第4話 情報の欠片と魔法と魔獣
「おおおおおおおおおおおおおおおお!」
僕が誕生して早数か月。ようやく一人前のハイハイの使い手になった僕は、ハイハイで家の中を探索していた。
「キース、そんなに慌てると危ないですよ」
もちろん、母親である少女が僕の後ろから追いかけて見守ってくれる。
赤ん坊が、ハイハイする姿から見た家の中はとても大きかった。それでも、部屋の数は多いし、廊下も長い。たしかに古臭い部分があるのは否めないけど、窓から見えた家よりは大きそうだ。
もしかしたら、村長とかお偉いさんなのかも?
最近知ったんだけど、家にはお手伝いさんもいるしね。アビーという茶髪の中年女性だ。大阪の肝っ玉母さんのような見た目をしている。でも、ちゃんと礼儀正しい。
「はい、捕まえた」
「あわ~!」
その時、少女に後ろから抱っこされてしまった。さすがにハイハイでは二足歩行に勝てないか。
「見てください、キース。お父様、がんばってますよ?」
「あう~?」
少女に釣られて窓の外を見ると、大男が三人の男たちと一緒に並んで剣を振っていた。
剣? この時代に、剣? 銃じゃなくて?
あれかな? そういうスポーツなのかも?
それにしては、男たちが持っているのは、どう見ても真剣のように見えるんだけど……気のせいだよね?
「……九、十! よし! 次は魔法の練習だ!」
大男がそんな声をあげる。
「あおう?」
今、魔法って言った? え? うちの父親、頭大丈夫?
しかし、僕の心配をよそに、男たちは誰もが真剣な顔だ。笑っている者なんて一人もいない。
そして――――!
「我、望むは黄金の雷弾。サンダーブレット!」
「我、望むは峻険たる石矢。ストーンアロー!」
「我、望むは侵略たる火矢。ファイアアロー!」
「我、望むは――――」
「ほあ!?」
そして、男たちは手から、剣の先から、それぞれ水や炎を発射する。
これが、魔法!?
放たれた魔法は、庭の隅にある大きな岩に当たって砕けた。
何度見ても、CGやマジックなんかじゃない。本物の魔法に見える。
僕が知る限り、地球には魔法はなかった。
父親も男たちも魔法の存在を隠そうともしてない。
「あ……」
どこにも見当たらない石油製品、ガラス製品。いまいちどこなのかわからなかった国。そして、先ほどの魔法の詠唱……。
決めつけるのはまだ早いかもしれない。
でも、もしかしてここって――――。
「いえあぃ……」
地球じゃない?
◇
「いやー、疲れた疲れた」
その後、父親と男たちは魔法の訓練を終えると、午前の訓練はこれで終わりらしく、解散になった。
「あなた、お疲れ様です」
「おう、クレア。なんだ、キースも見ていたのか?」
「はい。あなたがせっかくがんばっているんですもの」
「そうか! だが、まだキースにはつまらなかったんじゃないか?」
「そんなことないですよねー?」
そう言って、少女が僕のほっぺをつつく。ちょっとむず痒い。
「あうー!」
少女の名前はクレアというのか。かわいい名前だね。
それにしても、このヒゲもじゃな大男がこんな美少女と結婚してるとか、世の中不思議なこともあるものだ。
いやいやいや、そうじゃない。
ここが地球じゃない可能性があるんだった。
アマゾンの奥地じゃあるまいし、石油製品もガラスすらないここの生活が不思議で仕方がなかったが、そういうことなら、ありえるか? 少なくとも、まだ石油製品が発明されていない世界というのは納得のできる答えだった。
そしてなんといっても魔法の存在だ。
父親たちは、魔法の存在を隠そうともしていないし、むしろ積極的に使っているようだった。
魔法が一般的な世界なのだろうか?
それにしても、あの魔法の詠唱……。僕の記憶が確かなら、いや、さすがにそんなことはないよな。
ひょっとして、僕が今まで超能力だと思っていたものは魔法だったりするんだろうか?
魔法のある世界だ。僕だけ超能力ってことはないだろう。
だとしたら、僕の能力を大っぴらに披露してもいいかもしれないね。
でも、ただ披露するのはちょっともったいないよね。こうなったら、ものすごい魔法を使って両親を驚かすというのはどうだろう?
「あう!」
いいね! すっごい魔法を練習して覚えて、両親を驚かせみよう。きっと喜んでくれるはずだ。
「むひ!」
がんばるぞ!
「そうだ。午後は領内の見回りをしてくる予定だ」
「何かあるのですか?」
見上げると少女、クレアが心配そうな顔で父親を見ていた。
「うむ。第二村で魔獣の目撃情報があってな。一応、見てくる」
魔獣!?
これは本当にもしかするのか?
ここが、『レインボー・ファンタジー』の世界の可能性がある。
筋金入りの『レインボー・ファンタジー』の廃人プレイヤーだった僕だから気付けた三つの欠片。
まず、世界。『レインボー・ファンタジー』の世界では、石油製品は登場しなかった。
これだけでは弱い?
なら二つ目だ。
二つ目。魔法の詠唱。あの詠唱は、『レインボー・ファンタジー』のものと同じだった。
そして三つ目の情報。それが魔獣である。
『レインボー・ファンタジー』において、魔獣は人類の敵対種である魔法を使う獣として登場する。
とはいえ、魔法の詠唱だってたまたま同じの可能性があるし、魔獣だってその詳細は不明だ。
国の名前や地理がわかれば一発なんだが……。
それに、もしここが『レインボー・ファンタジー』の世界だとしても、問題がある。
それは、今がいつなのかわからないということだ。
『レインボー・ファンタジー』のゲームで描かれた世界の前なのか、後なのか。
できれば主人公やヒロインをこの目で見てみたいけど、それは難しいよね。
まぁ、今はまだすべては僕の妄想でしかない。
決定的な証拠を得るまでは、『レインボー・ファンタジー』のことは忘れよう。
「おっほ……」
でも、『レインボー・ファンタジー』の世界だといいなぁ。
主人公を陰から助けるとか、主人公の仲間になるとか、あるいは強大な敵として主人公たちに立ちふさがるのもいい。正体不明の実力者ムーブとかも憧れる。
「あーい!」
楽しくなってきたー!
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