第八章 指揮者はピッチに立つ

※視点:風間 奏(サッカー)


 ──全国予選、準決勝。

 キックオフの笛が鳴った瞬間、奏の視界から“ノイズ”が消えた。


 風の流れ、味方のフォーメーション、敵の裏の狙い。

 それらを瞬時に読み、最適解を見つけて、チームを操る。


 サッカーは芸術じゃない。勝つための構築物だ。


 だけど、今の奏は、少しだけ“音”を聞いていた。


 心の奥で、5つの星が再び輝き出したような、そんな音。




 前半は0-0。

 相手は強豪校。テクニックもスピードも上。

 でも、奏のチームには「構造」がある。


 後半20分、敵の中盤のわずかな隙を突いて、スルーパス。

 FWが抜け出し、ゴール。


 1-0。


 味方が駆け寄ってきて、肩を叩いた。


 「風間、お前さすがすぎる……! 何が見えてんだよ」

 「……星、かな」


 奏がそう答えると、仲間は「は?」と笑った。




 試合はそのまま1-0で終了。

 決勝進出。あと1勝で全国。


 控室に戻り、汗を拭きながらスマホを開いた。


 グループチャットには光輝のタイムと、仲間たちの応援メッセージ。

 奏の返事には、何も返信はついていなかった。


 ──でも、いい。

 あいつらが見てくれてることは、もうわかってる。




 試合後、監督に呼ばれた。


 「風間、来年のU-18代表候補に推薦が決まった。全国に出れば、ほぼ確定だ」


 「……ありがとうございます」


 けれど、監督の目は鋭かった。


 「お前、変わったな。最近、少し“らしくない”」


 奏は少しだけ、目を細めた。


 「“個”の力で勝てないとき、チームは輝けません」

 「それが、俺の答えです」




 帰り道、制服に着替えた奏は、一人で歩きながら空を見上げた。


 光輝が全国を決めた時、何かが変わった。

 あいつの0.04秒が、他の4人の心の“止まっていた針”を動かした。


 今、自分もまた――“指揮者”に戻った。




 家に着く前、立ち寄った小さな公園。

 かつて5人で秘密基地と呼んでいた、あの場所。


 スマホを取り出し、グループに打つ。


「決勝、来週の土曜。全国決まったら、俺も行く」

「お前ら、スタンドで見とけよ」


 メッセージを送信してから、しばらく空を見ていた。


 その空は、少しずつ暗くなっていたけど――

 星は、また見えそうだった。

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