027 決着
始めてクロを見た時、本当に華麗に剣を振るう人だと思った。
一緒に行動を取るようになって、彼の凄さは剣の腕前だけでは無いと分かって更に尊敬した。
あの時、クロを帝都に誘った事に後悔は無い。
でもクロはどう考えているだろうか。言葉数の少ない彼の考えている事は分かりにくい。
その未来を見通す目で見る世界がどの様な物なのか、俺にはさっぱり分からない。
それでも、仲間として、友としてクロが悩んでいる時に力になれる様に、胸の内を曝け出せる場所になれる様に。
その為にも俺は…強くなりたい!
「取り敢えず死んどけよ」
俺の近くまで走ってきていたマリーの背後に突如コソクザが出現し、力任せに腕を振ろうとしている。
あまりに突然だった為、誰一人としてまともに反応出来ていない。当事者であるマリーですら呆然と立っているだけだ。
でも、俺は反応出来た。あの山で、赤龍に出会った時からずっと考えていた。
次こそは必ず、ただでやられはしないと。だから反応出来た。
マリーを突き飛ばし体を入れ替える、剣を盾にしながらコソクザの力任せの裏拳を受け止める。
なるべく衝撃が少なくなる様に、相手の拳を受け流しながらだ。
それでもその圧倒的な怪力の前で体ごと吹き飛ばされてしまう。吹き飛ばされる瞬間に手元から激しい破壊音がした。
「ぐぅ…!!」
「ブレイブさんっ!」
受け身を取りながら転がり、何とか体制を立て直す。手元を見れば愛剣は無惨にも砕け散っていた。
もう使い物にならない。直す事も不可能だろう。
「チッ邪魔をしやがって、まあいいでしょう。どうせ全員殺すのですから」
コソクザは今の一撃でストレスを発散させたのか、また芝居掛かった丁寧な喋りに戻っていた。だが、怒りが完全に消えた訳では無いのか、即座にマリーに対して追撃をせんと構える。
「
攻撃態勢に入ったコソクザに対してデータロウが騎士を二体召喚し、応戦することで標的を変えることに成功していた。
だが、データロウを見ると少し辛そうな顔をしている。ここに来るまでの戦闘、そしてコソクザとの戦闘でかなりのマナを使っている。
かなり疲れが出ているのだろう。
俺も早く戦線に復帰しなくては、このままではジリ貧になってしまう。
だが俺の手にある愛剣は見るも無惨に破壊されてしまっている。俺は剣術以外の戦闘方法を持っていない。
剣を持たない俺が、戦闘に加わった所でただで死にに行くようなものだ。
いや違う!そうだ、剣ならあるじゃないか!俺はこのダンジョンでクロから剣を貰っているじゃないか!
まさかクロはこの事を見越していたのか!?やはりクロには叶わないな。
俺は背中に背負っていたその剣を鞘から抜き放つ。
今まで使っていた愛剣よりも少し短い刀身。だがその漆黒の刃はクロを想起させる。今この場に居ない彼が俺に力を貸してくれている、そんな錯覚を起こさせる。
「力を貸してくれ!クロ!」
力を込めて柄を握る。すると刀身が少し熱くなった様な気がした。それはまるで俺の思いに応えてくれているかの様だ。
「これなら行ける!!」
データロウの召喚した騎士はすでに一体倒されている。ノノと残りの騎士で応戦しているが、少しずつ押され始めている。
コソクザは俺の事は眼中にない様だ。執拗にマリーを狙っている。
幾度と攻撃を防がれたコソクザに少し焦りが見え始めている。先程見せた瞬間移動の様な技も、何故か使ってこない。
焦れたコソクザの攻撃が大振りになった。
今がチャンスだ!
