第4話 ぼっちの席が、いつの間にか「最前列」に
月曜日。俺の学校生活の平和は、もう戻らなかった。
週末のノエルちゃんのリアルイベントでの熱狂は、現実の教室に静かな「異変」をもたらしていた。
教室に入るなり、俺はすぐに気づいた。視線だ。
いつもなら、俺の存在など風景の一部。だが、今日は違う。まるでスポットライトを浴びているかのように、周囲からの視線が俺に集まる。
その原因は、もちろん俺の席にいる相沢美月だ。
俺が席に着くと、美月は満面の笑みで、まるで当たり前かのように話しかけてきた。
「篠宮くん、おはよう!イベントで貰ったノエルちゃんの限定ポストカード、ちゃんとクリアファイルに入れた?あの角は折れやすいから要注意だよ!」
「あ、ああ、入れたけど…」
俺は小声で返すのが精一杯だった。なぜなら、その瞬間、教室の陽キャグループの視線が一斉に俺に突き刺さったからだ。特に、美月を密かに慕っているサッカー部のエース・田中は、眉間にシワを寄せている。
「な、なんで相沢さんが、あの篠宮と話してるんだ…?」
「もしかして、付き合ってんのか?いや、あいつ、今まで誰とも話したことないだろ…?」
俺の「パーフェクト・ボッチ」としての防御壁は、クラス一の陽キャ美少女が、世界共通の「推し」という最強の共通項を持ち出して、俺の席で親しげに話しかけるという行動一つで、完全に破壊された。
休み時間になっても状況は変わらない。
美月は「推し活パートナーなんだから、情報共有は必須でしょ!」と言って、俺の隣の席に椅子を持ってきて座った。俺の「ぼっちの聖域」だったはずの机の上が、今やノエルちゃんのグッズと、美月が持ってきた大量のイベント写真で埋め尽くされている。
「見て、これ!ノエルちゃんがドリンク飲んでるこの一瞬の表情!篠宮くん、この儚げな横顔、どう分析する!?」
美月はもはや、俺を「推し活の同志」として、熱く語り合う相手としか見ていない。そして、それがクラスメイト全員への公開処刑になっていることなど、微塵も気にしていないようだった。
「…美月さん、少し静かに…」
俺はついに意を決して小声で注意した。すると美月は、首を傾げて言った。
「え?だって、私と篠宮くん、推し活っていう共通の秘密があるんでしょ?学校でこそ、秘密を共有する仲良しって感じでいいじゃん!」
彼女は悪気なく、「秘密の共有」=「仲良し」という、陽キャ特有の恐ろしいロジックを振りかざした。
俺の「パーフェクト・ボッチ」という堅牢な城壁は、美月の天真爛漫な無意識の攻撃によって、今、あっという間に『推し活男女の密談所』という名の下に占拠されてしまったのだ。
そして、その日の昼休み。
美月は当然のように俺の机で弁当を広げた。その様子を見た田中が、ついに痺れを切らし、俺たちに近づいてきた。
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