5話:血の運命から、陽愛を守る決意
深い青の光が、ゆっくりと目から薄れていく。
銀の光が差し込んだ瞬間、闇を切り裂いた。
瞳を開けると、鏡の世界へ俺は沈んでいった。
鏡の世界では、深い青の光が、天国へ導かれるように昇っていた。
『陽愛、しっかりして』
『……心湖……』
その声が鏡の中に反響し合って、聴こえた。
残酷な記憶が、陽愛の青の魂に刻まれている。
陽愛たちを守りたい。
俺は《ダイヤモンド》の瞳に力を溜めて、手を伸ばした。
鏡面に手がすり抜けて、光を掴んだ。
そこから取り出すと、光は瞳に吸い込まれていった。
映像が流れてきて、ファーストフード店や本屋が見えた。
《
まるで、『ここに行け』と導くようだった。
俺は信じて、その中に入った。
鏡の水の中に、身体が透けるように溶け込み、底へと沈んでいった。
硬い床の感触が靴の裏を叩いた。
「あの、大丈夫ですか」
誰かの声が響き、まぶたを開くと、14歳くらいの少女が、俺の肩を微かに揺らしていた。
俺を心配するように、覗き込んでいた。
少女は青の光で見た映像の中で、陽愛を呼んでいた心湖だった。
「心湖、救急車呼ぼうか」
その隣には陽愛がいて、不安な声を出していた。
《碧波中学》という校章をつけた制服を2人は身につけている。
気がつくと、俺はベンチに座っていた。
目の前にファーストフード店。その隣には本屋が見えた。
どうやら、《碧波ショッピングセンター》に着いたみたいだ。
『おい、聞こえるか』
レオの声が、頭の中から響いた。
「レオ、どういうことなんだ」
レオと永琉はここに来られないので、ネックレスの《アザレアコア》に連絡をとれるようにした。
永琉に説明を後回しにされていたのでわからず、問い詰めた。
『説明するから、2人を追い払ってくれないか』
「大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだよ」
「そうなんですか」
心湖が首を傾げる。
「レオって言うのは、待ち合わせしている人?」
陽愛の言葉である、待ち合わせする約束を利用することにした。
「そうなんだよ。レオが誘ったくせに、見つからなくて」
「大変でしたね。レオさんを探したから、呼んだのですか」
「えっと……思い出した感じだよ。ごめん。急に声をあげて、驚いたよな」
「いいえ、大丈夫ですよ」
心湖は手を振りながら、微笑んだ。
ようやく納得してくれた。
嘘をつくのは胸が痛む。
あの悲劇が起きずに、陽愛が元気でいるし、心湖も泣いていない。
心の中でガッツポーズしたいぐらい幸せだと感じた。
「君もごめんな」
陽愛の方を見て、謝罪する。
陽愛は静かに首を振った。
「この人が大丈夫だったみたいだし。陽愛、買い物の続きしようか」
「そうだね」
陽愛は心湖の言葉に頷く。
「失礼します」
心湖が頭を下げて、陽愛も同じようにして、去っていた。
『さっきの説明なんだが、ネックレスを持っているよな』
ネックレスの《アザレアコア》を首につけてある。
逆さまになっても、落ちないでくれてよかった。
大切なものだから、失くしたら、永琉を悲しませてしまうところだった。
『《アザレアコア》の中心に、花があるだろう』
その中心が、ルリハコベとアザレアの花びらが寄り添っていた。
『《アザレアコア》にあるわたしのオーラをレオが《増幅》して、声が届くようにしたんだよ』
永琉が続けて説明をした。
「へえ。宝石の中にある、花が開いたりするのは」
知識が増えて、興味がわき、その事に訊ねた。
『オレたちの能力 ーー《ジュエルアイ》を注ぎ込んだ証が花だ』
レオの声に合わせて、瑠璃色に、一閃した。
『魂が感情になっている。《アザレアコア》が動いたり、花を開くんだよ』
永琉の声に共鳴すると、雪のように一閃する。
まるで、花が呼吸をしているようだった。魂が宿っているように感じられた。
「へえ」
『ねぇ陽翔君。こそこそを話さなくても、大丈夫だよ。花に届けたい言葉を思い浮かべれば、届くよ』
理解するまで、永琉は言わないでくれただろう。
その気遣いにお礼したくて、《アザレアコア》を撫でた。
永琉が甘えるように、笑った。
花に届けたい言葉を思い浮かべた。
『永琉、聞こえるか。ここはどこだ』
『大丈夫だよ。ここが現代だよ。《碧波ショッピングセンター》っていう場所だよ』
『ここに来る前に、君は見ただろう』
レオが割り込む。
『あ、うん。さっきの人たちが殺される映像を見たんだ』
『わたしたちには見えなかったら、教えて』
永琉たちには、俺の能力を持っているわけじゃない。見えなくて当たり前だ。
思い出すように、2人に説明をした。
『……陽愛さんが陽翔君を呼んだのは、助けてほしかったんだよ』
永琉が納得するように、手をポンと叩いた音が聞こえた。
共鳴するように、《アザレアコア》が上下に揺れた。
『陽愛を癒す手伝いをするもんな。それで呼ばれたところか』
依頼の内容を思い出しながら、答える。
『それだけじゃない。その事件から救ってほしいためだ』
レオの声が重く響いた。
『待って。あの事件は映像じゃないのか』
陽愛は生きていて、涙を流すぐらい幸せだった。
あの気持ちが嘘じゃないと信じたかった。
『違う。あれは未来に起きることだ』
喉が締めつけられた感覚に襲われ、体が一気に重たくなった。
陽愛が死ぬ映像は、偽物じゃない。
これから現実を見せていたのか。
そのとき、通りすがりの女性たちの声が耳に届いた。
「明日カフェで、動物のパフェが期間限定でやるみたいよ」
あの映像で元気な男が、『動物のパフェ』だと宣伝したものだった。
「まじで!? 行かないと!」
女たちの笑い声が、耳に突き刺さった。
あの悲劇が、現実に始まろうとしている。
『なるほど。今の君がいるのは、あの事件の1日前の世界だ。『動物のパフェ』と宣伝していたと言っていたな』
《ジュエルアイ》が魂だと、レオは言っていた。
その保存した記憶は、あの悲劇から持ち主を救いたくて、俺を呼んだ。
パフェを話していた、女が出口に出る。
見えた景色は、血のような真っ赤な夕暮れだった。
あの悲劇を回避するためには、わずかな猶予しかない。
『レオ、どうやって止めればいい』
『焦るな。未来で起こる悲劇を止められる。調べろ』
思い出すだけで、陽愛の叫びに、心湖が胸を締め付けられた。
だけど、絶対に現実にさせたくない。
あの運命のように絶望させたら、俺自身を許せないだろう。
『わかった。調べるよ』
深く息を吸い、決意を伝えた。
『ねえ、陽翔君。気をつけてね。
もしもキミに何かあれば、現実の身体にも影響が出るよ』
永琉の声に共鳴するように、《アザレアコア》が震える。
『俺がお前を助けてやる。だから、どうでもいいなんて、二度と言うな!』
鏡の部屋で光が触れて、この記憶を思い出した。
誰かが白いローブと約束したことが胸に刻まれている。
その約束を果たせぬまま、死ぬわけにはいかない。
それに血の運命から、陽愛を救いたい。
『用心するよ』
『……そう。陽翔君が決めたなら、わたしは力を貸すよ』
『頼りにしてる』
俺はベンチから立ち上がった。
冷たい空気を肺に吸い込むと、頭の中の霞が晴れた。
外の茜色の太陽を見た。
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