028 なんだ食人族か


「終わった…」


 やってしまった。額に冷や汗が滲む。まさか壁の向こうに人?が居るなんて。

 なんか真っ二つになった後に枯れ木みたいに萎んでしまったが、まあ間違いなく人間だろう。

 まああれかな、今なら誰も見ていないだろうし、事故って事でどうにか…そう考えて顔を上げる。

 そうして顔を上げた先にはブレイブを始めとした皆が俺を見ていた。


「ふっ…」


 あ~、もうこれ完全に終わりですわ。笑う事しか出来ねぇ。

 心做しか皆の俺を見る目が、こう、犯罪者を見る目というか、呆けているというか…終わりですわ。


「クロ…?本物…?」


 ノノが涙を浮かべながら少しずつこちらに近づいてきている。近づいてくる速度は段々と早くなり、最後の方は攻撃かと思うくらいのスピードで突っ込んでくる。

 そのままノノは俺の顔に飛びついた。首から嫌な音が聞こえる。


「グェッ」


「クロッ!良かった本当に…死んじゃったかと思った…」


 結構な力で絞められているのか頭全体からぎりぎりと音がする。

 ノノが何か喋っている様な気もするのだが、耳がノノの太ももで塞がれている為、よく聞こえない。

 微かに死って聞こえた気が…。

 これはあれか、身内から犯罪者が出る前に処分しておこうと言う事なのだろうか。

 ちょっとまだ死にたく無いなぁ。


「…俺はまだ死なない」


「!…うん!」


 まだ死にたく無いよ〜って言ったら絞める力が強くなった。

 ホンマに死んでまうわこら。

 流石に絞め殺されるのは勘弁なのでノノを頭から引き剥がそうとする。

 が、引っ付く力が半端では無く、どうにかお腹の方にずらす事で事なきを得た。


「彼は植人族だったのか。彼らの種族にあの様な魔法を使う記録は無かった筈だけど…彼特有の能力なのかそれとも…」


「俺のデータにもあんな魔法は記録が無い。もしかすると失われた魔術かも知れないな」


 漸く周りの状況が確認できたが、気が付けば皆が近くに来ていた。

 データ君とエノキは俺が斬った人?を見て何やら話している。

 食人族…?人喰いの部族なの?あっ…てことは敵!?斬っても大丈夫なタイプの人間だった!?


「…食人族だったか」


「ああ、死後枯れ木の様に全身の水分が抜け落ちるのは植人族の特徴だ。…ここまで急速に枯れるのはデータ外だが」


 一応確認をすればデータ君からしっかりと確認が取れる。

 やっぱり食人族だった!つまり悪い奴!セーフ!

 あっぶねぇ…危うく牢屋行きになる所だったぜ…牢屋だと剣振る時間無さそうだし嫌だもんなぁ。

 人喰いの部族が死んだ時に何故枯れるのかは知らないが、兎に角命拾いをした。

 そう心の中でホッとしたのも束の間、データ君が俺の出て来た空間に見て声を上げた。


「これは、この宝石の残骸は一体?」


「ッ!!」


 やっべ!!こっそり財宝をぶった斬ったのがバレてしまった!

 背中に冷や汗をかいているのを感じる。

 まさか壁を破壊した先に皆が居るとは思っても居なかった。

 その為、宝石の残骸を片付けると言う思考に至らなかったのだ。

 取り敢えずそれっぽい言い訳をしておこう。


「…それが力の源だ…破壊しなければいけなかった」


「何だって…!?」


 そう、それが俺たちがこのダンジョンを探索する目的…モチベーションの源なのだ。

 だが、俺はそれを自分の本能のままに破壊するしか無かったのだ。

 いや、本当に申し訳ないとは思っている。

 思っては居るが、きっと同じ状況になれば次も同じ事をする自信が俺にはある。

 俺の言い訳にすらなっていない罪の告白に、データ君は絶句している。

 …本当にごめんね?


「確かにこの宝玉のカケラからは何かの力の残滓が感じられるね。恐らくこれがコソクザの力の源だったのだろうね」


「まさか、クロ、君はこの事が分かって居たのかい!?」


「……ああ」


 いや本当に申し訳ない。皆この財宝を楽しみにこのダンジョンに来てたのは分かってた。

 でもほら、まだ他にも財宝あるから良いよね?有るよね?


「なんて奴だ、データでは計り知れない…!」


「この宝玉は恐らく国宝級の代物…世界にも数える程しか無いだろうね」


「それ程か…」


「…ああ」


 ああ、やっちまいましたわコレ。

 多分一番貴重なヤツを壊してしまったぽい。

 データ君とエノキの顔がマジかこいつみたいなドン引きの表情だもん。

 コソクザがどうのとか、宝玉が何故こんな場所にとか二人が話すのが聞こえて来たが、この場に居るのが気まずくなった俺はこの二人から少し離れる事にした。


「ハッハッハッ!流石はクロだな!!ただ力が有るだけでは無いな!!」


「…ああ」


 満面の笑みのアキラに肩を叩かれる。

 多分俺のあまりのアホっぷりに笑いが止まらないのだろう。

 くそっ!次はバレずにやろう。


「ししょー!ご無事で良かったです!!」


「クロ、君なら大丈夫だと思っていたよ」


「…ああ」


 アキラに続いてマリーとブレイブが話しかけてくる。

 二人の格好はやけにボロボロだった。よく見ると二人だけではなく皆結構ボロボロだ。

 俺が穴に落ちてから魔物との戦闘でもあったのだろうか。


「クロ、君がくれたこの剣のお陰で生き延びる事が出来たよ」


「…そうか」


「君はダンジョンに入る前からここまで読んでいたんだろう?全く、本当に凄いやつだ」


「…フッ」


「俺は必ず君の隣に並んでも恥ずかしく無い実力を身につけるよ!」


「…ああ…楽しみだ」


 なんか前にもましてブレイブから感じる信頼の眼差しが強くなっている気がする。

 途中言ってる意味がよく分からなくて笑って誤魔化す事しか出来なかった。

 よく分からないけど楽しみにしてるよ。

 まだ色々調べる事がある様だったが、今日の所は一旦帰還する事となった。








 帰り道、特に何か問題が起こる事もなく無事に町まで辿り着いた。

 そのままギルドへと方向に行きデータ君が報告をすると何やら職員たちがバタバタとし始めた。

 職員と共にデータ君が奥へと姿を消す。

 それから少しして奥からギルド長が姿を現した。


「皆ご苦労だったな、よくぞ解決してくれた。追加の報酬はまた後日、事件の詳細調査が終わり次第になるが、必ず渡そう」


 ギルド長はそう言うと険しい顔で俺を見る。


「それとクロ、お前には詳しい話を聞きたい。明日朝一でギルドに顔を出してくれ」


「…ああ」


 それだけ言ってギルド長は再び奥へと姿を消した。

 明日か…行きたく無いなぁ…。

 絶対宝石壊した件だ、きっとめちゃくちゃ怒られるんだ。

 俺は憂鬱な気分で宿に戻った。

 ノノは風呂に入るまでずっと俺にくっ付いていた。

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