第13話 天使、ゲーセンにて遊ぶ
リアラの服も買い、次は三階にあるゲーセンに向かった。UFOキャッチャーやアーケードゲームなど、豊富な筐体が並んでいる。
ちなみに、俺のも含め、買った服はリアラの多次元収納ボックスに入っている。手も空くしマイバッグなんて必要なくて、ほんと便利だ。
「うっひょおぉ! ゲーセンだ! 色んなゲームがあるぞ! ここ、こそが天国なのかもしれないな」
本物の天使が、ゲーセンを天国とか言って良いのかよ……。
「最初はアーケードから遊ぼうかと思ったんだが、私負けないし、それだけで時間が潰れるのも勿体無い。なら、最初はこれだ!」
UFOキャッチャーの前に行き、金を入れる。五百円で六回プレイでき、一回分得をする為、もちろん五百円玉を投入したリアラ。狙うは、大きめの猫のぬいぐるみ。
まず一回目、アームを動かし、ぬいぐるみの頭上へ。そのまま力強くボタンを離し、アームがぬいぐるみを掴み、持ち上げる。そこまでは良かったんだが、やはり確率機。そのまま、アームの力が弱く落ちてしまう。
「やはり一発じゃ、取らせてくれないよな。分かってたさ。その為の五百円じゃ!」
二回目、三回目とアームはぬいぐるみを、落としてしまう。
「これで四回目。中々に粘るじゃねぇか。私の抱き枕にしてやろうって言うのに、強情な奴だ。ミキ! 選手交代だ。この猫取ってくれ」
「わたし、クレーンゲームとかやった事ないわよ」
「私だって今日が初めてだよ! でも、この手のアームはな、フィギュアを取る時と違って、確率で強弱が決まるんだ。だから誰がやっても、取れる時は取れるし、取れない時は取れない、運なんだよ。そう、動画で言ってる人を見たから間違いない」
「なら、取れなくても文句言わないでよ」
みらいがリアラと変わり、UFOキャッチャーの前に立つ。残り挑戦数は三回だ。果たして取れるのだろうか。
「えっと、まずは、横に動かすボタンっと……」
位置が間違わないように、慎重にボタンを長押しする。ぬいぐるみの近くに行った為、ボタンを離し、今度は前に行く方を押す。
「これで、良いのよね?」
ぬいぐるみの真上にアームが行き、ボタンを離す。
俺はみらいの真剣な表情の横顔を見つつ、ぬいぐるみが落下口に落ちるのかを見守った。
「あ……」
惜しい、落下口の近くまでは行ったのだが、ちょっと手前で、アームからぬいぐるみが落ちてしまった。
「くっ! ミキでもダメか。なら今度はユウがやってくれ」
「俺もか……」
やっても良いと言うなら、断る理由はない。俺はみらいに、ドンマイと声を掛け場所を交代する。
「中々取れないものね。ゲームセンターが儲かる訳だわ」
「いや、上手い奴は二、三回でフィギュアとか取るし、そうとも限らないけどな。っと……」
話していて、危うくぬいぐるみを通り過ぎる所だった。クレーンに掴ませずに終わったら、リアラからどんな文句を言われるか。
一応、ぬいぐるみの真上まで来た。後はボタンを離すだけだ。ここからは確率次第、どうなる?
「すげぇぞユウ! よく取れたな!」
無事、落下口に落ちて猫のぬいぐるみを取ることが出来た。五回目でアームが強くなり、落ちずにいられたのだろう。運が悪いと、五千円ぐらい持ってかれる時があるから、引き時は考えないといけない。
「まぁ、運が良かったんだろう」
取り出し口から、猫のぬいぐるみを取り出す。
取った猫の顔をよく見ると、人を小馬鹿にしたような、それでいて可愛げのある表情をしている。縦長に長いので、リアラも言っていたが、抱き枕としても使えそうだ。
「可愛い顔してる猫だな。私にも抱かせてくれ」
その手を、俺に向けてくる。この猫のぬいぐるみを渡してくれと。その姿が、あの時の──
「…………いや、家に着くまで俺が持っておきたい。このぬいぐるみの感触を、今日だけでも味わいたいんだ」
何だか、変な事を呟いてしまった気がする。頭が働かず、ただ、これを今リアラに渡すのは嫌だとそう思った。
「んあ!? いやそれ、私の金で取ったんだんだから返せよ。私だってその猫をモフりたいんだよ!」
こんな意味不明な理由じゃ、リアラが納得する訳もなく、俺からぬいぐるみを奪い返しにくる。手を伸ばし、ぬいぐるみを掴もうとした瞬間、みらいが俺とリアラの間に割り込んで来た。
「リアラ、ぬいぐるみを取れたから忘れてるかも知れないけど、後一回プレイ出来るわよ」
筐体を見ると、後一回プレイ出来ると表示がされていた。だが後、数秒の内に押さないとクレーンがそのまま下に降りてしまう。
「そうだった! 後一回分出来たんだった!」
