第3話 真実

バルザークとの死闘から数日。

悠真は神界の奥へと進んでいた。


空気は薄く、時間の流れさえ狂っている。

歩くたびに足元の石が光り、過去と未来の残像が見える。

そこは——神ですら足を踏み入れることを禁じられた領域。


「ここが、“修行の座”……か。」


白銀の階段が果てしなく空へ伸び、頂には巨大な扉が浮かんでいた。

その扉には一文字——「修」。

悠真は深呼吸し、扉を押した。


光が弾け、目の前に立っていたのは懐かしい声の主。

修行神ルオ・ザル


「久しいな、神崎悠真。」


変わらぬ穏やかな声。

だが、その瞳には、かすかな悲しみが宿っていた。


「……俺をあの地獄に送り込んだのは、お前だな。」


「そうだ。だが、それは“罰”ではなく、“選択”だった。」


「選択?」


「この世界は、かつて“修行”によって生まれたのだ。

 我ら神々もまた、修行によって形を得た。だがいつしか、神は修行を捨て、力を奪い合うだけの存在となった。」


ルオ・ザルの手が、静かに空を指す。

そこには、神々の戦いで焦土と化した大地が広がっていた。


「私は恐れた。修行を忘れた神は、やがて自らを滅ぼすと。

 だから、“人間”に希望を託した。修行を極めた存在が、神々を律する日が来ることを。」


悠真の胸がざわめく。

「……まさか、最初から俺を“神を超える存在”にするつもりだったのか。」


「そうだ。そして貴様は成功した。億年の果てに、神の域を超えた。」


沈黙が落ちる。

悠真は拳を握りしめた。

億年の孤独、痛み、苦しみ——そのすべてが「計画の一部」だったと知り、怒りが胸を焦がす。


「ふざけるな……! 俺の人生は、お前の実験台だったってのか!?」


「怒りもまた修行だ、悠真。だが——そろそろ真実を知る時が来た。」


ルオ・ザルの身体が光に包まれる。

次の瞬間、その姿は霧のように崩れ、悠真の中へと吸い込まれていった。


「な、何だこれは!?」


『我は汝の中に還る。“修行神”とは、もともと人の心に宿る概念。

 汝が修行を極めた今、我は不要だ。これより先は、お前自身が“修行の神”として生きよ。』


悠真の体が熱を帯び、意識が遠のく。

気づけば、周囲の神殿は崩れ、光が世界を覆っていた。


——そして、彼は理解した。

自分はもはや“人間”ではない。

“修行そのもの”の化身となったのだ。


静かに目を開くと、彼の背には光の輪が浮かび、周囲の空間が脈動していた。

悠真は空を見上げ、呟いた。


「神を超える……か。いや、俺はまだ修行の途中だ。」


その瞬間、空から新たな気配が降りてくる。

怒りと恐怖に満ちた神々の軍勢。

ルオ・ザルの消滅を察知した神々が、次なる脅威を討ちに来たのだ。


悠真は微笑む。

剣を構え、ゆっくりと一歩を踏み出す。


「いい修行相手が来たじゃないか。」


光が弾け、戦場が開かれる。

“修行神”を継ぐ者と、全神界の戦いが、今始まろうとしていた——。

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