第12話 休日でも部活動

アレクモールに着き、リアラはモール内で口をパクパクしていた。


「マジで色んな店が並んでるな……。しかも、このマップを見る限り、三階にゲーセンもあるぞ!」


 ゲームセンターの位置を発見し、目を輝かすリアラ。リアラとゲームの組み合わせを聞くと、あの時の惨敗した記憶が……。


「ゲームセンターはまた後でね。今はリアラの服買いに行きましょ」


「それじゃ、服買ったら絶対にゲーセンに行こうな! 天宙界にはゲーセンなんて無かったから、楽しみすぎるぜ!」


「あんまり、ハメを外すなよ。ゲーセンで遊んでるとすぐに、財布の中空っぽになるからな」


「それは、弱い奴だけだろ。私みたいに、強いゲーマーは負けないから、ずっと遊んでられるんだよ」


「ゲーセン来たこと無いって言ってたのに、なんでアーケードゲームのルールは知ってるんだよ……」


 リアラが早く服を買って、すぐにゲーセンへ行きたいと言うので、みらいを先頭に俺達は二階にある服屋に向かう。モール内は休日ともあって、人がごったがえしてはいるが、幸い服屋の中は空いていて、すんなり入る事ができた。


 すると、店員の一人が話しかけてくる。


「お客様、何かお探しでしょうか?」


 営業スマイルを携えつつ、俺、みらい、リアラを一瞥すると、何を勘違いしたのか、とんでもない発言が飛んできた。


「娘さん、可愛いですね。もしかして、娘さんのお洋服をお買い求めで? これとか似合いますよ」


 近くの棚にあった、服を取り出してリアラの身体に合わせる。


 いや、まぁ側から見れば親子に見えなくもないのか……。リアラの身長が低いせいで、そう見えたのかも知れない。そうなると、父親は俺で、母親は……。


「娘じゃねぇ──」


「服をオススメしてくれるのはありがたいんですけど、自分達で決めますので。行くわよ」


 サッとリアラと店員の間に入り、みらいは腕を引っ張っていく。


「良いのか? 店員を蔑ろにして」


「良いのよ。店側はあれよこれよと、様々な物を買わせようとしてくるから、一々構ってられないわ」


 そのまま、試着室の前まで行き、みらいはリアラの腕を離した。そして、一息つくと。


「よし、夏帆と千明君はいないけど、これから部活を始めるわよ!」


「はぁ〜!? ミキ何言ってんだ? 私の服買いに来たんだろ。何で部活が始まるんだよ!」


 リアラの声に、周りのお客さんやさっきの店員がチラチラと、こちらを見てくる。だけど、今回はリアラだけじゃなく俺も驚いた。いきなり部活って何だ。


「ほら、今回の相談で夏帆が言ってたじゃない。見た目が大事だって。本当は、演劇部か夏帆に頼んで服を借りようとしたんだけどね。今ってちょうど服が試着出来る場所にいるじゃない? なら、二人不在だけど、部活をしようと思ったわけ」


 これ、部長命令だからと後押しされ、半ば強制的に部活動が始まった。


「わたしと祐で服を選んでくるから、リアラにはそれを着て、どっちが良かったか決めて欲しいの。テーマは告白時の服装ね」


「俺も選ぶのか? あんまりファッションとか詳しくないぞ」


「良いの良いの。こういうのはフィーリングで決めちゃってもね。後、選ぶだけじゃないわよ。祐にもわたしとリアラが選んだ服を、着てもらうから」


「あぁ、そう……。今回は服を選ぶだけの簡単な、作業だと思ってたのに、結局俺も試着するのね……」


「当たり前じゃない。相談して来た人は男性なのよ。リアラより祐の方が適任だもの。でもまずは、リアラからね」


 リアラに似合いそうな服を探しに、みらいは店の奥へと行ってしまった。一応採点があるって事は、これは、俺とみらいの勝負って事なのか? そう考えると、負けたくない気持ちも出てくる。


