第16話 母の死と友人関係

 白亜の墓石の前、はしばみ色の遺髪を取り出す。きちんと白色のリボンで結わえてある。

「どうして、お母さまはご自身の命より、僕の、赤ん坊の命をお選びになったの」

 手のひらの上、涙が落ちる。

「お前の母親は、私に後添えができることを危惧したのだよ。その代わり、嫡子だけは命に代えても産むからと。そういう約束をした」

 草を踏む音。振り返る。

「お父さま……」

 目を逸らす。父が後ろで、あぐらをかく。

「あの子はもともと心臓が弱かった。そもそも子供が望める身体ではなかった」

「なら、何故……!!」

 父をにらむ。父は顔を覆い、嗚咽していた。

「運命のつがいだからだ。とても本能には、逆らえない。いいか、シン。お前は父と同じ、奪う側の性なのだ。よく覚えておきなさい」

 お父さまは、それで平気だったの。大好きな人が自分の行いのせいで、死ぬかもしれなかったのに。それでも、愛さずにはいられなかったの。

「僕は、嫌です。二度と、お母さまのような人を出したくない」

 確かに、そう伝えたはずだった。

 一週間後、僕はお城にいた。エミール王子のお茶会に呼ばれた。言うなれば、お見合いだ。

 僕は父の言うとおり、アルファの男の子。一方、エミール王子はオメガの子。同い年の四歳だ。

「よんさい。よんさいだよね?」

 首を傾げる。どう見ても、同年代の子より、一回りも二回りも大きい。貴族の子が必死に何か話しかけている。聞いていない。というより、聞こえていないのだろう。

 先程から、ずっと食べてばかりだ。お腹が空いてというより、不安を静めるためなのだろう。ろくに味も確かめずに、すぐ飲み込んでいるのだろう。涙目だ。

 誰か止めてあげればいいのに。拳をぎゅっと握る。

「エミール王子。お茶をどうぞ」

 カモミールティーの入ったカップを差し出す。エミール王子がお茶を口にする。ごくごくとのどを鳴らす。せき込む。まわりがざわつく。

 飲み干したカップをテーブルに置く。

「そうだった。今日は、お茶会だったな」

 相好を崩す。こちらも、ほっとする。その後、文字通り、和やかなお茶会となった。

 帰り際、エミール王子が懇願してきた。

「私とお友達になってくれますか」

「はい。喜んで」

 つがいにはならない。

 でも、きっと良い友人にはなれるだろう。

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