10話後半:揺らぐ心と戦いの結末
「まずは1つ目だ。取り返したぜ」
凛也は嗤い、指先でヨーヨーを弄ぶ。
油断の隙に俺は抜け出し、後方にステップして、距離を開ける。
次の攻撃に備え、ホルスターからナイフを取り出す。
「おっと逃がすかよ。
【トリック・
2つのヨーヨーは獣のように走り出した。
気がつけば、目の前まで迫ってきた。
少しは休ませろと、舌打ちした。
2つのヨーヨーに、ナイフを
『陽翔君、攻撃せずに避けて』
《アザレアコア》が淡く白く光り、永琉の声が飛び込んできた。
手元が狂い、ナイフを滑り落とした。
右側のヨーヨーの紐が、右足に巻きつく。
左側は速すぎて、視界から消滅した。
『背後から来るぞ。逃げろ』
レオの声に振り返ると、見失った左のヨーヨーが迅雷のように迫ってきた。
左足に巻きつく紐を、ナイフで斬り落としそうとするが、
「やらさないぜ」
凛也は見透かしたように嗤い、右のヨーヨーの紐に、オーラをゆっくりと流した。
紐は一気に銅に硬化して、ナイフを弾いた。
俺よりも速くて、力の差を思い知った。奥歯を食いしばった。
「2つ目だな」
凛也が右手を軽く払い、ヨーヨーが呼応した。
ヨーヨーが勝手に動き、胸に叩きつけられた。
星の花の盾が1枚、闇の中に霧散する。
消える花を眺めながら、唇を噛んだ。
『陽翔君、巻きついているヨーヨーの紐に大きくオーラを流して』
永琉の声に気を取り直し、大きくオーラをヨーヨーの紐に流す。
俺の手のオーラが打ち負かし、紐が嘘のようにほどけた。
『しっかり持っていろ』
レオの声に従い、落ちたヨーヨーを手を伸ばして掴んだ。
『ヨーヨーをあいつにぶつけろ』
《アザレアコア》が揺れて、凛也の右手を示す。
俺は凛也の動きを見倣って、ヨーヨーを投げる。
「甘いぜ」
それが凛也の腹に向かって進み、凛也は身を捻って回避された。
だが、狙いどおりだと微笑む。
『ヨーヨーに引いちゃって!』
俺は永琉の声に合わせて、ヨーヨーを引っ張った。
ヨーヨーは軌道を戻し、凛也の右手に思い切り衝突する。
「しまっーー!」
凛也は顔をしかめてヨーヨーを落とし、俺は即座にオーラで引き寄せ、奪い取った。
凛也の武器を、封じさせた。
「くそ……」
凛也は顔をこわばせ、ローブの懐から銃を出し、引き金を引いた。
俺はヨーヨーを構えるが、弾丸がやってこない。
「弾切れか」
呟いた途端、凛也は
呆気なく片付いた。
あっさりすぎて、実感が湧かない。
『さっさとあいつの動きを封じろ』
レオの声によくわからず、首をかしげた。
「【トリック・タイムリープ】!」
凛也の声が響いた瞬間、ヨーヨーが消え、両手が空っぽになった。
「時間を巻き戻したってな」
凛也は2つのヨーヨーで遊びながら、答える。
そんなのありかよと、舌打ちをする。
『はまるな。君が緩んで隙にオーラにヨーヨーを流して、取り返した』
レオは静かに告げる。
動きを封じろって、これだったのかよ。
「さてと。【トリック・
凛也は2つのヨーヨーを砂すれすれに滑るように回転させた。
そのまま2つは、凛也の足元にまっすぐ進んでいく。
狙いを外したかと思った。
次の瞬間、ヨーヨーが激流のように跳ね上がり、目の前に急接近してきた。
勝手に体が動いてくれて、間一髪で左に跳んだ。
ヨーヨーが脇腹をぎりぎりで、通過する。
胸を撫で下ろすが、冷や汗で全身がぐしょぐしょだった。
「【トリック・
凛也は両手を軽く払う。
呼応して、2つのヨーヨーを独りで動き、目の前に迫ってきた。
見慣れた攻撃で、慌てずに右に避けた。
俺の動きに合わせて、2つの軌道を右にカーブした。
(……うそだろ)
目を大きく見開き、左に跳んだ。
ヨーヨーはまた軌道を変え、影のように追ってくる。
捕まらないように、必死に逃げた。
「逃げてばかりでどうしたよ。かかってこいよ!」
凛也は嘲笑い、挑発をする。
調子に乗るなと、捕まる前に封じてやる。
右足のホルスターに手を伸ばす。
指先に触れたのは、布の感触だった。
ナイフが1本もなく、空だった。
「……くそっ、どうする……」
焦燥に駆られ、喉を焼く。
残されたのは、左足のホルスターにある銃だけだ。
しかし、銃の方は過去の記憶で語りかけてくれなかった。
『焦らないで。思い出してみて』
永琉の声が胸に落ち、深呼吸で落ちつかさせる。
記憶の底を辿ると、闇の中で金の光が一閃した。
懐中時計の白いローブの人が、銃を撃つ姿を過去の俺は何度も見ていた。
『あいつに狙え』
《アザレアコア》が指した方角を、すぐに頭に刻む。
「ああ、任せろ」
かちゃりと銃の安全装置を外し、引き金を引く。
弾丸が闇を裂き、凛也の腹に一直線に走った。
「当たるかよ」
凛也は右にステップして、かわす。
弾丸がその先の配管を貫いた。