「ミキの奴、随分と張り切ってるな」


「服選びとか好きだからな。さて、俺も探しに行ってくる。知らない人に話しかけられても、付いて行くなよ」


「付いて行くわけねぇだろ! 子供扱いすんな。そこまで言うんだ、さぞかし私に似合う、服を持ってくるんだろうな」 


 フっと鼻で笑い背中で、当たり前だろ、と語った。絶対にリアラには、伝わってないと思うけど。


 カッコつけたは良いものの、俺はみらいと違って、ファッションには疎い。なら、みらいの言った通りフィーリングで見つけてやる。


 マネキンや棚に入っている服を観察する。昔、みらいに聞いた話だが、コーディネートに困ってるなら、マネキンが着ているのをそのまま着れば良いとアドバイスを貰った事がある。だが、どれも大人サイズで、とてもじゃないがリアラには着れそうにない。仮に着れるサイズがあったとしても、それでは、みらいには勝てないだろう。俺は勝ちを狙っているのだ。


 決まらないまま、店の中を歩いて行く。そこで、ある服が目に止まった。

 

「これなら、勝てるか……?」


 俺とリアラが試着室前に戻り、自分らが選んだ服を渡す。


「最初はわたしが選んだのを、着てもらおうかしら」


「おう! じゃあ着てくるから待っててくれ」


 リアラが、試着室に入り数分。ようやく、試着室のカーテンが開かれた。


 みらいが選んだのは、緑を基調としたワンピースだ。肩が一部露出しており、リアラの可愛さを際立たせている。


「わたしが選んだ甲斐あって、とても似合ってるわね」


 スマホを取り出し、パシャリと一枚撮る。


「何でいきなり撮るんだよ!」


「リアラと初めて遊びに来た記念と後で夏帆と千明君に送ろうかと思って」


「そうか! 恥ずかしいが、そういう理由なら仕方ないな。許す!」


 リアラも着慣れない服を着て、恥ずかしかったのか、少し頬に赤みがある。こうして見ると普通の女の子だな。


「祐も似合ってると思うでしょ?」


「ん? そうだな。そういうワンピースも結構似合ってると思うぞ」


 俺の発言の後、リアラの顔は少しどころでは無く、結構赤くなっていた。まるでリンゴみたいだな。


「な、な、な、ユウ。な、何て小っ恥ずかしい事言ってるんだよ! そ、そういうのはな、彼女とかに言うもんだぞ!」


「何を恥ずかしがってるんだ。お前は……」


「は、恥ずかしがってねぇし!」


 ふん! っと顔を逸らされてしまった。何でだよ……。


「祐、口説いちゃダメよ」


「ねぇ、さっきの聞いて、口説いてると思ったの!? そもそも、みらいが感想を求めたんだよな」


 俺のツッコミに、アハハと笑うみらい。リアラはリアラで、まだ恥ずかしがってるし、何でこうなった……。


 恥ずかしがってるリアラを落ち着かせる為、少し休憩を取った後、部活動を再開させた。


「次は祐が選んだ服ね。どんなのを選んだか、楽しみだわ」


「今回は結構、自信があるんだ」


 何せ、採点するのはリアラだからな。


「これって、マジか!」


 試着室の中にいるリアラが声を上げる。俺が選んだ服を見て、かなり驚いているらしい。


「リアラがあんなに驚くなんて、一体どんな服を選んだのよ」


 そして開かれる、カーテン。リアラが着ていたのは、桃色のラインが入った、黒いシャツ、スカート、それにジャケットだ。その全てにあるマークが付いている。


「確かに祐が選びそうな黒い服だけど、このコーディネートでわたしに勝とうと──」


