第3話 水を操る者
「ごめんなさいね、キース。またすぐに戻ってきますから」
お乳の時間が終わり、最後に僕をギュッと抱きしめると、少女はわかりやすく後ろ髪を引かれながら部屋を出て行った。
今はお昼。たぶんお昼ご飯を作る前に僕にご飯をあげに来てくれたのだろう。
寂しい気持ちはある。本当なら恥も外聞もなく泣き出してしまいたい。だけど、少女を困らせたくはない。我慢しないとね。
それに、夜になれば少女とずっと一緒にいられるんだ。おまけに父親らしき大男も付いてくる。それまでの我慢である。
そんな感じで毎日を送っているのだけど、ここ数か月の生活で、気が付いたことがいくつかある。
その一つがここがかなりの田舎だということだ。
この部屋にはガラスではなく木戸の窓があるのだけど、少女が僕を抱き上げると、僕も窓の外を見ることができた。
そこから見えた景色は、だだっ広い乾いた砂の大地だった。砂漠まではいかないが、どうやらここはかなり乾いた土地らしい。点々と家や畑があるの見える。でも、どの家もなんというか、古ぼけていた。家は木や石で作ったもので、どこか不格好だった。そして、農具はなんと木製であり、機械の類も見えない。
そして最後に気が付いたのは、ここにはガラスやプラスチック製品がない。
ここはたぶんヨーロッパ、もしくはアジアでも西側の田舎なのだと思うのだけど、普通一つくらいはあるだろうガラスやプラスチック製品が見当たらなかった。スーパーの袋さえ見当たらなかった。
これはあれかな? 環境活動家の村なのだろうか? それにしてもガラスくらいは使うだろうに……。なにかが変な気がする。まるで石油製品のない過去にタイムスリップしてしまったみたいだ。
まぁ、このあたりはもっと言葉が理解できるようになったら、自分の足で歩けるようになったら自然とわかるだろう。
「むぅ~」
そんなことを考えながらも、僕は超能力の素をこねこねしていた。最初は硬かった超能力の素だけど、今ではだいぶ柔らかくなったね。もう普通の粘土のようにさまざまな形にすることができる。待機状態の球体から猫の形にするのに一秒もかからないくらいだ。
当然、指先に送るのも早くなった。もう瞬時と言っていいレベルだ。
でも、僕はもう知っている。実は、超能力を使うには、べつに指先から出さなくてはいけないというルールはない。お腹から出しても、頭から出しても、腕から出しても足から出しても、超能力の素は等しく水になる。
しかも、出す超能力の素を増やすと、出る水の勢いと量が増える。それが楽しくて、僕はどんどん超能力を使ってしまった。
「あう~……」
それで部屋の中を水浸しにしてしまったわけだが……。
両親が寝る大きなダブルベッドも、部屋に置いてある机も椅子も水で濡れている。
これはかなりヤバい。
「あうあう」
部屋がこんなに水浸しなんて、どう考えても不自然だ。犯人は僕しかいないし、あの両親も僕が超能力を使えることに気が付いてしまうかもしれない。
そうじゃなくても、部屋の中が水浸しなんて一種のいじめだ。あの少女の悲しむ顔は見たくない。
しかし、今の僕はまだハイハイしかできない赤ちゃんでしかない。しかも、チャイルドベッドの柵が高くて乗り越えられそうにない。
この場から動けない僕に部屋の中に散らばった水を片付けることなんて……。
その時、上手く言えない感覚的なものだけど、部屋中に巻き散らかされた水とまだ繋がっている感覚を覚えた。
僕の超能力は水を生み出すこと。だけど、もしかしたら生み出した水なら操れるのでは?
「あうあ!」
ここはこの勘に従ってやってみるしかない!
だって、それしか僕にできることはないのだから。ダメで元々、少しでも可能性があるのならやるべきだ。
「う~~~~~~~~~~~~~~~!」
少しだけ、水が動いた気がする。
イメージとしては、体の外に出てしまった粘土を操る感じかもしれない。今まで体内で散々やってきたことを体の外でやるだけである。
「おおおっ!?」
その時、ふわりと床にぶちまけられた水が空中に浮かんだ。
いける!
僕は慎重に空中に浮かんだ水を一か所に集めていく。できあがったのは、今の僕と同じくらい大きな水球だった。
「えっお、えっお!」
僕はできあがった水球を木戸の窓から外に出す。
「う~~~~~」
このまま地面に落としてしまってもいいけど、そうすると濡れた跡が残るよな?
それなら……!
僕の興味は、もう部屋を片付けることから、できあがった大きな水球に移っていた。
僕が水を操れるのはわかった。
でも、その有効範囲はどれくらいなんだろう?
そもそも操れる水の量は?
僕が生成した水じゃないと操ることはできないのだろうか?
水は操れるけど、例えば霧になったら操れるのだろうか?
疑問はいくつもいくつも浮かんでくる。
「ひゃーい!」
楽しくなってきたぞー!
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