俺は自分の感覚に従って全力で地を蹴った。
このダンジョンに入ってから自分でも驚く程体が軽い。
彼我の距離はあっという間に零になった。
「何!?」
俺が背後を取った事に驚愕するコソクザ。
だが、もう遅い。その大振りの攻撃では振り向いて防御するだけの時間は無い。
「ハァァァアアアア!!」
全力を込めて、剣を下から斜めに振り上げる。
すると剣先から炎が溢れ出し、斬撃と共にコソクザを襲った。
「アア!?熱い!?!?体が燃えるゥウウウ!?」
それはあっという間にコソクザを包み込み、燃え上がった。
「まさか魔剣だったなんて…」
本当に驚いた。もう終わったダンジョンであった筈の、この場所にまさかまだアーティファクトが残っていたとは。
それを何気無く見つけてくるクロはやはり凄い。
コソクザは火を消そうとのた打ち回っている。
「やったのか…?」
コソクザの動きは止まったが、まだ炎は燃え続けている。
「凄いなブレイブ!そんな切り札を持っていたなんてデータ以上だ」
「凄いですよ!ブレイブさん!」
データロウとマリーが駆け寄ってくる。
終わったのか…勝ったんだ俺たちは。
アキラたちを見るとそちらも佳境に入っている。可能であれば助太刀したいが、今は疲労で動けない。
「…何か…可笑しい」
立っているのもやっとだったので、座り込もうとしたその時だった。
燃え続けるコソクザを見ているノノが呟いた。
「可笑しいって何が…」
そう言ってコソクザを見れば、先程まであった筈の炎も、肉体も何処にも見当たらない。
「なーんちゃってェ!」
上から声がする。慌ててその声の方向を見れば、燃えてボロボロになった筈の服も、背中に付けた筈の傷も何もかも無かったかの様に、綺麗さっぱり治ったコソクザが浮いていた。
「うそ…だろ?」
「現実なんですよ、これが」
コソクザはゆっくり降りてくる。その声には明確な怒気が含まれていた。
「全く、疲れるから嫌なんですよ。これを使うのは。お前らもうめんどくせぇから殺すわ」
地面に足が着いた。瞬間、体が麻痺したかの様に動かなくなる。
「こ、これは…!?」
「…動けない…!」
後ろの戦闘の音も聞こえない。まさか、地竜含めてコソクザ以外の全ての生物の動きが止まって居るのか?!
「少しは遊んでやろうと思った俺様が馬鹿だったんだよなァ!やっぱり雑魚は雑魚らしく軽く捻り潰されるのがお似合いなんだよォ!」
コソクザが手を広げる。
何か、得体の知れない何かが空間に広がるのを感じる。
「死ねェ!!!」
パキン
何かが割れた様な音が聞こえた。
「え…?」
その困惑の声は誰の物だったか。声を出しはしないものの、この場の全員が状況を理解出来てないのは確実だ。
コソクザを含めて。
「は?はぁぁあああ!?」
気が付けば体は動かせる様になっていた。
「何で!?何で何で何で何で何で!?何故ェ!?」
コソクザが半狂乱になって叫んでいる。
何故かコソクザから感じていた恐怖感、威圧感等を全く感じなくなっている。
「オラァ!大将首討ち取ったりィ!!」
「アァ!?」
地竜と戦闘していた筈のアキラが、何故かコソクザに対して刀を振るっている。
何とか体を捻って、避けようとしたコソクザだったが、完全には避けきれず肩の辺りを切り裂かれた。
正面からの攻撃だったにも関わらず、コソクザはダメージを受けている。
「痛ッ!?クソがァ!覚えてろよォ!!」
吐き捨てる様に言って、アキラから距離をとり右腕を上げた。
だが、何も起こらない。
「あ゙ぁ゙!?何故ワープが出来ないィィイイイ!?」
本人も想定外だったらしい。発狂するその姿は、先程まで脅威と感じていた人物と同一だとはとても思えない。
「助けッ…」
何かに助けを求めようとコソクザが手を伸ばす。だが。
「…私は、お前を許さないッ!」
マナをあまり感じない俺でも分かる程に、全身にマナと怒りを纏ったノノがコソクザの背後を取っていた。
「しまっ」
「…シッ!!!」
短く息を吐き、繰り出された洗練された突き。
それは初めにこの場で繰り出した物よりも威力は低くなっていただろう。
だが、今度は受け止められる事は無かった。
ノノ渾身の突きを喰らい、勢いよく水平に飛んでいく。
その勢いは止まる事を知らず、そのまま壁にぶつかる事で漸く止まった。
「ガハッ!」
その衝撃で肺の空気を吐き出す。
「このォ!クソ雑魚共がァ貴様らッ!」
コソクザはそれでも尚も悪態をつこうとするが、その言葉を最後まで言い切る前に壁に異変が起きた。
ピシッと音が聞こえたかと思った次の瞬間。
コソクザは壁ごと両断された。
「アギャァアアアアアアアー!!!!」
真っ二つになったコソクザが急激に枯れ木のように乾いていく。
「何故、、なぜ、、、な、、、ぜ、、、、、」
そう言い残してコソクザは完全に絶命した。その視線は気の所為でなければエノクを見ていた様な気がした。
その破壊された壁の向こうからこちらに歩いて来る人影が見えた。
「…終わった」
それはクロだった。やはり彼はあの程度で死ぬ様な存在では無かったのだ。
そして、その発言から察するにクロには全てが分かっていたのだろう。
ああして壁の向こうに落ちるのも全ては彼の計算による物だったのだ。
アキラやデータロウたちは何が起こったのか理解が追いつかないのだろう。その場で呆然と立ち尽くしていた。
だが、ノノはクロの姿が見えた瞬間に彼の元へと駆け出していた。
これで漸く今回の依頼が終わったのだ。
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