恋よ来いよ

閒中

恋よ来いよ

「まじうちの好きぴ束縛系で〜」


じゃあさっさと別れろ、クソが。


「彼氏とランドでお揃いのチャーム買ったんだ〜」


速攻壊れろ、クソが。


昼休み、女子高生の興味ある話題は恋、恋、恋。

まじでウザいんですけど。

「ミカはまだ好きぴいないのぉ?」

カナがあたしを覗き込むと、ネイルや化粧直しをしてた周りの友達たちも興味津々に集まって来る。

まじでウザいんですけど。

「あー…田中。田中君。」

あたしが投げやりに答えると一瞬間を置いてみんながドッと笑い出す。

「田中!?まじウケる〜良かったね〜田中くーん!」

「何でそこで田中が出て来んの、あー腹痛いわ!」

「ちょっと真剣に答えてよ〜!」

みんなが教室の隅にいる田中を見ながらゲラゲラ笑っている。

田中はクラスに一人はいる物静かで特徴のない、クラスの集合写真の端に申し訳程度に添えられているような男子だ。

一人静かに本を読んでた田中はこちらを一瞥し、また難しそうな文字の羅列した世界に視線を戻した。

あたしがふざけて言ったと思ってんだろコラ。

まじで好きなんだからな、田中。

これは乙女なあたしの精一杯の告白なんよ。


実は、田中はヒーローだ。


仮面ライダーみたいに顔を隠し人知れず悪を倒す都市伝説的なヒーローで、ネットには目撃情報もあるけど素顔は誰も知らない。あたし以外は。

あたしは中学生の時に悪者に襲われたところを、そのマスク・ド・田中に一度助けられたのだ。

その時は田中の事は知らなかったけど、高校で一緒のクラスになった時に一気にあの時の気持ちが膨れ上がったって訳。

何で田中がヒーローだと分かったのかって?

だってあたしを助けた時、あいつ学生証落としたんだもん。

かく言うあたしもあの時はテンパって財布落としちゃったんだけどね。Wでウケる。


そんな密かな恋心を抱きながらも遠巻きに告白してしまった今日の放課後、何と田中と誰もいない教室で偶然エンカウントしちゃった。

ウケるんだけど。いやウケない。

「あーゴメン、さっきの事怒ってる?別に揶揄った訳じゃないんよ。あたしは別に田中の事気にしてなんか…」

なんて言い訳してたら「川村さん。」と、田中が表情を変えず口を開いた。

え、まさか田中から告白される?

ウケるんだけど。いやウケないっつーの。

だがその後続いた田中の言葉はあたしにとって青天の霹靂?ってやつで、とにかくあたしに衝撃を与えた。

「川村さんって、あの巷で話題の、魔法少女ミカリン、ですよね?」


……………は?


思わず時が止まった。


いや、やってるけど。

何か違う世界の奴らに選ばれて中学の時からやってっけど。何で田中が知ってんの。

変身してフリフリキラキラのコスチュームに身を包んで魔法の必殺技を悪者にかましてっけど。

ちょい待て待て待て待てよ、田中待てよ。

「いやいや田中だってヒーローでしょ!?顔隠してさ!」

思わずあたしが叫ぶと田中もフリーズした。

「何で知ってるんですか………。」


あたしらはお互い確認した。

あたしが田中に助けられた中学生のあの日、あたしは魔法少女に変身して敵と戦ってたんだけど、割と強くて大ピンチかましてたところを仮面ライダーもどきに変身した田中が助けてくれた。

んで、二人とも戦いに夢中になってたら学生証と財布落としてお互いが拾い合い、お互いの素性を知ったのだ。

やべー財布に入ってたわー学生証入ってたわー。

「いやまじ勘弁…フリフリキラキラの決めポーズ田中に見られてたのまじ恥ずい…。」

「いや僕も何か厨二病みたいな格好良い感じの決め台詞言っちゃったし…何かすいません。」

あたしらはお互い気まずく俯く。


いや!こんな事であたしの恋心は萎えないんよ。

変身した田中が格好良いのは知ってるんよ。

あのクールさ!普段の田中を知ってるから何つーの?ギャップ萌え?それそれ。

「…ちなみにさ、田中が変身した時の名前ってあるの?仮面ライダー何とかみたいな。」

あたしはこの気まずい空間を切り裂く為に話題を振った。


「ありますよ。漆黒の翼・タナ仮面。」


「いや、くそダセェ!!!!!」

あたしは思わず叫んでしまった。


「あ、ちなみに彼女いるので、昼間の告白は丁重にお断りさせていただきます。」


田中のあまりにもダサいネーミングセンスを咀嚼する間もなく、あたしの恋心の砕ける音が、夕方の校舎に響き渡った。


恋なんて来ねぇよ、クソが。





〈終〉

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恋よ来いよ 閒中 @_manaka_

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