せつなきに 泣きも得せずて

 寒い……。

 そして、頭が重い……。

 スマホの時計を確認すると早朝の四時を少し過ぎた頃でした。

 慣れないお酒に頭も体もだるく重く、気分はすっきりしません。

 隣に寝ていたはずの玲花の姿がありません。寒いと感じたのはそのせいです。

 トイレにでも行ったのかと、ぼんやり考えて、再び眠りにつこうとしました。

 でも、一度目覚めると、頭の重さに寝付けるものではありませんでした。

 やはりお酒は二十歳になってからなどと、とにかく目を閉じてやり過ごすことにしました。

 異変に気がついたのは、しばらく時間がたってからでした。

 わたしが目覚めてから何分過ぎたでしょうか。時間を確認すると、十分以上たっています。トイレにしては長過ぎます。

 不安を感じて体を起こそうとした時、部屋のドアが開き、玲花が戻ってきた気配がしました。なのに、ベッドには入ってこないのです。そのまま机のほうで、なにやらごそごそと探しているようでした。

 わたしは寝返りをうち、目を開けました。確かに玲花でした。玲花は探し物が見つかったのか、手を止めてそれを見つめていました。

 それは文庫本でした。

 でも、それよりも気になったのは玲花が着替えていることでした。パジャマではなく、普段着なのです。コートまで着込んで、まるで今からどこかに出かけようとするかのように。

 わたしはゆっくりと体を起こしました。部屋の冷気が体を包みます。ぶるっと身震いしました。頭の重さも感じなくなりました。

「玲花——」

 玲花の肩がびくりと跳ねました。恐る恐るといったふうに、玲花がわたしに視線を向けます。気まずそうな困った表情でした。明らかに、内密の行動がばれた時の表情でした。

「起きてたんだ……」

 驚きにそれだけ言うのがやっとのようでした。

「どこ行くの?」

 わたしはベッドから降りました。もう、寒さも感じられません。

 まだ仄暗く、夜明けというにはまだ早い時間、部屋の中は常夜灯のオレンジ色で満たされていました。

 わたしはパジャマのままで、玲花はすでに着替えをすませていて、わたしの髪はきっと寝癖がついたままで、なのに玲花は綺麗にセットされていて、わたしは困惑と不安で、玲花は驚愕と焦燥で——、見つめ合ったまま動けずにいました。

「どこに、行くの?」

 答えない玲花に焦れて、同じ質問を繰り返していました。玲花は咄嗟に目を逸らしていました。

「コンビニ——」

 あまりにもわかりやすい誤魔化しかたです。誤魔化しにもなっていないほど見え透いていました。

「嘘——」

 唇を噛む玲花。眉間に皺まで寄せて、そんな苦しそうな表情まで浮かべて、なにを隠そうとしているのでしょうか。

「正直に答えて」

 わたしは一歩玲花に詰め寄りました。玲花は微動だにしません。

「ねえ、ほんとはどこに行こうとしてるの?」

 しばらくして、玲花は大きく息を吐くと、ようやく顔を上げてわたしに視線を向けました。どこか卑屈な笑顔が張り付いているようでした。わたしは咄嗟に目を背けたい衝動に駆られました。けれど、ここで目を背けては、玲花の本心が聞き出せないかもしれません。

「実家に——」

 玲花がぼそりと言いました。「実家に帰ろうかと思って——」

 そんな話は聞いていない——。

「冬休みだしね、たまには帰ろうかなって——」

 どうして突然に——。

「あの人も一度帰ってこいっていってるし——」

 あまりにも不自然で——。

「日向がぐっすり眠っていたから、起こすのも悪いなって思って。だから、そのまま出て行こうと思ったの」

 言っていることがめちゃくちゃで——。

 二度も見え透いた嘘をつかれた——。

 わたしはかっと、頭に血が昇る思いでした。でも、玲花の苦しそうな顔を見ると、自分の感情のままに流されることはできませんでした。なるべく気持ちを抑え、さらに一歩踏み出しました。