「勝者、ユウ!!」


「えぇ!?」


 だと思った。審査員がリアラの時点で俺の勝利は決定していた。何故なら俺が選んだ服は。


「この服はな、サンクチュアリ・ブルームのコラボ作品なんだ。しかもリアラが大好きだと言っていた、星野莉菜モデルなんだよ」


 昨日、サンブルをプレイしといて良かった。一応星野莉菜だけは攻略出来たからな。その時に色々学んだんだ。相手の事を考えて行動しろって。


 リアラならこの服で絶対に、俺を選んでくれると信じてた。


「なるほどね。リアラの好みに合わせたって事か。これは、わたしじゃ勝てないわ」


 パシャリと、みらいは俺がコーディネートした服を着るリアラを撮る。


「うん。それじゃこの写真夏帆と千明君にも送るわよ。ついでに二人にもどっちが良いか、選んでもらいましょうか」


 メッセージアプリを開き、雑談部のグループに、みらいがさっき撮った写真と共にメッセージを載せる。部活の一環で、どちらのリアラの方が似合ってるかの旨だ。すると、ポケットに入れているスマホから、みらいが送った写真とメッセージの通知音が鳴った。


 グループを見ると、すぐに既読が付き、白河からメッセージが送られて来た。


『えっと、僕的には緑色のワンピースですかね。伯氏さんの相談の内容が、自信を持って告白したいですから、黒い服より、明るい緑の服の方が良いかと思います。あ、でも伯氏さん男なんですよね……』


 これでメッセージは終わっていた。


「やっぱり千明君は、分かってくれたわね。後は夏帆だけなんだけど……」


 少し待っても一向に、九重先輩の既読が付かない。やはり忙しいのだろう。


「今は既読付かないし、次に進みましょ。今度はわたしとリアラが祐の服を選んでくるわ」


「ちょっと待て、私はユウとミキが選んだ服買って、早くゲーセンに行きたいんだが」


 少し意外だ。てっきり、気に入った方の服だけを買うものとばかり思っていたが、どうやら両方買うらしい。


「リアラ、今は部活中よ。部長である、わたしの言葉は絶対。いいわね?」


「うぅ……。ここで反抗しても、無駄に時間が流れるだけか。しょーがねぇな。ユウに似合う服をえらんできてやらぁ!」


 俺に似合う服を選びに、リアラが駆け足で店内を回って行く。その後、店員に走っている所を注意され、肩を落としながら歩いて行く背中を俺は見送った。


「店内で走るから注意されるんだよ……。で、みらいは探しに行かないのか?」

 

「実はね、リアラのを探してる途中に、祐のも見つけておいたのよね。だからわたしはここで祐と一緒に待機」


「そうか。仕事が早い事で何よりだ。さすがは部長だな」


「ねぇ、祐……」


 少しトーンを落とした声で、語りかけてくる。


「わたし、祐から──」


 その直後、スマホから通知音が鳴る。先程のメッセージを見た九重先輩から送られてきたんだろう。俺はスマホを取り出し、メッセージアプリを立ち上げる。案の定九重先輩からだった。


『千明さんと同じで、ワンピースの方を。黒一色のコーデでは相手方に、安易さが伝わってしまいます。服装に無頓着な人と思われる可能性がある為、黒一色は避けるべきかと』


 審査員がリアラだけじゃなく、白河や九重先輩もいたとしたら、このコーディネートバトルは俺の負けだったな。あと結構、九重先輩の言葉が響いた。黒一色って他人に安易さとか伝わるんだ……。黒なら上下何でも合うし、よく着てるんだけど、これからは少し避けよう。


