WZO短編集

アーサー・ライト

向日葵を空に

 2XXX年 


 もう残暑も過ぎ、涼しげな虫の音が夜に聴こえてくる季節。埼玉県某市のとある住宅地にある何気ない一軒家の二階の一つの部屋に小さい寝息が聴こえます。年齢はおそらく10歳、若しくは11歳ぐらいでしょうか。健やかに幸せそうに安眠しています


 部屋はしっかり整理されているようで、壁にはポスターやチラシ、学校の連絡内容などが貼られています。ベットの反対側にある学習机と棚にはちょっとの数の参考書とまぁまぁな数の小説と漫画、そして更にそれらの2倍の数はあるゲームのソフト。よく見たらフルダイブ用のVRゴーグルもあります


 ベッドの棚にあるデジタル時計にはアラームが設定されているようで、示している時間は7時10分。時計が刻んでいる数字は7時9分。もうすぐ起きる時間になるみたいです


そして秒はどんどん進んでいき、遂に秒数が00に示した瞬間に—―――


ピッ


一瞬鳴って直ぐに止まりました


なんという早技。例えるなら閃光、高速。そんな戦慄を隠せない所業を見せ付けたのは何と先程まで寝ていた人物では無いですか


それをやった人物はのっそりとベットから起き上がるとゆっくり降りて、大きく伸びをして一つ欠伸をしました。まだ少し眠気があるようなのか目が糸目になっています


 それから少年は窓を開けた後、部屋から出て階段を降りて行きます。途中大きく鼻で息を吸ったかと思えば、少し表情を緩くして引き込まれるように一戸のドアを開けました


 「あら、おはようございます『かず』」


 「おはようございます母さん……」


 「まだ少し眠そうですね。顔を洗ってから朝ごはんにしましょうか」


 めっちゃくっちゃ礼儀正しい挨拶を母親(ここでは『お母さん』と呼びますが)と交わすと『和』は顔を洗いに向かいのドアを開けてまた閉じ、ジャーっと音が何回か鳴った後に病みました


 再びドアを開けて出てきた和は先程の糸目とは打って変わって眼はしっかりと開きました。雰囲気も眠そうなものではなく、冷静沈着なオーラのある佇まいになった彼は朝ごはんを食べるべく、再びさっき母に挨拶をしたリビングへと向かいます


 ほどよい高さのダイニングテーブルにランチョンマットを敷いて、食器棚の引き出しから箸とスプーン、それからコップを上に置きます。もう一回棚に戻ると今度は大きな皿とスープ皿を一枚ずつ持って来てお母さんの前に置きました


 「ありがとうございます和。今のせますのでちょっとだけ待っていてくださいね」


 お母さんはトースターを開けて今ちょうど焼きあがったのか熱々のスライスチーズののった食パンを先に置き、その上にベーコンエッグをのせました。横にはポテトサラダをよそいます


 スープ皿には具沢山のコンソメスープをよそいました。これで準備は万端です。一部の隙もない、完璧な布陣の朝食です。羨ましい、筆者も食べたい今すぐに


 「あげませんよ」


 「和?何かありました?」


 「いえ、何となく言わなければいけない気がして」


 それはさておき席に着いたらようやくの、待ちに待った朝食の時間です。和の目が0.5ミリ大きくなりました。機嫌のいい証拠です。和はいただきますを言って箸を持ち、それをポテトサラダに伸ばして――――




 「おっはようございまーす!!!」




 ――――止まりました


 「おはようございます、陸玖りくくん。今日も元気ですね」


 「叔母さん、おはようございます!和もおはよう!」


 「……おはようございます」


 いつの間にかに家の中にお邪魔していた、男の子の名前は『理玖』。お母さん言った通りとても元気そうです。実は家がお隣同士で、二人は幼馴染のような関係です。なので、普通に家の中に入ることが出来るのです。なお、鍵はお母さんが開けておいてくれています


