第5話 魔力と爆速ハイハイ
「おぉお~」
ベッドに寝転んだ僕の目の前には、僕の頭くらいの大きさの水の球体が浮かんでいた。
「ん!」
ハート、星、三角形、六角形、猫。水の球体は僕のイメージ通りに次々と形を変えていく。
そんな僕の操っている水だけど、よく見ると少し汚れているのがわかる。実はこの水は、僕の魔法で生み出した水ではない。アビーが部屋を掃除するために使用した水なのだ。
アビーは窓から水を捨てたけど、僕がその捨てた水を再利用しているのである。
でも、おかげで僕が水ならなんでも操れることがわかったし、多少水の中に不純物があっても問題なく操れることがわかった。
そして、水を操ると、僕の中にある超能力の素、いや、魔法の素だから魔素とか魔力になるのだろうか? 魔素だとわかりにくいから魔力にしよう。その魔力だが魔法を使用すると少しずつ減っていくことがわかった。
この発見は大きい。
「てい」
僕は汚れた水を窓から捨てると、今度は自分で水を創り出していく。
「てい」
そして、創り出した水は即座に窓から捨てる。
今の僕の関心は、自分がどれだけ水を創り出せるのかに移っていた。
全身の魔力をかき集めて、僕は次々と水球を作っていく。
結果は僕の頭くらいの水球五つ分が限界だった。
やっぱり、水を生み出すのは操るよりも魔力の素の消費が段違いに大きい。
魔力を限界まで使ったからか、精神的な疲れを感じる。
僕は五つの生み出した水球を窓から捨てると、疲れに従って寝ることにした。
いつでも寝られるのは赤ちゃんの特権だね。
おやすみ……。
◇
「ごめんなさい、キース。ママは今日、お仕事があるんです。また来ますから、良い子でいてくださいね」
「あう」
クレアの言葉に手を上げて応えると、クレアはニッコリと笑ってくれた。それだけで僕もがんばれる気がする。
ママもがんばっているんだ。僕もがんばらないと。
「ふぃー」
ミルク臭い息を吐いて、僕はさっそく魔法の練習を始める。
といっても、すぐに終わるんだけどね。
「ん~!」
僕は生み出せるだけ僕の頭くらいの大きさの水球を生み出していく。
その数、五つと半分くらい。
「おうお!」
やっぱり昨日より増えてる!
これに気が付いたのは本当に偶然だった。毎日のように魔法の練習をしていたから気付けたのだろう。
どうやら魔力は、枯渇するまで消費すると、マックス時の総量が増えるらしい。
「てい」
僕は生み出した水球を窓から捨てながら、思う。
僕はまだ自力で立ち上がることもできない赤ん坊でしかない。今の僕には、この魔法しか頼れる力がないんだ。
ならば、とことん伸ばすしかないでしょ!
それに、魔力が増えれば、将来的に大道芸やマジックで稼ぐにしても、より多くの公演ができて、儲けが期待できる。
つまり、やらない手はない。
「ふぁー……」
でも、今は眠ろう。魔力を全部使って、疲れちゃったしね……。
どうやら魔力が枯渇すると、人は強制的に眠ってしまうらしい。
そして、まだ魔力の総量が少ないのだろう。僕は寝て起きたら魔力が全回復している。
ここ最近は、魔力を増やすために魔法を使って魔力を消費、睡眠、覚醒して魔力を消費を繰り返していた。
まぁ、赤ちゃんだから魔法と寝ること以外には他にやることもないしね。
じゃあ、おやすみ……。
僕は満腹感と確かな達成感を感じながら、眠りに落ちていくのだった。
◇
「ててててててててててててててててて!」
「待ってください、キース」
爆速ハイハイを披露する僕の後方から、笑いを含んだクレアの声が聞こえる。
まぁ、ハイハイとしては爆速だと思うんだけど、さすがに二足歩行には勝てないということだろう。ちょっと悔しい。
まぁ、家の中を一通り探索したけど、怪我しそうな段差などはなかったからね。クレアも安心して僕を放牧できるのだろう。
「キース? 今日はまたえらく速いな」
「ちゃい!」
居間でくつろいでいた父親に手を上げて応えると、父親も手を上げて応えてくれる。ヒゲもじゃの仏頂面、さらには大男だけど、かわいいところもあるのだ。
「ててててててててててててててててて!」
父親を横切り、僕はその奥にある小さなキッチンへとやってきた。
「はい。捕まえた」
「ぶー」
さすがにキッチンには包丁など危険な物が置いてあるからか、クレアに抱きあげられてしまう。
「あら、奥様にキース坊ちゃま、お腹でも空きましたか?」
キッチンにいたのは、大きなお尻をぶんぶん振って料理していたアビーだ。アビーは言うなればお手伝いさん、メイドさんだ。メイド服は着ていないけどね。掃除に洗濯、料理など、家のことをやってくれる。そのおかげで僕はいつもクレアと一緒にいれるわけだね。
まぁ、クレアと一緒にいると魔法の練習ができないんだけど。
だから、僕はクレアが席を外したちょっとした時間で魔法の練習をしているのである。
まぁ、僕はクレアと一緒にいる時間は幸せだし、不満なんてないよ。
温かい家族とアビーに囲まれて、僕は今、前世の不幸を塗りつぶすくらいの幸せを感じているのだ。
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