来なかった。俺がヘッドホンを装着しているわけでもないのに、彼女は一度も話しかけてこない。教室の隅の席にいる俺を、まるで透明人間のように扱っていた。
美月は、田中を含む陽キャグループとも以前ほど深く関わろうとせず、休み時間はただ窓の外を眺めている。その姿は、俺がぼっちだった頃の孤独とそっくりだった。
昼休み。田中が俺の机にやってきた。
「おい、篠宮。お前、相沢に何か言ったか?あいつ、今日、誰ともノエルちゃんの話してねぇぞ。お前と喧嘩したのかよ」
「…俺は、何も。ただ、あいつが俺を避けてる」
「避けてる?なんでだよ!あいつ、お前のこと推し活パートナーって呼んで、あんなに熱中してたのに」
田中は不満そうに俺を見つめた。
「お前の『ぼっち』が伝染したんじゃねえのか?お前と組んで、相沢まで孤立してるみたいに見えるぞ」
田中はそう言って立ち去ったが、その言葉が俺の胸に突き刺さった。美月は俺を避けることで、俺に『誰かと熱狂を共有する楽しさ』を奪われる罰を与え、そして自らも孤独を選んでいる。
その日の放課後。俺は自分の部屋で、美月と一緒に買ったノエルちゃんの限定ポストカードを眺めていた。
美月がいない。ただそれだけのことで、ノエルちゃんの配信を見ても、楽しさを共有する相手がいない。田中では、美月の深すぎる熱量を埋められない。
1人を楽しんでいた頃は、平穏な孤独を感じたが、今は違う。美月がいないこの孤独は、痛い。
俺の求めた「平穏な孤独」は、美月がいた頃の「誰かと共有できた熱狂」と比べて、あまりに冷え切っていた。美月がそばにいないという静かな制裁は、俺に美月が俺にとってどれだけ大切だったかを、痛いほど理解させていた。
俺は静かにため息をついた。美月が俺を避けることで、俺は美月という名の太陽の輝きを失い、俺は始めて美月への恋心を理解した。
推し活は、俺の『ぼっちの聖域』を壊したが、美月は、俺の『人生』を豊かにする最強の存在だったのだ。
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