世相離合

@dagon31

第1話

近頃、私にまとわりついて離れてはくれない黒雲があるような気がしてならない。

何も持病が悪いのではない、そう自身に言い聞かせてきた。鬱とかいうのが私の心理を掻き乱していると云うのだ。私はそんな考えが嫌いだ。あれもこれも、出来なかったこと全てがそんな信用し難い心理とかいう物が鬱なそと聞いた事も無いような病に冒されているなんて、分からず、解らず。街に出てみればカラスが集り、ゴミを突いては飛び回っている。私に住む城北は、元は田舎であり農作物の名産も多いのだ。それ故か住宅街にはたびたび畑が出現してくる、近所の学生の芋掘りに活用されているのだ、初等科での思い出である。

あゝ、明るい思い出がリフレインしてくる様に思い起こされる。久々の外出にはどこか視線が付き纏うもので、私の風体が良くないのか、この伸び切ったヒゲなのか、心理の曇天が招く雰囲気なのか分からぬが歩きにくく、直ちに身を引っ込めたくなるのだ。寮を出て畑を抜けると近くに大きな緑地公園が有る。この公園は非常に巨大な池があり、アメンボや小魚がおり、水際には水性の植物が多く存在し、見るに単子葉類であろうことまではわかる。私を陰鬱にさせる時に思い起こされるのは小説の「檸檬」である。現代に綺麗なステンドグラスは無いし、百貨店のえんぴつもナンキン玉もない。かと言ってレモンの冷たさが私を落ち着かせるわけで見ない。久々に寄った気に入りの書店は一ヶ月後に更地と化していた。駅前の開発である。学舎に行けばどす黒い気は無くなるものの、ふとした孤独に影は潜んでいる。ある種病的と思っていた矢先の友人からの薦めでの診断であった。

私は願った。何度も読んだ。檸檬も買って鼻に押し当てた。効果もなく直ぐに寝込んでしまった。辞めよう、もうこんな事なんて終わってしまえ。人の心を潤すものは何処にあるだろうか。駅商店街にも、分にも文字にも、ご馳走にも、絶景にも、人心にも有るのは即効性のある豊かさだ。人は一生涯豊かにはなれないのだろう、そう思い街を闊歩しては川についた。鴨が、シダが、何処からかする珈琲の匂いが頭に響く。体が熱い。

今日もまたダメであった。私生活の崩れを正すための行動が私生活や心身をもボロボロにしていく、今晩は眠れるだろうか、はたまた体力が保って寮まで帰れるだろうか。

帰る頃には疲れ果てている、さア国民病とも言える鬱とどう付き合うか。これはおそらく確実に。鬱であると認めたく無いがそうなのだろう、人は誰しも心に持っている闇と闘っているのであろう。そう考えれば、仲間が増えた様で少し気が楽になった。

「風呂に入って寝よう」と呟き歩く。今日も風呂を沸かす気力は湧かないのだろう。

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