 和は不機嫌そうに彼の方に振り向いてじっと見つめ、そして一言


 「帰れ」


 「酷くない?!」


 なんと身も蓋もない言葉でしょうか。侍の袈裟斬りよりも鋭いレスポンス。筆者じゃなきゃダメージは不可避だったでしょう。(´Д⊂グスン


 「いや、僕が言いたいのはご飯の事ではありません。……いえそれも少しありますが、もっと別の事です。それは……」


 と、ここで『ビシィ!』と陸玖の胸部を指差してこう言い放ちました


 「あなたのT シャツの事ですよ!何なんですかそれは?!」


 そう言って和が指差した方向に目をやるとそこには――――




 『埼玉県=レ●ズ』




 ――――と書かれていました


 「今すぐ着替えてください!別のやつに!」


 「酷い!レッ●だけじゃダメだと思って、後ろにはちゃんと『埼玉県=ア●ティージャ』って書いてるのに!今日、『わりぃ、俺死んだシリーズ』か『宇宙ペンギンシリーズ』で45分悩んだのに!」


 「より悪いですよ!良くてクラスが二分化、悪くて崩壊しますよ!最後に言った二つの方がまだマシですよ!しかもクラス委員長がそれ着て行っちゃ駄目しょうが!分かりましたか?!」


 「うぅ、分かったよう」


 こうして陸玖は隣にある自宅に戻って泣く泣く別のシャツに着替え、和は曲事に朝食に戻ることが出来たのでした。そして、食パンはもう完全に冷めていました




 ♦




 「で、今日の時間割何だったけ。最後にがあるのは知っているけど」

 

 学校への通学路、片道25分の道のりは結構長めですが、二人で話しながら歩くと直ぐに着いてしまいます。二人もこの時間が大好きです


 因みに和はギンガムチェックのシャツとジーンズに、陸玖は『毎日が地●です』T シャツに変えました。ランドセルに隠れて見えませんが、後ろには七大地獄めぐり《セブンズ・ヘルグレイヴ》と書かれています


 「確か、算数、国語、社会の順だったと思います。今日は昼に学校が終わるのでラッキーですね。創立記念日に感謝」


 「ありがとう創立記念日。君の事は永遠に忘れないよ……」


 「最後には風船を飛ばして写真を撮ることになっていますし、楽しみです」


 そう、実は明日は彼らの学校はめでたく創立175周年を迎えるので金曜日がお休みになったのです。土日も合わせるとなんと三連休です。最高ですね


 さて、学校側もたいへん目出度いため、何か全校生徒でやれることはないかと考えたところ、和と陸玖がいる五年生が向日葵を植えていたことを思い出してそれだったら最後のコマは向日葵の種を風船に括り付けて空に飛ばすところを写真に写そう!ということになったのです


 「けど、今日は曇りみたいだし大丈夫なのかなぁ」


 「天気予報で午前中はずっと曇りになる可能性は高いですが、晴れる可能性はあると思いますよまぁ、眩しくて上が見えない事にはならないのでそれはそれでいいのでは?」


 他にも最新のゲームや授業の事を話していくと、やがて学校に到着してしまいました。靴を上履きに着替えた後、教室に入りました


 まぁ、何か特別なことは無いので省きますが、一応言っておくとTは着替えておいて正解だったと言っておきましょう


 朝のホームルームが始まりました


 担任から出席を取られました。諸連絡は、4時間目に風船を飛ばす前に花壇で向日葵の種を袋の中に詰める事、そして写真を撮るときは許可があるまで絶対に手を離さない事。そして、明日の休日はアル●ィージャの試合を見に行くんだと言いました


 子どもたちは熱心に聞き、特に最後は三分の一が拍手、もう三分の一がブーイング、そして残りが無反応でした。自分の意思をしっかり伝えることが出来る良いクラスです


 それから質問がないかと聞かれ、全員が首を横に振ったのでホームルームはこれで終わりました




 ♦




 それから4時間目になるまで計算したり、平家物語を暗記したり、歴史を習ったりし、時計の針が三回回って遂に終わりのチャイムが学校中に響きまわりました


 「よし、終わったな。陸玖、号令」


 「起立、礼」


 「「「「「ありがとうございました!」」」」」


 ようやく三時間目が終わったので、iPadを急いでランドセルの中に直して校庭に向かいます


 靴を着替え、花壇に向かうとそこにはおびだたしい数の風船が棒などに括り付けられていました。全校生徒が700人超えているので予備も含めておよそ800個か。もはや風船の畑です


