第14話後半

 ――弱い奴だろうと、目の前で誰かを死なせるわけにはいかない。

 

 頭の中に信念を帯びた声と同時に、バーン!と空気がひび割れるように震えた。

 何か砕け散るような音に、重たいものが崩れ落ちた。

 すべて、一瞬の出来事だった。

 

 俺は目を開き、息を呑んだ。

 飛び散った血に染まり、凛也が俺の足に頭を預けるようにして横たわっていた。

 肩からは赤い血が溢れるほど、流れていた。

 

 前方では、男が倒れていた。

 深紅のオーラを纏った弾丸が男の胸に刺っていた。

 割れた青の結晶――宝石の欠片が胸に散らばっている。

 

 男の胸から転がり出ていた。

 彼の《ミラーアルマ》は、もはや青と呼べるものじゃなかった。

 闇に蝕まれたような黒くて青色に染まり、魂を喰うようだった。

 青の鏡の中は小さい蝶は、翅を閉じたまま光を拒んでいる。


 相討ちで、凛也が守ってくれた。

 

「凛也……なんで……」

 言葉にならない怒りと哀しみが溢れ、胸を抉った。

 

「凛也……しっかりしてくれよ……」

 俺は震える声で呟く。

 誰か、嘘だと言ってくれ。

 

「はは……お前を守る……つもりじゃなかったのにな」

 凛也の身体は微かに動き、笑うように息を漏らした。

 

「陽愛……守れなかったし……情けないな」

 凛也の瞳から雫が溢れ、頬に伝った。

 

「……死なないで……」

 願うように、俺は《ダイヤモンド》に変えた。

 銀のオーラで必死にかき集めるように凛也の肩を包み、止血しようと力を注ぐ。

 だけど、血は止まってくれなかった。

 

「なんで……どうして……だよ!」


「無理だ……シャロ……じゃないと……」

 凛也の声は、次第に遠くなる。

 どうにかならないのかよ。

 

 階段から足音が響いた。

 駆け寄ってきたのは、結希翔だった。

「これは……」


 結希翔は血の光景を見るなり、口を覆った。

 無表情な顔なのに、感情を表していた。

 

「頼む……凛也を助けてくれ!!」

 怒りに喉が焼ける。どうにもならないとわかっているけど、叫んだ。

 結希翔は言葉を失い、ただ立ち尽くしていた。

 

「……嘘ついて………ごめんな……」

  凛也の指が震えながら、俺の頬に触れる。

 

「……こんな俺でも、守れたし……死ぬな……よ」

 凛也は瞼を静かに閉じ、手が落ちた。

 死出の旅へ行ってしまった。


「おい、凛也!!」

 俺は必死に揺さぶる。

 何度揺らしても、すごく冷えていて、凛也は目を覚ますことはない。


「……や……く……なか……」

 陽愛の小さな声が聞こえた。

 やがて静寂に包まれた。

 ぷちんと糸が切れるような音がした。


 からんと、2つの蝶がぶつかった。

 陽愛の蝶が、男の血に浸かり、一瞬で閉じた翅がふるえた。

 濁った光の中をかすかな青が走る。

 それでも、最後に力を振り絞るように羽ばたく青い蝶。

 

 珠から発生した青の光が溢れ、羽ばたく青い蝶は、閉じた蝶の中に光と交わる。

 ひとつの命が、もう一つの命へと託されるように、流し込んでいた。

 

 世界が一瞬、青く染まった。

 その光が、扉を開いていく。


 気がつくと、俺は鏡の部屋に戻っていた。

 鏡の部屋へと引き戻す扉だった。

 

 

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