第17話 レイ兄さま

「シン坊っちゃま、新聞はご覧になりましたか。新しい聖女さまが発見されたようですよ」

 開いていた本を閉じ、振り返る。

 いとこのレイ兄さまは、母の甥。つまり、いとこにあたる。母の若い頃に生き写しで、見目麗しい。

「それがどうしたの」

 ミーハーな人ではなかったはず。レイ兄さまが、テーブルの上に紙面を広げる。

「新しい聖女さまは、サッシャー・グレイスさま」

 肝腎の場所を指差す。聖女さまは所望する。運命のつがい、アルファの男児、四歳。ごくりと唾を飲み込む。条件だけなら、確かに該当する。

「きっと、シン坊っちゃまの運命の番ですよ! 間違いありません」

 腰に手を当て、目をキラキラさせている。

「ああ……」

 写真に目を遣る。この能天気な笑顔。この人は、前世から契った恋人に違いない。早苗さなえお兄ちゃんだ。息をするのも忘れる。だけど。

 今じゃない。頭を抱える。

「お父さまに言ってしまったの。僕は、オメガとは結婚しないって……」

 母の墓前で誓ったばかりなのに。レイ兄さまが身じろぐ気配。肩に手を置かれる。

「大丈夫ですよ。私の、シン坊っちゃまの母上のことですね」

 こくんと頷く。

 レイ兄さまは、その場でしゃがんだ。

「あなたのお母さまは、あなたに生涯独身でいることを望みませんよ。むしろ、運命の番を見つけてほしいと……」

 目を逸らす。そんなことは解っている。

うちのことだけではなくて。エミール王子のことも……」

 レイ兄さまが固まる。

「え?」

 完全に忘れていたな。

「申し訳ありません! シン坊っちゃま!」

 ぎゅうと抱き締められる。年の離れたいとこが可愛いのは解る。でも、一応、王子だぞ。

「まあ、言っても、王子ですからね。どうにもならなければ、最終的にミナさまがおられますから……」

 これが本音か。全く相手にされていないけれど。小さく溜息を吐く。

「ミナさまって、レイお兄さまと同い年でしたっけ。確かもうすぐ入学式ですよね。もしかしたら、お二人が運命の番だったりして」

 二人して、あははと笑う。まさかね。

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