 まぁ、幾ら数があっても風船の中に四つ五つ種を入れるだけなので10分かからずに終わります。五年生全員が張り切っていたのもありますが


 さて、種を入れ終わったらあとは全校生徒で写真を撮るだけです。先生が合図しにいったので他の学年が来るまで暫く待ちます


 「写真楽しみですね。一体どんな風になるんでしょうか」


 「おう、手放さないようにしなきゃな」


 「それで言ったら下級生が心配ですね……」


 「まぁ、そこは俺らでフォローしよう。ゲームで鍛えた反射神経で」


 ふと、何か思ったのか和が上を見つめます。陸玖もつられて上を見ました。


 空は変わらず曇っていました。そんなにどんよりとはしていないですが、広く上空を覆っています


 「晴れたらいいですね」


 「そうだな、……和、準備しよう。来たぞ」


 ワーワーと賑やかな声に視線を向けると、こちらに向かって来る一年生が見えたため、二人とも渡すためにスタンバイします


 一年生たちは行儀よく列を作り、しっかりとお礼も言ってから風船を受け取りました。何人か受け取った瞬間に風船を放してしまいましたが、


 「ほい」


 「わー!ダサTのお兄ちゃん凄い!」


 「よせやい、そんなに褒めるなって」


 飛んで行く前に直ぐに掴みました。そして陸玖お前はそれでいいのか


 こうして五年生による風船の手渡しは他の学年にもハプニングもなく無事に終えることが出来、残るのは撮影だけです


 生徒たちが風船を持ち、指定の場所に着くとドローンが上昇して宙に泊まりました。この時に誰かが間違えて手を放してしまったのか何個か風船が空へサヨナラしていったのですがまぁ、ご愛敬ということで


 「はぁーい、では今から写真を撮りまーす!いきますよー!皆さんも一緒に!」



 「「「「「5!!!!!」」」」」



 「「「「「4!!!!!」」」」」



 「「「「「3!!!!」」」」」



 「「「「「2!!!!!」」」」」



 「「「「「1!!!!!」」」」」



 

 「はぁーい、終わりました!それでは風船を空に飛ばしてくださーい!」


 全校生徒が紐から手を放したその時



 雲が割れて



 その隙間から光が漏れて広がりました



 それはまるで風船が天に誘われているようで、とても神秘的でした


 「すごいですね……」「すげー」


 そして急に南風が吹いたかと思えば、風船たちは雲の隙間に入ってあっという間に消え去りました


 「いいもの見ましたね」


 「そうだな、いいもん見た」


 そして二人で暫く先生の指示があるまで晴れが広がりつつある空を見つめるのでした






 ★






 二日後 栃木県宇都宮市


 「なにこれ」


 上空に漂っていた黄色い風船がありました


 それはもうヘリウムがあまり残っていないのか、ちょっと落ちたかと思ったら一気に下へ下へと落ちていきます。雲を突き抜け、風に大きく吹かれながらも何とか住宅街にある一軒家の庭に着陸しました


 「なにこれ」


 おそらく8歳か9歳かの男の子が、目の前の庭に落ちている風船らしき物を見て呟きました。紐に付いている袋の中を探ってみると、向日葵の種が四つ中に入っているようです。少しの間見つめると弟なのか、親しげな様子で近づいて来た5歳くらいの幼児が近づいてきました



 「あにぃ。それ、なぁに?」


 「分かんない。一緒にママに聞きに行こ、遥歩あゆむ


 と家の中に入っていきました


 次の夏、向日葵が仲良く並んでその家の庭に咲くようになるのはまた別のお話





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 A・TO・GA・KI☆


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WZO短編集 アーサー・ライト @yoshiaki414

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