リアラは筐体の前に戻り、最後の一回をプレイし始めた。
「…………」
「祐、それを渡して。わたしからリアラに返してあげるから」
「俺が渡しても、何も起こらないよな……」
自分の声が、震えてるのが分かる。
それを分かってか、みらいは、空いている俺の手を取り。
「何も起こらないわよ」
と、言ってくれた。それだけで俺は、さっきまでの不安が嘘だったかのように消えて、ぬいぐるみをみらいに渡していた。
「あぁ、やっぱり取れなかったか……。UFOキャッチャーは甘くねぇな」
「はい、リアラ。祐はこの子を味わい尽くしたから、返すって」
みらいの手からリアラにぬいぐるみが渡る。リアラはぬいぐるみを受け取ると、怪訝そうな目でこちらを見てきた。
「味わい尽くしたって、わたしのニャンスケに何もしてないよな? ただ、モフってただけと言え!」
「ニャンスケって、それの名前が?」
「ぬいぐるみだからって、名前付けないの可哀想だろ! それでどうなんだ?」
「……少し触ってただけだ」
「そうか、なら良し! 舐められたりしてたら、ぶん殴ってる所だったぜ」
リアラはようやくモフれると、両手でむぎゅーっとぬいぐるみを抱いた。腕の圧力でぬいぐるみの身体が形状を変える。
「なぁみらい、少し一人で回ってくるから、リアラのこと任せて良いか……?」
昔の事を思い出して、取り乱すなんて……。今はとにかく一人になりたい。
「うん」
短めの返事を聞き、俺はこの場から離れた。目的がある訳でも無く、数あるUFOキャッチャーの景品を見ながらゲーセン内を歩き回る。
ふと、ある景品が目に止まった。紫花をあしらった髪留めだ。結構凝った作りであり、UFOキャッチャーの景品にしては珍しいと思う。筐体の内側に、貼り紙があり読んでみると、どうやらこの髪留めは従業員のハンドメイドらしく、非販売のようだ。
「…………」
自然と、この筐体に百円を投入しプレイしていた。
一回だけだ。これで取れなければ、諦める。そう思い、始めたUFOキャッチャーだが……。
「一発で取れちゃったな……」
この髪留めは、すんなり手に入ってしまった。梱包されている箱を持ち、みらいがこの髪留めを着けている所を思い浮べる。
「ハッ……。渡す勇気も無いくせに、何考えてるんだか」
そのままポケットにしまい、ゲーセン内の探索に戻る。それからしばらく歩いたのち、みらい達と合流した。
「あ、ユウ戻ってきな! 見ろよこれ、お菓子が大量だ!」
両手には大量のお菓子が入った紙袋が、握られていた。持っていた猫のぬいぐるみは、多次元収納ボックスにでも入れたのだろ。
「そんなにUFOキャッチャーで取ったのか? 食べ切れなくて、捨てる羽目になっても知らないぞ」
「一人で食べる訳ないだろ。明日、部活に持って行ってみんなで食べるんだよ」
「それなら、明日はお菓子パーティーね」
そう言った、みらいの表情は嬉しそうだ。その笑顔を見て、俺はポケットにしまった髪留めを取り出そうと──しなかった。いや、正確には取り出す事が出来なかった。手が震え、身体が渡す事を拒否する。はぁ……と、ため息を吐き、遊ぶ事に集中する事にした。
その方が、気が楽だしな。
「UFOキャッチャーはこのぐらいにして、次はあれやろう!」
リアラが次に選んだのは、プリクラだった。近くのボードには、AI搭載型と書いてある。
ん? AI搭載のプリクラって何だ?
「今のプリクラって、AIが搭載されてるのね」
「されてる訳ないだろ……。初めて見たぞ」
みらいも俺も、そんなプリクラは初めて見た。ボードをもう一度よく見ると、端に小さくテスト用と書いてある。
AIのテストって事か?
「とりあえず、入ろうぜ。プリクラ撮って見たかったんだよな」
リアラは俺達の手を引っ張り、プリクラ機の中に入る。中は見た所、別段変わった所はない。やはりAIが搭載されてるっていう、筐体の方か。
『ようこそ! ワタシの中へ! 荷物はそこの籠に置いてね!』
「これがAIか。金入れて無いのに話しかけてきた……。しかもワタシの中って何だよ」
『そこの男子、ツッコミはイイからお金入れてね!』
「あ、はい……」
言われて、何か反射的に入れてしまった。二千円も……。AI導入型だからか、やたら高いな。誰もやらんだろこれ。
『うわぁ、ありがとう。この二千円で、そっちの女子二人はちゃんと撮るね!』
「ちょっと待て、女子二人はちゃんとって、俺はちゃんと撮らないのかよ」
『えぇ……。撮って欲しいの? でもワタシ、女の子にしか興味ないっていうか……』
壊してやろうか?
