第14話前半
「凛也……なんとか言ってくれよ」
鼓動が速くなり、こわばった表情で、凛也に問い詰めた。
凛也のことを疑いたくない。
視界の端で、心湖が死んだように、ぐったりしている。その現実が心の奥で、何かわからない感情をぐちゃぐちゃに混ざっている。
「……お前がくるまでに、片付けようと思ったのにな……」
凛也は振り返り、どこか苦しそうで残念そうに笑みを浮かべた。
「心湖を……殺しそうとしたのか」
体を震えわせ、自分の声とは思えないほど掠れている。
「……違う。……信じてくれないか」
訴える瞳が、まっすぐに俺を射貫いた。
胸が痛むほど、真剣だった。
その表情に、“嘘”はなかった。
何か訳があるかもしれない。
「わかった。信じるよ」
その言葉を口にした瞬間、凛也の体から力が抜けたように、心湖を下ろした。
俺は支えるように、凛也に歩み寄る。
「後ろ……見やがれ!」
凛也が吠えるような声に聞いた瞬間、反射的に振り返った。
男がすぐそばまで迫っていた。
鋭いナイフを俺に向かって、振り下ろされる。
咄嗟に右に跳んだ。
びちゃっと、嫌な感触が足に飛び散った。
青いヌメヌメした水滴が張り付いている。
「逃げろ!」
凛也の怒号が響いた瞬間、男の青いの瞳と目が合った。
操られないように目をつぶった。
胸の奥につつらが押し込めたような痛みが走る。
塩みたいに分解できない。
操りの能力じゃないと、直感でわかった。
逃げたいのに、足が粘着されたように動かなかった。
男の瞳と同じ色をしたオーラが、細い線となって、伸びてきた。
水滴に混ざって、じゅわじゅわと音を立てる。
水滴がむき出した肌に触れた瞬間、やけるような痛みが一気に襲った。
(熱い……!)
耐えられず、膝をつく。
男が俺の胸に、ナイフを振り上げた。
なんとか足を引きずるように後退し、滑る込むように回避する。
しかし、刃先が右腕を浅く裂いた。
「邪魔だ!」
男は体ごと突っ込んできて、俺は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
背中に激しい痛みが走り、呼吸が一瞬止まるほど衝撃が広がった。
「やめてください!」
心湖がふらふらとした足取りで、俺の前に立ちはだかった。
(逃げろ……心湖……!)
その願いは届かず、彼女は離れてくれなかった。
「よくもこいつらにばらしやがって……しねぇ!」
男は無慈悲にナイフが、心湖に振り下ろされる。
陽愛が心湖の前に突然と現れた。青いオーラを纏っていたので、すぐに瞬間移動だと思った。
刃が陽愛の胸元を抉った。
――バリン!
鋭い破裂音が響き、陽愛が倒れた。
床に散らばったのは、青い宝石の欠片ーーチョーカーの宝石だった。
嘘だろ。
チョーカーの宝石に当たったら、バリアが自動的に作動するはずなのに……何も起きなかった。
「陽愛、しっかりして……!」
心湖が陽愛を抱き上げ、必死に揺する。
「こ……ごめ……ん」
陽愛はかすれた声を出し、震える指を空を掴むように、心湖に伸ばした。
(……陽愛を守れなかった)
俺の胸が締め付けられ、息ができなくなった。
「……この人と……話して……きい……て……助けなきゃ……」
もしかして、昨夜拾ったレターポーチって、陽愛のもの……。
未来の映像で確認したら、合っていた。
心湖が犯人に脅された現場にいたんだ。
その真実を思い出せば、この結末は変えられたかもしれないのに。
悲しそうに見つめると、陽愛の胸には、黒い影の斑点がいくつも浮かんでいた。
陽愛の胸から、ぽとりと光る丸い珠が転がり落ちた。
小さな蝶の形をして、淡い青を放っている。
陽愛の《ジュエルアイ》の本体ーー《ミラーアルマ》だと思い出す。
チョーカーの宝石が割れて、リンクしていた《ジュエルアイ》の魂を出したんだ。
「これが……《ミラーアルマ》か……! ははっ……!」
男がその珠を握りしめ、青く光る鏡の殻の内側で羽ばたく蝶を、今までないぐらい嬉しそうに見つめた。
狂気じみた笑いが、喉の底から湧き上がっていた。
俺は胸の奥が燃えるように怒り満ちた。
殺したくせに、喜ぶなんて。
陽愛の魂を血だらけ手で触るな。
俺の感情に反応して、オーラが膨れ上がり、手を伸ばす。
男の手から陽愛の魂をオーラで包み、奪い返した。
陽愛たちを包み、右奥に移動させた。
「この野郎ッ!」
男は俺を睨み付け、再びナイフを刺そうとする。
『陽翔君!!』
永琉の声が頭に響いた。
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