第28話 終結 — 永遠の盾という名の要塞(ライナスエンディング)
ロゼリアのライナスの選択と、五人の独占者の運命を情報として差し出すという取引は、シリルにとって最高の対価となった。
シリルは、ロゼリアの要求通り、ライナスを彼女の「公的な保護者」として復権させるという形で取引を呑んだ。この事件の全ての情報は、「王室と裏社会の機密」としてシリルの管理下に置かれた。
「ロゼリア嬢。貴女が選んだ『安全』の対価は高くつくぞ。この瞬間から、貴女の人生はライナス・グレイという、最も強固な独占者によって、永遠に守護される」
シリルは裏社会のネットワークとロゼリアの魔力に関する情報を巧みに利用し、ライナスを「ロゼリアの魔力暴走を鎮静させた唯一の英雄」として表向きの地位を確立させた。ライナスは王族直轄の親衛隊長として、ロゼリアの「安全」を確保するための絶対的な権限を与えられた。
エドガー王太子は、裏路地での暴力と婚約者への横暴が明るみに出たことで、王位継承権の剥奪と国境防衛隊への左遷という形で失脚した。彼は、王権という檻を失ったが、「いつかライナスの盾を破り、ロゼリアを奪い返す」という純粋な嫉妬と憎悪だけを燃料に、一生を武力による独占を目指すことになった。
ユリウス・エルド侯爵令息は、魔導具の盗難と、今回の失踪事件の**「科学的責任」を全て負わされ、侯爵家から追放された。彼はロゼリアの規格外の魔力という研究テーマを永遠に追いかけるという終わらない罰を与えられたが、シリルとの取引により「ロゼリアの魔力の定期的な報告」をライナスに行うという、歪んだ接点を永遠に持たされることになった。
ノア・ディンは、裏路地での暴力沙汰を理由に貴族の地位を完全に剥奪された。しかし、ロゼリアとの取引により命は救われた。彼は**「ロゼリア様の平穏を乱した者」として永遠に自責の念に囚われ、表舞台から姿を消した。彼は、遠く離れた場所でロゼリアの安全な住居を監視し続ける**という、影の献身者となった。
ロゼリアとライナスは、王都に設けられたライナス親衛隊管理下の「要塞屋敷」で暮らし始めた。
ロゼリアは望んだ安全を手に入れた。彼女の周囲にはライナスの選抜した精鋭の騎士しかおらず、彼女に害をなすものは、たとえ小さな噂一つであろうとも、ライナスによって瞬時に排除される。
ライナスの愛は、忠誠という名の絶対的な独占だった。彼はロゼリアを「最も尊い責務」として扱った。彼女の部屋は、王族の居室よりも厳重に守られ、彼女の外出は、「敵の脅威度」に応じて全てライナスによって決定された。
「ロゼリア様。本日は午後三時に庭園での散策を許可します。ただし、私と隊員二名が常に貴女の視界内にいます。視界外に脅威が存在する可能性があるためです」
ライナスの瞳は、常に騎士の張り詰めた緊張を湛えている。彼はロゼリアの「平穏」ではなく、「安全」を絶対的なものにするため、彼女を世界という脅威**から完全に遮断した。
夜、ロゼリアが自室の窓から、外の親衛隊の厳重な監視の光を見つめていると、ライナスが音もなく背後に立つ。
「ロゼリア様。不安ですか?」
「いいえ、ライナス様。貴方の武力が、私を絶対的に守ってくれると知っています」
ライナスは満足そうに頷き、ロゼリアの首筋に、「誰も侵入できない聖域」を意味するような強い誓いのキスを落とした。
「貴女の命と安全は、永遠に私の責務です。貴女の体は、この要塞の中に、貴女の心は、私の忠誠の中にのみ存在するのです」
ロゼリアは、その武力と献身という名の要塞の中で、「殺されない安全」と引き換えに「永遠の自由」を失った。
(私は、ライナスという最強の盾に永遠に囚われた。この張り詰めた安全の中で、私は彼の所有物として、永遠に絆されたのね……)
永遠の盾は、ここに結末を迎えた。
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