「九重先輩も、みらいの方を選んだか。これは、試合に勝って、勝負に負けたって所か」


「…………。そうよ。祐が卑怯な手を使わなかったら、負けなかったんだから」


「卑怯な手って、一応この店にあった服なんだが」


 これで良い。みらいが言いかけた言葉は、何となく察しが付く。だから俺は、タイミングよく鳴った着信音に紛れて、聞こえなかった振りをする。


「よ、待たせたな。私なりにユウに似合う服持ってきてやったぜ」


 楽しそうな笑顔で、リアラが戻ってきた。


「ちゃんと、まともな服を選んできたんだろうな? 一応テーマは、告白する時の服装っていうのを忘れてないよな」


 そんなの無視して、勝利をもぎ取ろうとした俺が言うのもなんだがな。


「当たり前だろ。私が告白された時を想像して、選んできたからな。とりあえず着てくれよ」


 服を渡された後、試着室に押されカーテンを閉められた。一体、どんな服を……。


「あいつ、ふざけてるだろ……」


 渡された服を広げてみると、カラフルなアロハシャツに、紺色のデニムパンツ。それに加え、星型のサングラスも用意されていた。


 いや、もしかしたら本気で俺に似合うと思って、選んだ可能性もある。ここで着ないのは、リアラに悪いか……。


 そう思い、とりあえずこのアロハ一色を試着する。


「全然似合ってなくね? もはや、笑いを取りに行ってるだろこれ……」


 試着室に設置してある鏡で、自分の姿を見て確信した。アロハシャツだけなら、そこまでだと思うが、星のサングラスがいい味を出していてる。笑い待ったなしに違いない。


「ねぇ、まだ?」


 と、試着室の外からみらいが呼び掛けてきた。少し、時間を掛けてしまったらしい。着るのよりも、今の格好を理解する方にだが。


 呼ばれたし、そろそろお披露目といくか。カーテンに手を伸ばし開いた。


「…………」


「…………」


 思ってた反応と全然違っていたんだけど……。何でこんな無言なの。せめて何か一言ぐらいあっても良いと思うんだけど。てか、みらいはともかくリアラが無言なのは納得いかん。この服お前が選んだんだろ。


「あの……」


「次、行きましょ」


「悪いユウ。似合うと思って持ってきたんだが、これは無いわ」


「…………」


 ねぇ、泣いていい? 俺だって似合ってないとは分かってたけどさ、そんな無言になるほどなの?


 この、なんとも言えない空気に撃沈していると、無言でみらいが服を手渡してきた。とっととこれに着替えろという圧を感じる。 


「すぐ試着してくる……」


 肩を落としながら試着室に戻ると、目の前にある鏡が俺を写す。アロハシャツを着て、星のサングラスを掛けてる変人を。


「…………」


 売り物の為、丁寧にアロハシャツとデニムパンツを脱ぐ。それを邪魔にならないよう横に置き、みらいから受け取った服を見た。


 みらいが選んだにしては、普通のコーデだ。白シャツに黒のボトムス、それから水色の薄いジャケット。いつも俺が着てそうな服装だ。


 鏡を見て、別段変な所がない為、カーテンを開ける。


「うん。やっぱり祐には、そういう服装が似合ってるわ。清潔感があって、告白される側も嫌な印象を持たないでしょ」


「確かにな。さっきのは私がバカだった。お詫びにその服は私が買ってやる」


「そんなに酷かったのか……。てか、買ってやるって、自分のも二着買うんだろ? 金足らなくならないか?」


「それは問題ないぞ。金には全く困ってないからな」


 そう言って、財布を取り出し俺達に見せてくる。


「こんなに持ってきたのね。落とさないように気をつけなさいよ……」


「パッと見ただけで、六桁以上あるな……」


 かなりの万札が、びっしり財布の中を埋め尽くしていた。


「だろ。だからユウのも買ってやるよ」


 俺は少しの思考の後、その申し出を断る。


「俺だって別に金には困ってないし、自分で買うよ。それに新しい服買おうと思ってたし、ちょうど良い」


「そっか。ユウが良いっていうなら、良いか」


 リアラは納得し、購入する服を手に会計に向かう。


「それじゃ、先に買ってくるわ」


 分かったと返事を返して、元の服に着替える。


「着替えちゃうのね。そのまま購入して、着ていけば良いのに」


「新品の服だしな。一度洗ってから、ちゃんと着たい」


 新品の独特の匂いが、あまり好きじゃないんだよな。これ、俺だけじゃないはず。


「俺も買ってくるから、店の外で待っててくれ」


「入り口近くで待ってるから。すぐ来なさいよ」


 みらいの返事に頷きを返し、会計の列に並びに行く。

 

 ついでに、アロハシャツ諸々はこれを選んできたリアラに任せて返させた。どこの棚に置いてあったか、分からなかったしな。

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