第13話中編

『永琉、どうすればいいんだ』

『《アザレアコア》に、オーラをためてもらっていい』

 人がいるのに、大丈夫かな。

 俺は周囲を見回し、人がいない休憩ベンチの方に移動した。

 背中を向けて、ネックレスの《アザレアコア》に、オーラを溜める。

 永琉のオーラと俺のが混ざり、温度が上がったように膨らむ。

『それを糸に当てて』

 凛也に買ってもらった糸を、ズボンのポケットから取り出す。

 ネックレスを糸に近づけると、白い糸は透明に変わる。

『これって』

 あまりの変化に、目が点になった。

 

『わたしの頭の中には、【記録】したものがあるの。感じたこと。食べたことをーー全部。オーラにこもってあるの』

『それをオレが【増幅】させているが、君に任せている。肝心な時にバリアを出すためにな』

 レオが会話に割り込んできた。

 凛也との戦いの時に、守ってくれた花の盾だろう。

 

『犯人の顔を思い浮かべて、糸にペンダント当てて』

 犯人の顔を思い出しながら、透明の糸がぴんと、糸を勝手に動く。

 オーラを纏った細い線が、天井に沿って伸び、蜘蛛の糸のように張り巡らされていく。

 7階に上がるエスカレーターの方に繋がった。

『これで糸は犯人だけにかかる』

『普通の人にかからないの』

『うん。かかったら、危ないからね』

 永琉は安心されるように、《アザレアコア》を上下に揺らした。

『昨日の燃料切れを起こすなよ。休めておけよ』

 レオの言葉が棘のように、胸に刺さった。

 オーラを使いすぎて、凛也にやられたことは事実だ。

 失敗は許されない。

 陽愛を守るために、二度と起こさないようにしなければいけない。

 

 体を休めるって言われても、ベンチにずっと座っていたら、暇だよな。

 お金もないので、何も買うこともできない。

 

「いらっしゃいませ~!新発売のコーラーとクッキーよ」

 その瞬間、明るい声が響いた。

 よく聞けば野太い声が混じっていた。

 

 視線を向けると、中央のスペースに、メイド格好をした店員が3人並んでいた。店員は、お客さんに商品を宣伝していた。

 

 真ん中は、化粧がやけに映える、小柄の男で、少女にしか見えない。

  左は長い髪に、黄色のウィッグした派手な男だ。

 

 右は、線の細いすらりとした体つきの男。

 あの中で、違和感がないぐらいはまっているな。

 

 なんとなく、視線をそらした。

 よくわからないが、男たちの格好が気まずかっただろう。

 コーラーもクッキーも美味しそうだが、あの圧の中に突っ込む度胸がない。

 

 この階を回りながら、ぶらぶらと時間を潰すか。


 ☆☆☆

 

 柱の陰にひとりの気配があった。

 陽翔を追うように、ある人物は静かに視線を向けていた。

 その姿は、どこか孤影こえいを漂わせていた。

 

 陽翔が立ち去った瞬間ーー影のように足音を立てず、あるところに向かった。

 張り巡らされた、白い糸だ。

 己の力を込めて、糸に手を伸ばす。

 糸は墨を落としたように、黒く染まっていた。


(これで、が変われば……)

 ある人物は腹のうちに思いを、深念しんねんした。

 静かに胸元に揺れる、白色の満月に彫られた懐中時計を握った。

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