 すると、玲花が手に持っている文庫本の表紙が目に入りました。

『中原中也詩集』

 玲花がとても大切にしている本です。きっとたくさんの思い入れのある詩集です。そんな大切な本を持ってどこへ行こうというのでしょうか。

 わたしの焦燥はいよいよ深くなっていきました。

「どうして、正直に話してくれないの? こんな朝早くに、わたしに黙って出て行こうって、おかしいよ」

「——それは、急に決まったから……」

「嘘だよね。ね、正直に話して。わたし、玲花の話ならなんだって聞くよ。手伝えることがあるならなんだって手伝うし」

 抑えようとしても、どうしても詰問しているようになってしまいます。知らず知らずのうちにわたしたちの距離は三十センチにも満たなくなっていました。

 玲花は顔を逸らし、玲花が逃げたのかと思いました。しかし、再び顔を上げた玲花に、わたしの背筋にぞくりと、悪寒に似たものが走るのを感じました。

 玲花の表情は初めて出会った頃のそれに戻っていました。

 赤の他人を見るような、ウザ絡みに苛ついているような、どこまでも冷徹で、すべてを拒絶しようとしているようでした。

 わたしは玲花の変化に戸惑い、怯み、身をすくませました。

「あーあ、せっかく寝てる間に出て行こうと思ったのにな。まさか起きちゃうなんて失敗した。やっぱ、もっと飲ませたほうがよかったかな」

 わたしは玲花の冷めた目を見たまま呆然としてしまいました。玲花はただわたしを酔わせて、眠らせるためだけに、あのシャンパンやサワーなどを用意したというのでしょうか。クリスマスだからと、記念だからとはしゃいでいたのはわたしだけだったのでしょうか。

「寝た時間も遅かったし、日向はお酒に弱そうだったし、だいじょうぶだと思ったんだけどな」

 玲花は小馬鹿にしたような冷笑を浮かべました。

 昨夜のパーティーはわたしひとりが張り切って、浮かれて、盛り上がって、なんの意味もないことだったのでしょうか。

 玲花だって楽しんでくれていたはず、わたしの料理も美味しいって言ってくれた——。

 全部、わたしのひとり芝居?

「元いた街に戻ろうとしてるのはほんと。でも、実家には帰らない」

 玲花は喋り続けます。呆然としたままのわたしを置いて、喋り続けます。

「母親に呼ばれてるのも嘘。あの人が帰ってこいなんて言うわけもないし、もし言われたとしても、帰るつもりもない」

 言っている意味はわかるのに、理解が追いつきません。自失しているはずなのに、言葉の羅列として、やけに鮮明に頭に留まり続けるのです。

「彼女から会いたいって、連絡が来たの」

 彼女——?

 玲花のその言葉のニュアンスに違和感を覚えました。

 だから、わたしは咄嗟に質問していました。

「彼女って誰?」

 玲花が奥歯を噛み締め、唾を飲み込むのがわかります。苦しそうな表情を見せたかと思うと、それは刹那で、すぐに無表情に戻ってしまいました。

「日向」

 その声はどこまでも冷たく、「わたしのこと、好きでしょ?」

 核心をつく質問。

 わたしは目を見張って、なぜ今、そんなことを言い出すのかと、さらに混乱していました。わたしの質問の答えがはぐらかされたことは、すっぽりと抜け落ちてしまったのです。

 玲花はわたしの返答を待つように、黙ってわたしの顔を見つめています。

「好きだよ——」

 そう発するだけで体がほてるのがわかります。「そうじゃなければ、いっしょに遊んだり、勉強したり、こんなふうにお泊まりしたりしないよ」

 当たり障りのない答えです。玲花はふっと息を吐いて、小馬鹿にしたような顔をつくりました。

「聞きかたが悪かったかな。わたしのこと、友達以上の気持ちで見てるでしょ」

 わたしの膝ががくがくと震えてきました。崩れ落ちそうになります。

 ばれている——!

