第27話027_ブリッツからの提案
作者です。申し訳ございませんが、話の都合で前の話の最後に出た人物を幼い少女からおっさんに変更しました。
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「して、相談とはなんだ」
その男が現れた瞬間、エレファントスは飛び跳ねるように立ち上がった。リブロとマリセも慌てて片膝をつき、視線を下に向ける。
ブリッツとアテナは事情が分からず、突然現れたその男をただ見つめていた。
癖のある髪はあちこちで跳ね上がっており、加齢によって真っ白に染まっている。太い眉も白くなっていたが、その下にある野心ありげな瞳が、じっとブリッツを見つめていた。
なぜか貫頭衣をまとっていたが、その体は肩幅が広く、衣服の下にある筋肉の厚みが容易に想像できた。おそらく、文武両道の人物なのだろう。
エレファントスは困ったような顔をして言った。
「…王よ、私が伺うと言ったではありませんか。それに、その恰好は……また街に出かけましたね?」
「何を言う。街の視察だよ、視察」
その言葉に、アテナとブリッツは顔を見合わせた。そして、はっと目を見開くと、慌てて膝をついた。
メルだけがぼーっと立っていたため、ブリッツがそっと手を引いて膝をつかせた。
人族の王――イート・グロースは、低く、よく通る声でブリッツたちを嗜めた。
「立ち上がってよいぞ。国家の緊急事態だ。形式は二の次でよい」
ブリッツたちはお互いの顔を見合わせると、恐る恐る立ち上がった。
「お前たち、邪魔者が現れぬように見張っておけ」
王がそう言うと、後ろの廊下に控えていた兵士たちが、静かに扉を閉めた。
「改めて――儂は人族の王にして、かの愚王ランデル・グロースの実弟、イート・グロースだ」
エレファントス以外の人族たちは、その言葉に改めて頭を下げた。
「王よ、お話をされるのであれば、せめてこちらにお座りください」
「堅苦しいやつだなあ、お前は」
エレファントスの言葉に、王は面倒くさそうな顔をしながらも素直に従い、椅子に腰掛けた。エレファントスはブリッツたちの横へと移動する。
王は机の上に置かれていた報告書に目を通し始めたが――読んでいる途中で、耐えきれなくなったのか、笑い出した。
「ぶははっ! 珍妙な勝負を思いつくものだ。まさか“糞を漏らす魔術”で、半年間の停戦を魔王が受け入れるとはな!」
報告書にさっと目を通した王は、顔を上げるとブリッツに問いかけた。
「先ほどの相談事とは何だ?その相談事とやらは、ここに書かれている“勇者”を見つけるために必要なことなのか?」
「え、ええ……その通りです」
「ならば、すべて叶えよう」
王は即決した。
エレファントスが慌てて進言する。
「お待ちくださいっ! まだ内容も聞いていないではありませんかっ!」
「何を言う。一個人の武力が、国家の軍事力に比肩する時代だぞ。我々にとって“勇者”というのは、何に代えてでも手中に収めねばならんだろう」
そう言って、王はエレファントスを制すると、再びブリッツに向き直った。
「ブリッツ。言ってみろ」
ブリッツは王の目を見つめながら、話始めた。
「……王都に人を集める必要があります」
「勇者が王都以外にいる可能性を考慮して、ということだな」
「おっしゃる通りです」
「ならば、徴兵でもするか?」
「いえ。おそらく徴兵では、逃げ出した貴族たちは戻ってこないでしょう」
「なるほど。一理あるな……」
王は顎に手を当て、思案に沈んだ。
その時、マリセが進言した。
「王様、よろしいかしら」
「今は議論の場だ。確認を取らずとも発言してよいぞ」
「ありがとうございます」
マリセは恭しく一礼し、提案した。
「私たちは停戦を勝ち取りました。これを機に、停戦を祝う祭事を行ってはどうでしょうか?」
「…祭事なら明るいニュースだ。外の人間も帰都しやすいかもしれんな」
エレファントスが口を挟んだ。
「一時的な休戦ですよ。戦勝、あるいは永続的な停戦ならともかく、一時的な停戦で祭事を行うのは、いかがなものでしょうか?」
「ふむ……ブリッツよ。君はどう思う?」
ブリッツはすでに答えを用意していた。
「『勇者の誕生』を祝う祭事はいかがでしょうか?」
「おいおいっ!」
リブロが慌てて制した。
「待ってくれよ。その祭典の間に探すんだろ? 最悪、主役が不在になるぜ」
その問いには、王が答えた。
「代役を、もとから立てておくのだな」
ブリッツが深くうなずいた。
リブロも「なるほど」と呟いた。
「実際、勇者を見つけられたとしても、人族の象徴としてふさわしくない人物かもしれません。ですが、あらかじめこちらが代役を見繕っておけば、その心配はありません」
「…面白いかもしれんな。では――『勇者による魔王討伐の出征式』というのはどうだ?」
皆がその案にうなずいた。
「……勇者は、どうやって選定されるのですか?」
アテナが口調を改め、王に問いかけた。王とエレファントスは考え込む。
王がゆっくりと口を開いた。
「……インパクトが必要だな」
「歴戦の兵士から選ぶのはいかがでしょうか? 軍部にふさわしい者はおりませんか?」
「いや、王都軍に頼るのは良くない。魔王討伐に向かった部隊は、何度も失敗している。そんな中で『ハリボテ役』を頼めば、やつらのメンツを傷つけることになる」
「メンツを気にしている場合ではないのでは?」
アテナの鋭い言葉に、王はそれでも首を振った。
「メンツは大事だ。いや、『大事』というより、人の本能に根付くものなのだ。その厄介なもののために死ぬ人間を、私はいくらでも見てきた。軽視すれば、痛い目を見るぞ」
その言葉にさすがのアテナも黙った。王は続けた。
「さらに言えば、今さら屈強な兵を壇上に並べたところで、皆、疑問に思うだけであろう。それよりも、皆が想像しない――たとえば少年や女性。そういった人物のほうが効果があるかもしれん」
そう言って、ふとブリッツたちの方を見つめた。
「あっ……」
王が呟く。
「まっ、まさか……」
リブロが青ざめた声を漏らす。
「適任がいるじゃないか。今ここに」
「俺たちの中から選ぶつもりっすか!?」
リブロが慌てて止めた。
「考えてみれば、君たちはそもそも停戦を勝ち取った英雄だ」
「……良いかもしれませんね」
エレファントスが王に賛同した。
「わ、私は入っていないよな……!?」
敬語も忘れてアテナが叫ぶ。
「何を言う? インパクトという意味では、君ほどインパクトのある人物はいないぞ。もちろん、君がハーフであることはきっちり強調しよう。私から発言してもいい」
「……そんな、ばかな……」
「勇者だけでは弱いかもしれません。パーティーにするのはどうでしょうか?戦闘に長けた少数精鋭の集団。その長たる『勇者』」
「『停戦を勝ち取った勇者パーティー』……いいじゃないか!! それで行こう!」
王は机を叩いた。場が静まり返る。
エレファントスがブリッツたちに向き直る。
「王命だ。素直に従え」
そう言って、にやりと笑った。
…
……
………
「よし、これでストーリーは決まった!あとの細かい部分はこちらで詰めておく。君たちは最終日に登壇してくれ」
「まっ、待ってください!」
「なんだ。もうこれは決めたことだ。覆さぬぞ」
「いえ、違います。もう一つ、相談したいことがあるんです!」
「……よい。申してみよ」
「協力者が必要ですっ」
「協力者が必要なら、誰だって呼んでかまわないぞ。人や金が必要なら、エレファントスに申せ」
「……もしかしたら、王様の許可が必要かもしれません」
王が怪訝そうな顔でブリッツを見つめる。
「……妙な言い回しだな。……まさか」
「……はい」
「……その協力者は、魔族か」
ブリッツは黙って頷いた。
「その人物なら、『黄金の糞』を嗅覚で探すことができます」
マリセ、アテナ、リブロ――
共に戦った仲間たちが、ハッとしたようにブリッツを見つめた。
「皆も、心当たりがあるようだな。ということは……なるほどな」
王も合点がいったのだろう。
「蠅族の少女アミュレ――この報告書に書かれている魔族の少女だな」
ブリッツは、深くうなずいた。
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