第15話 非常識な魔法使い
「何か大物が争っているようだな」
アレンの言葉にオルガが行けと指示して、アレンが先頭に立ち野獣の咆哮の元に向かった。
下草を薙ぎ払い咆哮と突撃を繰り返していたのはホーンボアだが、二頭とも大物で激突音も凄い。
というか、お互いの角で突き合い牙で切り裂き血塗れで闘っている。
「さっさと片づけないと、倒れた方を狙ってウルフ辺りが出て来るぞ」
「だな、レオン、大きい方を任せたぞ。そいつが倒れたら残りは俺達が仕留める」
おいおい、大きい方かよ。
ランク1のマジックポーチから人の頭ほどの石を取り出し、皆に少し離れてもらう。
〔リング縦回転!〕を高速回転させて輪の中に石を放り込み、下手投げの要領で回転に会わせて射ち出す。
暴れているので一発目は外れないように腹に当てると〈ブギッ〉と悲鳴を上げて動きが止まる。
即座に頭を狙った二発目を射ち出すと、鈍い音と共に頭を仰け反らせて倒れ込んだ。
「よし、射て!」
すかさずオルガの号令で四本の矢が射ち込まれると、続いて短槍を手に突撃する剛力の面々。
前後の足に二本ずつの矢が深々と突き刺さっているので、動きの鈍ったホーンボアは長い槍先に深々と突き刺されてあっと言う間に倒されてしまった。
俺の倒したホーンボアは死にきれずにビクビクと痙攣していたので止めをお願いする。
「お前って思ったよりも非常識な奴だな」
「まさか石を投げつけてホーンボアを狩る奴がいるとは思わなかったぞ」
「バレットと聞いてまさかと思ったが、あれは本当の事だったんだな」
「索敵も気配察知も並みのパーティーなら十分な腕だし、ソロでやっているのも頷けるな」
「いやいや、ドッグ系やウルフ系の防御はどうするんだ」
「だな、ウルフやタイガー種相手じゃソロでは無理だぞ」
「今夜にでもお見せします。ボルドさんの氷結魔法はどうなんですか?」
「俺は防御用のシールドと、動きが止まればアイスランスでの攻撃だ。普段は弓の方が早いのだが、威力はアイスランスの方が大きいからな」
ギルドでも全員気配を感じさせなかったのは何故かと問えば、木化けの要領だそうで俺も真剣に木化けの練習をしようと決めた。
音も立てずに歩く方法は、慣れだの一言で片づけられた。
しかし、下草や枝に掛かる蜘蛛の巣などを短槍で払いながら歩くのだが、短槍の先が漆黒なのは魔鋼鉄製で切れ味抜群だとの事。
俺の持っている冒険者の店で買った物とは大違いで、短槍や強弓に重い鏃など狩りに特化した装備を見ていると欲しくなる。
* * * * * * *
大物に出会う事もなく、中程度の野獣を剛力の面々が瞬殺していくので俺の出番はなく、野営に都合の良い場所を見つけたのでお泊まりの準備を始めた。
「レオン、狭いけど俺達と一緒に野営するか?」
「俺は風魔法で寝場所を作るので大丈夫ですよ」
「風魔法で寝場所? 風魔法なんかでどうやって作るんだ?」
「安全が確保出来るのなら、作って見せろよ」
「お前の風魔法は、話に聞く風魔法と全然違うからなぁ」
「おう、解体場で見たホーンボアやブラックウルフもどうやって討伐したのか、見るまで解らなかったからな。作って見せてくれよ」
少し離れてもらい、〔リング!〕で下草を薙ぎ払い吹き飛ばすと、直径3m程のドングリ型の〔ドーム!〕を作る。
「こんな物ですが、ギルドで見たホーンボア程度なら防げます。それ以上の奴とは出会っていないのですが、特大のバレットにも耐えるので大丈夫かと」
返事が無いので・・・全員口をあんぐりと開けて固まっている。
最初に復活したのはリーダーのオルガで〈何じゃこりゃーぁぁ〉の叫び声に他の仲間達も復活した。
「嘘だろう。風魔法でこんな事が出来るのか?」
「いやいやいや、規格外とは思っていたが・・・」
「本当に風魔法だけなのか? 結界魔法も授かっているんじゃないのか?」
「ああ、結界魔法のように光ってはいないが、まるっきり結界魔法に見えるぞ」
「これを風魔法で作っていると言われても信じられん」
ガルブが短槍で叩きながらぼやき気味に呟いている。
確かに信じ難いだろうし、作った俺も本気で出来るとは思っていなかったからな。
ただ前世の記憶で読んだラノベの知識から、魔法はイメージの言葉を信じて、イメージに魔力を乗せただけだからな。
放っておくと何時までもあれこれと話が長くなりそうなので、皆に離れてもらいゆっくりと外壁側の魔力を抜いていく。
硬質化させている外壁の魔力が抜けていくと共に圧縮された空気が噴き出して七人に襲い掛かる。
「オワッ」
「凄い風だぞ」
「マジかよぅ」
「どうですか、壊しても風が吹き出しただけでしょう」
「レオン、もう一度作ってくれ!」
オルガが真剣な顔で俺にドームを作れと言ってくるので、もう一度そっくりな物を作ってみせた。
「ちょっと試しても良いか?」
そう言いながら、マジックポーチから短槍を取り出して素振りを始めた。
強化ガラスも鋭い物の一突きで簡単に壊れる、丁度良い強度テストなので快く頷いておく。