 わたしの思いが玲花に見つかっている——。

 出会ってからの出来事が思い出されます。わたしの思いはすでに溢れ出していたのかもしれません。

 特に、昨夜の言動が、断片的にも思い出されます。

 裸を見たいとか、胸を触りたいとか、腕を絡ませたり、抱きついたり、挙句の果ては、体に起きた昂まり——。

「気持ち悪いよね。女なのに女を好きになるなんて。友達だと思ってたのに、信じられない」

 蔑む口調にわたしの心は萎縮してしまいます。玲花の言葉のひとつひとつがわたしの心を切り裂くようです。

「最初から変だって思ってたの。友達になりたいとか言って近づいてきたけど、本当はわたしと恋人になりたいなんて考えてたんでしょ。そんなの普通じゃない。異常だよ」

 どうして——?

 どうして、そんなにもわたしを責め立てるの?

 女の子同士だけど、好きになってしまったものは仕方がないじゃない。

 止められない思いはどうすればいい?

 秘して黙して、それでも溢れ出る思いはどうすればいい?

 普通じゃない、異常だとまで言われてもなお、あなたに向ける好意を、わたしは否定できない。

 玲花が好き——。

 玲花が好き——。

 玲花を愛してる——。

 何度でも言える。

 玲花が拒否しようが、蔑もうが、わたしの思いは変わらない。——変えられない。

 ——なのに、わたしはなにも言うことができないのです。強い気持ちを持っているはずなのに、玲花の——、玲花の口から発せられた言葉だからこそ、わたしは打ちのめされるのです。

 玲花が手に持っている本をパラパラとめくり始めました。『中原中也詩集』です。

 わたしには難しくて、一度しか読んでいない詩集です。わたしにとっては、玲花と初めておでかけをした記念の本という認識です。

 そういえば、以前蝶々の詩を読んでくれたことを思い出しました。

「ポッカリ月が出ましたら、

 舟を浮べて出掛けませう。

 波はヒタヒタ打つでせう、

 風も少しはあるでせう。


 沖に出たらば暗いでせう、

 かいから滴垂したたる水の音は

 昵懇ちかしいものに聞こえませう、

 ――あなたの言葉の杜切とぎれ間を。


 月は聴き耳立てるでせう、

 すこしは降りても来るでせう、

 われら接唇くちづけする時に

 月は頭上にあるでせう。


 あなたはなほも、語るでせう、

 よしないことや拗言すねごとや、

 洩らさず私は聴くでせう、

 ――けれど漕ぐ手はやめないで。


 ポッカリ月が出ましたら、

 舟を浮べて出掛けませう、

 波はヒタヒタ打つでせう、

 風も少しはあるでせう。

 ——」

 少し低い声で朗々とうたいます。流し読みしただけのわたしには題名もわかりません。

 なぜ、玲花がいきなり朗読を始めたのかよくわかりませんでした。だけど、なんだかわたしのことを——、玲花とわたしのことをうたわれているような気がしました。

 そして気がついてしまったこと——、玲花の声が途中から震え出していたのです。抑えようにも抑えきれない感情の奔流に逆らえなくなったように、本を持つ手も震えているのです。

 本を閉じて顔を上げると、抑えきれない感情のままにわたしを睨みつけました。

「そんな目でわたしを見ないでよ!」

 玲花はいきなり本を投げつけてきました。わたしの左腕に弱々しく当たり、床に転がり落ちました。まるで子どもが駄々をこねるみたいな行動でした。

 何度も読み返すほどの、大切な本のはずなのに、そんなことすら忘れてしまうなんて——。

 わたしは黙って本を拾い上げました。カバーが外れかかっていたので直していました。

 冷静な行動のようでいて、本当はどうすれば、なにを言えばいいのかわからないのでした。ただ、目の前の些細なことを取り繕うように処理をしているだけでした。

 こんなにも自らの激情に振り回される玲花を見るのは初めてでした。それだけにわたしの動揺も大きかったのです。

 すると、玲花はわたしの両肩を掴んで、力一杯押し始めました。わたしは押されるにまかせて後退り、転びそうになるのをなんとか堪えました。けれど、わたしの抵抗も長くは続きませんでした。行き止まりはベッド、わたしは押し倒される形で、玲花に組み敷かれていました。