『うそうそ、冗談じゃん。そんな怖い顔しないでよ。それじゃ、そこの線に立ってね。撮影が始まるよ!』
渋々、従う事にする。俺一人だったら、店にクレーム入れて、返金してもらってた所だ。一人じゃ、プリクラなんて撮らないけど。
リアラを中心に、右に俺、左にみらいが並んだ。
「プリクラって話しかけてくるんだな。ラノベやゲームじゃ、こんなこと書いてなかったから知らなかったぜ」
「AIって凄いのね。わたし達と問題なく会話出来るなんて」
リアラもみらいも驚いて、各々感想が口から漏れ出していた。
『可愛いお二人に褒められるなんて、プリクラ冥利に尽きますね。それじゃ、まずは定番の裏ピース。三、二……」
「え、裏ピースって何?」
「こうよ」
みらいが手本の如く、ピースを逆様にして撮られるのを待っている。なるほど……これが裏ピースか。
パシャリとフラッシュが焚く。
『うんうん。女子二人は完璧ね! 男子、もうちょっと頑張ろうか』
「え、あ、うん……」
『次は、指ハート。男子、分かるかな〜? 三、二、一』
いや、流石にそれは分かるから。あれだろ、親指と人差し指を重ねるやつ。
『うわー以外、男子指ハート知ってたんだ〜!』
「なぁ、俺もう出たいんだけど……」
「我慢だぞ。この試練を乗り越えて、ユウはまた一歩、大人になるんだからな」
「そんな、一歩なら捨てちまいたい!」
『話は終わった? これで最後にするから男子、最後の力を振り絞って』
こんなプリクラで、最後の力を振り絞ってたまるか!
『最後は、このポーズ。主役感ハグ! 男子は分からないだろうから説明するね。真ん中にいる、そこの可愛い女の子を、両端から抱きつくんだよ。ね、簡単でしょ?』
簡単でしょって……。全然簡単じゃないから。異性に……リアラに抱きつけって事だろ。さすがに無理──。
「後はお前だけだぞ、ユウ」
みらいはすでに、左からリアラを抱いていた。みらいは女の子だから別に良いだろうけど、俺は男だぞ。
「良いのか? 俺がそれをやって……」
「良いに決まってるだろ。私達は友達だからな」
「リアラもこう言ってるし、祐もこっち来て」
「……分かったよ。出来る限り触れないようにするから」
俺は右から、リアラを包み込むようにハグした。胸とかに触れないよう、細心の注意を払う。だけどこの距離感、リアラもそうだが、すぐ隣にはみらいもいて、ハグしている腕同士が触れあったり、何だか良い匂いもしてきて……。
『それじゃ撮るよ! 三、二、一。うん、今まで一番よく撮れたね。男子、よく頑張った。偉いぞ』
撮り終わったと同時に、俺は一瞬にして離れた。心臓がバクバクいってる……。二人に聞こえてないか心配なぐらいだ。
『撮り終わったから、次は落書きの時間だよ。ここが一番大事な作業だから、失敗しないようにね。女の子達に書いてもらうのが無難かな』
「そう言われてもね。わたしプリクラ撮るのなんて久々だし、リアラも初めてだろうから、上手く書けるかしら」
『大丈夫。ワタシも色々アドバイスするからさ!』
二人はペンを持ち、AIのアドバイスの元、写真に落書きしていく。俺はというと、後ろで腹式呼吸を繰り返していた。さっきのハグのせいで、心臓が鳴り止まん……。
「こんなもんかしら。リアラは、他に何か付け足した文字ある?」
「いや、これで良いぞ。私が王様みたいで気分がいいからな」
『OK! それじゃ印刷するね。ワタシから出て、下側あたりに取り出し口あるから、そこから取って。寂しいけど、また来てくれると信じてるから!』
いや、二度と来るか! と心の底から叫んだ。
「はい、これ祐の分ね」
先に外に出ていた、みらいから写真を受け取る。落書きの内容を見てなかった俺は、ここで初めて、二人が何を書いたのかを知る。
周りには、星やらハートが散らばっていて、リアラの頭上には、王冠が乗せられており、デカデカと王様と書いてある。隣にいる俺の所には、下僕とも……。
「誰が下僕だよ……」
「ユウだけど、分からなかったか?」
「これ以上無いくらい分かったから、聞いてるんだよ」
「それはリアラが書いた方ね。こっちのは私が書いたの」
みらいが書いた方は、雑談部の仲間と書かれており、ここにはいない、白河や九重先輩の名前も書かれていた。実にみらいらしい。
「今度はみんな揃って来たいな。ここじゃないプリクラでな」
「そうね。でも見たくない? 夏帆とここのAIが喋ってる所」
「……確かに少し見たい気もするけど、このAI男に辛辣だからな。白河泣いちゃうかもしれないぞ」
「千明君、祐よりメンタル強いし大丈夫よ」
ゔっ……。やっぱり俺メンタル弱いよな……。
少し落ち込み気味になってると、ここで待ちに待ったかのように、リアラが宣言する。
「UFOキャッチャーをした、プリクラも撮った、なら次は、アーケードゲームじゃ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます