第31話 獲物の処分
「おい、さっき文句を言っていた奴らは、ここへ来て見ろ」
解体係に呼ばれてやって来た男達に、解体係がキツい一言を投げかける。
「お前らの獲物とこれを見比べてみろ。殆ど傷がなく一突きか二突きで仕留めている。鳥に至っては傷すらなく首を捻っているだけだ。せめてこの半分の腕になってから意気がれ」
一際目につくオークは、胸に一突きとか首筋に短槍の傷痕だけの綺麗なもので、自分達との腕の差に黙り込む。
オークもそうだが、キラードッグもブラックウルフも一突き一太刀で仕留められている。
まさか目を回したウルフやわんこを、俺が嫌々突き刺したり、ナイフで切り付けて傷付けたとは思うまい。
「冒険者は見掛けじゃないことを覚えておけ」
解体係の言葉に誰も何も言わない。
* * * * * * *
エールのジョッキを抱えて空いた場所に座ると「兄さんは初めて見る顔だな」と同じテーブルの男から声が掛かる。
「ええ、俺もこの街は初めてですから。ここは稼げますか」
「おいおい、小僧っ子が生意気にエールを飲んでいると思ったら、稼げるかだとよ」
「お前は相変わらず他人を馬鹿にするなぁ。そんなだから何時までも馬鹿にされるんだよ」
「なんでぇ、どう見ても登録したばかりのアイアン一級の小僧だろう」
「ばーか、相手をよく見ろよ」
「よれた服にナイフしか持っていないじゃねぇかよ」
「初めての街、仲間が居るように見えない、ナイフ一本ぶら下げただけでよれた服。それを見て登録したばかりと馬鹿にするとは、死ぬまでEランクだな」
お前の方が余程酷い服装だぞと思っていると、隣の男に揶揄われているので笑ってしまった。
「何が可笑しい!」
「余りにも的確な指摘につい、俺から見ても貴男はブロンズには見えませんので」
隣の男が腹を抱えて笑い出した。
解体係のおっさんが査定用紙を持ってきてくれたので受け取り確認する。
チキチキバード 13羽×65,000=845,000ダーラ。
ランナーバード 15羽×38,000=570,000ダーラ。
グリンバード 9羽×26,000=234,000ダーラ。
レッドチキン 12羽×22,000=264,000ダーラ。
オーク 3頭×83,000=249,000ダーラ。
ビッグエルク 1頭、38,000ダーラ。
ホーンボア中 1頭、53,000ダーラ。
ブラウンシープ 1頭、56,000ダーラ。
プレイリーシープ 2頭×61,000=122,000ダーラ。
キラードッグ 6頭×18,000=108,000ダーラ。
ブラックウルフ 8頭×31,000=248,000ダーラ。
合計2,787,000ダーラ。
金額に満足して礼を言いギルドカードを受け取ると、馬鹿にしてきた男にチラリと見せてからマジックポーチに放り込む。
「見ろよ、お前よりランクが上だぞ」と揶揄われている。
「レオン、鳥を狩るのは得意なのか?」
「野獣相手より楽ですし、金になりますから」
「この街には何時まで居るんだ?」
「王都見物でもしようかと思って、旅の路銀稼ぎですので暫くとしか」
「出来るだけ鳥を集めてくれないか」
「あれは十日くらい掛かって狩ったものですので直ぐにとは」
「ああ、獲れたら持ってきてくれ」
今日出した倍以上の鳥さん達がマジックバッグの中で眠っているのだが、時間遅延の都合もあるので早いとこ処分したいが、この街で連続して売るのは不味いだろう。
「兄さん、鳥って?」
「レッドチキンやグリンバードですよ。一羽で20,000から25,000になりますので、下手な獣を狩るより楽ですから」
「あれは中々見つけられないし素速いからなあぁ。それを解体係が集めてくれと言うのなら、相当良い腕だな」
「お前も頑張れよ」と、隣の男に向かって揶揄い気味に言っている。
そう言うあんたもソロのようで、俺を馬鹿にした奴とは違い良い服を着ているが丸腰だ。
2,787,000ダーラ、懐の金と合わせれば4,500,000ダーラ前後は有るはずだ。
装備や服を買い直すか懐の獲物の始末が先か悩む。
* * * * * * *
一晩考え、獲物の処分を一つ手前の街ヘリエントに戻ってすることにした。
早朝からブランジュ街道を西に下り、昼前にはヘリエントの冒険者ギルドに到着し買い取りのおっちゃんにウルフを売りたいと告げて解体場へ通してもらう。
ウルフやわんこ程度ならさして疑問も持たずに通してくれたので、これからはわんこかウルフを通行手形にすることに決めた。
真っ昼間で暇そうな解体係に、鳥さん中心にわんことプレイリーシープだと伝えて並べる場所の確認。
チキチキバードを並べ始めると「ほうほう、うんうん、中々良い腕だな」とのお言葉をいただく。
チキチキバード 12羽。
ランナーバード 17羽。
グリンバード 11羽。
レッドチキン 14羽。
ビッグエルク 1頭。
ホーンボア中 1頭。
プレイリーシープ 3頭。
ホーンドッグ 8頭。
ファングドッグ 7頭。
カリオン 9頭。
グレイウルフ 6頭。
何時もの如くギルドカードを預けて食堂へ向かい、空きテーブルに座ってエールを煽る・・・向かいのテーブルで酔い潰れている親父の頭に例の気配がする。
混み合ったギルドの食堂でなら人の気配でそんなものは感じられないのだが、人が疎らだと小さな気配もはっきりと判る。
薬師ギルドのエルフは精霊付きと言っていたな。
御利益は無いと肩を竦めていたが、酔い潰れている親父も御利益を受けていなさそうだ。
と言うか、御利益に預かってる者を見てみたいものだ。
査定用紙を持ってきてくれた解体係のおっさんも、チキチキバードやランナーバードが獲れたら持ってきてくれと言ってくる。
通りすがりに溜まった獲物の処分をしているので、当分この街には来ないと断っておく。
渡された査定用紙に満足して礼を言って受け取る。
チキチキバード 12羽×65,000=780,000ダーラ。
ランナーバード 17羽×38,000=646,000ダーラ。
グリンバード 11羽×25,000=275,000ダーラ。
レッドチキン 14羽×22,000=308,000ダーラ。
ビッグエルク 1頭、123,000ダーラ。
ホーンボア中 1頭、53,000ダーラ。
プレイリーシープ 3頭×61,000=183,000ダーラ。
ホーンドッグ 8頭×22,000=176,000ダーラ。
ファングドッグ 7頭×23,000=161,000ダーラ。
カリオン 9頭×21,000=189,000ダーラ。
グレイウルフ 6頭×37,000=222,000ダーラ。
総額3,116,000ダーラ。
これで手持ちが7,600,000ダーラを少し越えたくらいかな。
行く先々で鳥さんの需要があるのは嬉しいが、どうも目立ちすぎているようで金魚の糞がついてくる。
街を出る前に市場で食料調達に励み、序でに調理に必要な塩や香辛料を買い込むが、俺は塩味と胡椒味の香辛料だけで十分だ。
早い話が俺に料理の経験が無く、センスもスキルもないので下手に香辛料をぶち込むと食い物じゃなくなる恐れがある。
美味いものは市場で仕入れるか、食堂に潜り込んで食べれば良いと諦めている。
陽が落ちる前にヘリエントの東門から出て少し走ると、慌てて追いかけてくる奴がいる。
その気配に向かい、軽い〔つむじ風!〕で包み土埃を舞い上がらせる目潰し攻撃、これで諦めなければ空の旅を楽しむことになる。
* * * * * * *
夜営中に欲しい物リストを考える。
第一にタープを被って寝るうっとうしさに参っているので小屋が欲しい。
後は魔道具店や商業ギルドに出向く時の為に、綺麗な服とブーツにオルガ達が持っていた魔鋼鉄製の短槍とよく切れるナイフかな。
何処へ行っても知らない街なので、綺麗な服とブーツで貧乏冒険者と侮られない格好が必要だ。
それから商業ギルド・・・冒険者ギルドの預け入れが空っぽだった。
冒険者ギルドに預けている金は商業ギルドでも下ろせると聞いているが、金を預けていなけりゃ無理だ。
手持ちの金はいざという時に必要なので、あまり使いたくない。
小屋を手に入れるのは暫くおあずけで、貯金のためにせっせと狩りをする事に決めた。
* * * * * * *
ヘリエントからアデーレまで三日掛けて戻り、冒険者ギルドに直行する。
二度目ともなると解体場へは一言断りを言えば黙って頷き通してくれた。
今回は鳥さんは極僅かなので、並んでいる冒険者達の後ろで静かに待つ。
後から来た連中が大声で討伐話をして煩い。
「あーん、小僧、己一人か?」
「はい、一人ですが何か?」
「後ろに回れ! ホーンラビットの2、3匹なら買い取りカウンターに並ぶもんだ」
「そうですか。俺はもっと大きなのを持っているので大丈夫ですよ」
「おっ、大きく出たな」
「レオン、獲れたか?」
解体係のおっさんの期待に満ちた目が恐い。
「鳥さんはほんの少しです。後はビッグホーンボアとウルフ二種にオークと言ったところですので、こちらに並んでます」
「そうか、また多いときは声を掛けてくれ。頼むぞ」
そう言って戻っていくのかと思ったら、俺の後ろの男を睨み付けている。
「お前達、レオンに絡んでいたようだが、此奴が並べる獲物を見てから絡めよ」
凄い煽り文句を言うと鼻息荒く戻っていくが、後のことを考えて言えよ!
後ろの奴らの鼻息が荒くなり、その鼻息を頭から受けて気持ち悪いんだよ。
「ビッグホーンボアとウルフ二種にオークだとよ。拝ませてもらおうじゃねぇか」
「こいつから見れば並みのホーンボアもビッグホーンボアに見えるさ」
「そうそう、ウルフと言っているが、精々プレイリードッグに違いない」
何時ものことながら自分の見た目にちょっと凹むが、後で黙らせてやる。
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