 玲花の黒髪が左右に垂れて紗幕のようでした。視界には玲花の顔しかありませんでした。玲花の顔は間近にあって、こんな形で見上げるのは初めてでした。

 苦しそうで、辛そうで、苛立ち、悲しみ、後悔、呵責——、たくさんの負の感情に支配されているようでした。

 わたしはどんな目で、玲花を見ていると言うのでしょうか。

 ただ、さっきまでの冷たい様子からの、激しい感情の揺れにわたしの気持ちは追いついていませんでした。

「もうどうすればいいのかわからないよ!」

 玲花の語調は強くても、潤んだ瞳からは今にも涙がこぼれそうでした。

「日向になんか会わなければよかった——。あの子も傷ついて、わたしも傷ついて、誰も幸せになれないのに、もうやめようって、もう終わりにしようって、そう誓ったはずなのに——。どうして、わたしに声をかけたりしたの⁉︎ どうして⁉︎——」

 声を荒げ、叫ぶ玲花。呼吸をするのも苦しそうで、過呼吸のようになっていました。

「初めて会った時、あの子に似ている気がしたの。びっくりして、でも嬉しくて、でも苦しくて——、あの子を思い出させる日向が嫌だった。同じクラスになった時も嬉しかったけど、やっぱり嫌だった。どうせあと半年しかいない学校なら、友達も作らないって決めてたのに。だから、転校初日の挨拶も本心だった。誰もわたしに構ってほしくなかったから、あえて反感を買うような発言をしたのに、日向は——日向だけはどうして⁉︎」

 最初、わたしを責めているのかと思っていましたが、それだけでなく、玲花自身を責めているのに気がついてしまいました。

 しばらく玲花の呼吸音だけが聞こえる時間がありました。少し落ち着きを取り戻したのか、次に目を合わせた玲花の視線からは、さっきまでの激情が薄らいでいました。

「どうしてって、わたしだって聞きたい。どうして、わたしにだけ心を開いてくれたの?」

 玲花は弱々しい微笑いを浮かべました。

「クッキーが美味しかったんだもん」

 クッキー?

 なんのことを言われているのかわかりませんでした。玲花は続けます。

「意固地になって、文化祭までサボって、そんなわたしにクッキーを届けてくれたんだよ。可愛くて、美味しくて、優しかった。——だから、この子とは仲良くなりたいって思った」

 わたしの想いは、あの時すでに伝わっていたのです。たとえ無意識だとしても。

 そして、玲花から笑みが消えて、少し苦しげな表情に変わりました。

「でも、やっぱりダメだって、嫌われようと思ったの。わたしと関わったら、いいことなんてないから」

「わたしは嬉しかったよ。玲花から挨拶してくれて、やっと受け入れてくれたんだって」

「でも、初めてまともに言葉を交わすのに、わたしの距離感はおかしくなかった? 特にお昼ご飯の時」

 そういえば、食べかけのものを食べたいだとか、食べさせてほしいとか、いろいろ戸惑う言動がありました。

「あそこまでやったら、引かれたり、気味悪がられたりすると思ったのに、日向ったらドギマギして、顔を真っ赤にして、——嬉しそうなんだもん」

 わたしはあの時のことを思い出して、恥ずかしさが込み上げてきました。確かに、初めての距離感ではありませんでした。それを気が付かないほど、玲花と言葉を交わし、お昼を一緒に取ることに舞い上がっていたのです。