狙いは最初から凛也じゃなくて、配管だ。
《アザレアコア》が指した方向も同じだった。
「【
オーラを銃に溜めて、連続で引き金を引く。
銀の光に包まれた弾丸は空中に向かい、雨のように降り注いだ。
「【トリック・
凛也は、右のヨーヨーを大きく振った。
ヨーヨーが反時計回りに大きく回転しながら、雨の弾丸が次々と弾かれた。
「目当てをくらいな」
体が勝手に動き、地面を転がるように右に跳んだ。
その直後、何かが地面に強い衝撃を与え、砂ぼこりを巻き上げた。
確認すると、先ほどまで俺が立っていたところに配管が転がっていた。
配管の表面には、細い線の跡があった。
何だろうと思いながら、凝視する。
凛也の『目当てをくらいな』という言葉を蘇り、ヨーヨーだとわかった。
もしかして、凛也に読まれてしまったのか。
『陽翔君、逃げて』
永琉の声に気がついた時は、胸にヨーヨーがぶつかった後だった。
出現した花の盾に強い衝撃が走り、2つ砕けた。
「……やばい」
後1つだ。背筋が凍え、追い詰められた。
『休むな。あいつの《ジュエルアイ》を探るんだ』
恐怖で思考が真っ暗になって、わからない。
壊されてしまったら、《ジュエルアイ》が破壊させる。
『陽翔君、凛也の左足をよく見て』
凛也の左足に、深紅色のオーラを纏っていた。
『大丈夫だよ。わたしが指示するから、ついてきてね』
永琉の声に励まされて、恐怖がどこかに消えた。
「これで最後だ。【トリック・
独立に回転したヨーヨーが、音もなく一瞬で、目前に迫った。
『陽翔君、銃をヨーヨーを撃って』
「うん」
俺は狙いを定めて、ヨーヨーを弾丸で打ち落とす。
「じゃあーな」
凛也がヨーヨーから手を離し、闇の中に溶けるように姿を消した。
『オーラを銃に溜めて、背後に回して』
銀のオーラを銃に集中させた。銃が金属のように固くなる。
一瞬、視界が揺れた。立ちくらみのような感覚が襲ったが、止まるわけにいかない。
背後に持っていき、金属のように硬化した銃身に、何かがぶつかり音を響く。
腕に走り、離しそうになるが、受け止める。
振り返ると、凛也が立っていた。
後ろ回し蹴りを、鉄の銃身で受け止めていた。
「……ち、やるじゃないか」
凛也が舌打ちした。
苛立ちの中に、わずかに焦りが混じっている。
おそらく、攻撃が読まれたことを忌々しく思っただろう。
『凛也の心を揺さぶって。わたしが今から言うことを、そのまま言って』
俺が小さく頷くと、
『《ジュエルアイ》で左足を強化していただろ』
肯定を捉えたのか、永琉が俺の真似をするように言った。 《アザレアコア》が動き、指をさす。
「《ジュエルアイ》で左足を強化していただろ」
永琉を真似して、強く叩きつけるように言った。
凛也の目がわずかにそらす。
『お前の《ジュエルアイ》の能力を使うには時間がかかるようだな。そのために、ヨーヨーで時間を稼いでた。そういうことだろ』
永琉に勢いに負けないように、繰り返した。
「お前の《ジュエルアイ》の能力を使うには時間がかかるようだな。そのために、ヨーヨーで時間を稼いでた。そういうことだろ!」
「……ふざけるな!」
凛也は吠えて、俺を睨み付けた。
永琉の予想が正しかったと確信できた。
「これ以上、やめてくれ!」
俺はたたみかけるように、叫んだ。
「今すぐ……逃げろ……」
凛也は目が揺らぎ、俺に訴えかける。何か恐れているようだった。
『今の君じゃ、耐えられない。あいつの言う通りにしろ』
レオが真面目に言うので、銃が下ろし、後ろに跳んだ。
景色がぐちゃぐちゃして、世界そのものが傾くように歪んだ。
視界が揺れたよりも、深刻な状態だった。
地面の位置がわからないまま、着地にできずに、思い切り転倒した。
『陽翔君、ごめんね。疲れていることに気がついていれば……』
永琉は泣きそうに、《アザレアコア》を胸元に揺らした。
記憶の中を探って、今の状況に遅れながら、気がついた。
今までオーラを出しすぎた上に、大量の消費にしたことだ。
《ジュエルアイ》とオーラは一心同体だ。《ジュエルアイ》のもう1人も悲鳴をあげるだろう。
永琉に悪くないと、首を振りたい。
だけど、何もできない。
そもそも、昔の俺のように強ければ凛也を止められたはずだ。
完全に力不足だった。
まさに凛也との差は、
「さて、殺すか」
拳をごきごきと鳴らす音がして、見上げると凛也が隣に立っていた。
こんなところで終わるのか。
意識を薄れていくなか、《アザレアコア》を握る。
せめて、頭に記憶を刻むように掴んだ。
「じゃあーな。犯人さんよ」
暗闇の中で、誰かの声が混じった気がした。
意識が沈む直前の幻のように。
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