軽く振りかぶると〈せいっ〉との掛け声と共に鋭い振りがドームを襲った。
〈ドスン〉と鈍い音がして僅かに凹んだが直ぐに元に戻り、二度三度短槍を叩き込んだが最初と変わりなし。
「俺もどの程度の攻撃に耐えられるのかよく判っていないので、皆さん一斉に攻撃してもらえませんか」
オルガの攻撃に耐えているドームを見て興味を示していた彼らは、俺の一言に満面の笑みで応えてくれた。
叩き斬り付け突きを入れるが僅かに凹むが直ぐに元に戻る。
風、空気の見えている俺だからこそ判るのだが〈ドスン〉〈ドスン〉と鈍い音しか聞こえない彼らにそれは判らない。
「ふぁー、思ったよりも頑丈だぞ」
「ああ、渾身の一撃も軽く撥ね返されてしまうな」
「ボルド、アイスランスを試してみろよ」
おっ、ボルドの魔法が見られるのか。
急いでボルドの後ろに立ち耳を澄ます。
〔麗しき創造神フェリーシェンヌ様の御業をお借りして、我ボルドが願う。彼の敵を射ち倒せ。アイスランス! ハッ〕
〈ドスン〉さっきよりも重い音がしたが、撥ね返されると同時にバラバラに砕け散った。
おお、フェリーシェンヌ様に祈りを捧げてから魔法を使うのか、胸熱。
マルコの時は半人前で、攻撃の時にはテッドの後ろ控えていたので聞けなかったからなぁ。
「大したものだな。これはどれ位持つのだ?」
「大体12時間程度ですが、魔力を増やせばもっと長持ちします」
「さっきも簡単にこれを作ったが、短縮詠唱なのか?」
「ええ、口内詠唱しています」
「大した礼は出せないが、もし良かったら俺にも短縮詠唱の極意を教えてもらえないか」
「別に大した事じゃないので構いませんよ。でも結構面倒ですよ」
「有り難い! どうやるんだ?」
「待て待てボルド、それは後だ。レオン俺達にも野営用のこれを作ってくれないか」
「オルガ、こんなスケスケの中で寝るのか」
「ぞっとしねぇなぁ」
「一度は試してみたいのだ。特に野獣がこれにどう反応するのかをだ」
喧々諤々の口論の末オルガとボルドがドームに泊まる事になり、出入り口に逆茂木を突っ込み外を眺めている。
残りの5人は棘の木で作った野営用の小屋を組み立てている。
初めて見る野営用の小屋に感心していると、お前の方が余程珍しいぞと笑われてしまった。
大きな獲物を入れたり野営用の小屋を分解して入れている所を見ると、パーティー用にランク5辺りのマジックバッグを持っていそうだ。
オルガ達のドームにお邪魔するが、逆茂木を抜こうとするので必要無いと伝えて出入り口を開けると驚かれた。
俺も最初は上下二分割にして出入りしていたのだが、二分割に出来るのなら出入り口くらい作れるはずと試したら出来ちゃった。
使えば使うほど便利になる風魔法、そのうち空を飛べないかなと夢見ている。
「ボルドさんの魔力はどれ位のなのですか」
「俺の魔力は78だ」
「氷結魔法だけですよね?」
「ああ、これ以外は授かってないな」
「シールドでもアイスランスでも良いですが、魔力切れまでにどれ位使えます?」
「んー、シールドなら24、5回。アイスランスなら12、3回って所かな」
「アイスアローは?」
「そいつはランスと変わらないと思うな。弓の方が早くて便利だから殆ど使った事がないし」
「それじゃ実質的にアイスランスなら7、8発が限界ですね」
「そんなところだな。レオンはどうなんだ?」
「俺の魔力は93ですが、一度に使う魔法の数は10から15回程度です。多分70回前後は使える筈です。魔力操作はできますよね」
「勿論だ。それが出来なきゃ魔法が使えないからな」
「魔法を使うときに腕から魔力が流れているのが判るでしょう。腕の長さ・・・手首の辺りから肩までの間で、どの程度の魔力が流れていか判りますか」
「感覚としては、手首から肘より少し長い感じだな」
「それじゃ、ドームの外にシールドを作ってもらいますが、魔力は手首から肘の前までを使うように意識してください。それと詠唱はシールドのみで良いです」
「そんなに短くては魔法が発動しないぞ」
「大丈夫ですよ。俺なんてつむじ風の一言だけですから」
そう言ってドームの外に〔つむじ風!〕を作り落ち葉を舞い上がらせた。
「おい! 短縮詠唱にも程があるぞ」
「無詠唱でも出来ますが、言葉にした方が早いので口内詠唱しています」
「まぁ、実際レオンが作っているので信用するが」
「アイスランスやアイスシールドも同じでしょうが、何時も作ってれば詠唱しなくでもシールドの一言で作れる筈です」
「ボルド、やってみろよ。レオンはお前よりも遥かに魔法巧者だ、嘘はないと思うぞ。さっきのつむじ風も一言で出来ていたし」
「何時も作っているシールドを意識して、魔力も少なくする事を忘れずにですよ」
「この中じゃ近すぎないか」
「ん、ドームの外に作るんですよ。狙った所にシールドを作れるでしょう」
ボルドが首を振りながら「つくづく常識外の魔法使いだな」なんてぼやきながらドームの外を睨んでいる。
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