「あんな顔されたら、わたしだって期待しちゃうよ。どんなに強がっても、ホントは寂しかったし、ひとりぼっちは嫌だったんだ。この子なら——日向なら、わたしのことを拒否したりしない、むしろ受け入れてくれるかもって。——でも、ただのわたしの思い込みかもしれない、自分勝手に都合のいい解釈をしているだけなのかもしれないって考えようとしたの」

 玲花の顔がくしゃりと歪んだようでした。泣き笑いのような表情。

「わたしは弱い。クッキーを焼くこと、一緒に買い物をすること、わたしの部屋に泊まること、——なんでだろう、駄目だって言い聞かせているのに、期待して、夢を見て、止められなくて、いつか求めてた……」

 視界が急に暗くなりました。黒髪の紗幕がたわみ、玲花の顔が近づいてきました。

「わたしも日向が好き……!」

 接唇くちづけ——。

 玲花の唇がわたしの唇と重なります。それと同時に、玲花の涙も降ってきます。

 わたしは抵抗しませんでした。できなかった、いえ、むしろ待ち望んでいたのです。

 玲花の舌がわたしの唇を割って入ってきても、わたしはすんなりとそれを向かい入れていました。わたしも玲花に応えるように舌を絡ませ、貪るように玲花を求めていました。

 息苦しくなるまで唇を重ね、舌を絡ませていました。

 これまで押さえ込み、隠し続けていたものを解放するように、わたしたちはお互いを求め合ったのです。

 ——玲花とわたしは、荒い息を吐きながら、ベッドに並んで寝転び、天井を見上げていました。手は自然と指を絡ませて繋いでいました。

 さっきまでの衝動が嘘のようでした。無言の時間が流れました。

「これでおしまい」

 しばらくして、突然玲花が体を起こして、立ち上がりました。あっさりと繋いでいた手がほどかれました。それにつられるように、わたしも体を起こして、ベッドに腰掛けます。

「もう、行かなきゃ」

 わたしからは玲花の背中しか見えません。

「行くって、どこへ?」

「彼女のところ。さっき言ったよね、彼女が会いたがってるって」

「彼女って——?」

 玲花の背中に力が入ったように見えました。小さく吐息をついて、振り返ることもなく平坦な声で答えます。

「そう、付き合ってたの」

 ある程度予想していたとはいえ、直接言われると胸を突き刺すようでした。「高一の時からずっと」

「でも、別れちゃったんだよね?」

 玲花は小さく頷きました。

「だったら、会いたいって言われたからって、行く必要はないんじゃない?」

「寄りを戻したいって」

「なんで今更?」

「なんでだろうね、あんな酷い別れ方をしたのに——」

 玲花がぐっと右手を握りしめました。小刻みに震えていました。

「じゃあ、行かなくてもいいんじゃない?」

「行かなきゃならないの。あんなことになったのも、全部わたしが原因だから」

「あんなこと、あんなことって曖昧すぎてわからないよ!」

 わたしはベッドから立ち上がり、思わず叫んでいました。さっきから玲花と彼女の過去になにがあったのか、さっぱり見えてきません。なにが原因で、どんな別れ方をしたのか、何ひとつ説明がないのです。

 玲花が振り返りました。わたしを見つめるその顔は、やけに無表情に見えました。なのに、瞳は潤み、わたしと目を合わせるのも辛そうでした。

 それでも、玲花が「知りたいの?」と、震える声で尋ねた時、こくりと頷いていたのです。

 わたしは玲花に厳しいことを言っているのかと、怯みそうになっていました。玲花にこんな顔をしてほしくて、叫んだわけではありません。ただ、真実が欲しいだけです。そして、玲花のことが知りたいだけです。

 わたしは欲張りです。玲花の全てが知りたいのです。楽しかったこと、嬉しかったこと、それだけでなく、苦しかったこと、辛かったこと、全部知りたいのです。

 玲花は一度目を閉じ、しばらくして開きました。しっかりとわたしを見据えて、震える声を抑えるように、静かに話し始めました。

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