第13話 剛力
開門と同時にロクサーヌに戻り、冒険者ギルドに向かった。
朝早から稼ぎに出る冒険者達とすれ違うが、ベテラン勢は数日掛けて狩りをするので低ランクと思われる者達が多い。
中には二日酔いなのか顔色の悪い者もいるが、仲間に引き摺られてお出掛けしている。
ギルドの食堂は安い朝食を食べる為に来ている冒険者達でごった返していたが、一杯500ダーラのごった煮をかき込んでそそくさと出て行く者が多い。
これじゃ周辺案内を頼むのは難しそうなので、街道周辺でウロウロしている方が良さそうだ。
道に迷う心配はないが、獲物の少ない場所や危険な所は避けたいし必死で稼ぐ必要がないのが有り難い。
* * * * * * *
ウェルナーからフォルカ、ロクサーヌまでは、ブランジュ街道の南側を東に向かって歩いてきたので、今日は西に向かって北側を探る事にした。
鳥さんを狩れば確り稼げるので、小動物やゴブリンなんかは低ランク冒険者の為に狩るのを止めることにした。
向かって来る野獣と、鳥さん主体の狩りで十分稼げる。
街道から森との境に向かって進みながら、練習が滞っていた薬草の鑑定スキルを磨く。
索敵に引っ掛かったのは複数、十以上の獣や人が入り交じった感じで状況がよく判らないが、討伐中のようだ。
索敵と気配察知、似たようなスキルだが似て異なるとは良く言ったものだ。
何方も見えなくても感覚として判るが、索敵は能力次第で相手がどの様な状態でもそこに何か居ると判るが、意識を向けなければ隣に居ても判らない。
気配察知は殺気や悪意に敏感に反応し、探らなくても潜んでいたりこちらを意識していると判る。
他の冒険者達が討伐中なら避けて通った方が良いので進路をずらし・・・〈踏ん張れ!〉〈ゴブリン如きに・・・〉
風に乗って聞こえてきたのは弱気な言葉で、低ランク冒険者達がゴブリン相手に苦戦しているようだ。
気になったので、助けがいるようならと思い向かってみることにした。
ゴブリン多数と冒険者が六人だが、ゴブリン優勢で冒険者の方は血を流したり腕を怪我したのか、片手で剣を振り回して防戦一方になっている。
このまま放置するのは忍びないので助ける事にしたが、乱戦状態なのでバレットは使えない。
つむじ風でゴブリンの目を回させる事にし、後ろの奴から〔つむじ風!〕で包み込みくるくると回してやる。
連続してつむじ風で包み、ゴブリンが目を回したと思われるものからつむじ風の魔力を抜く。
五匹目をつむじ風で包み込み、くるくると回していると流石に気づかれたが手遅れだよ。
目が回ってふらふらのゴブリンが仲間とぶつかると〈ギャ?〉とぶつかられた奴が首を傾げている。
思いついて六匹目をつむじ風で包み込み、くるくると回しながら闘っているゴブリンの方に移動させてぶつけて魔力を抜く。
ゴブリンが劣勢になり攻撃力が落ちたのに、冒険者達の攻撃が・・・皆ふらふらになっている。
仕方がないのでゴブリンの背後から短槍で突き刺すと、戦力の落ちたゴブリン達が逃げ出した。
つむじ風でくるくると回されたゴブリン達は、目が回ったのか座り込んだりゲロを吐いて蹲っている。
その後ろから忍び寄り、首に短槍を突き入れて滑らせる。
ゴブリンが逃げ出したのでほっとした顔の冒険者達が、俺がゴブリンの止めを刺しているのを不思議そうにみている。
「大丈夫ですか」
「ああ、助けられたようだな」
「死ぬかと思ったよ」
「あんなに数が多いと思わなかったぞ」
「それは俺達の獲物だぞ!」
「横取りする気は有りませんので、ご安心を」
「ネイサン、助けられてその言い草はないだろう。済まないね。俺はロクサーヌの鼠ってしがないパーティーのリーダー、ギリングだ。・・・仲間が見当たらないようだが?」
「レオンです、俺は一人でやってますので。それよりも、さっさと魔石を抜いてこの場を離れた方が良いですよ」
文句を言った奴が、餌を取り上げられた犬のように睨んで来るので居心地が悪くて背を向けた。
彼らの分と含めて討伐したゴブリンが13匹、逃げた分を含めれば20匹以上の群れという事になる。
あんな時はさっさと逃げるべきなのに、長生き出来そうにないパーティーだな。
* * * * * * *
「あの見掛けでソロとはなぁ」
「どう見ても腕が立つようには見えないけど・・・」
「てか、さっきのはどうやったんだか。ゴブリンがいきなりくるくる回り出して座り込んでしまったからな」
「いやいや、何をしたのか知らないが、所詮ゴブリン相手にソロだって意気がってもよう」
「だからお前は馬鹿だと言われるんだ。そのゴブリン相手に必死に抵抗していたのは俺達だぞ。しかも助けられたのに礼も言わずに俺達の獲物って、顔から火が出るかと思ったわ」
「それよりも、早く魔石を取りだしてここから離れようぜ」
* * * * * * *
索敵に引っ掛かるのはホーンラビットやヘッジホッグ、時々ジャンピングマウスなんて小さなカンガルーのようなネズ公。
草原も浅い所だと草食系の獣ばかりで、少し大きくてもシープ類やエルクの・・・と、わんこの群れのようだ。
ドームに籠もって暫しお茶を楽しむつもりなのに、通りすがりの一頭が俺を見つけて吠えやがった。
木化けの練習がてら、のんびりお茶を飲んでいたのが悪かったのかと反省。
俺を取り囲み吠え立ててくるが、ドームの見えない壁に遮られて獲物を襲えない苛立ちからか、煩く吠え続ける。
そっちがその気なら、俺も本気で相手をさせて貰おう、とニヒルに構える。
纏めて三匹を〔つむじ風!〕で包み込み〔回れ! 回れ!〕と回転をあげていく。
〈ギャンギャン〉と吠え立ていたホーンドッグが〈キャン〉〈キャン〉と悲鳴を上げた後は、三頭が見分けもつかないほどの高速回転の中でぐったりとなっていた。
カラータイマーが点滅したのか段々と回転が遅くなりつむじ風が消滅すると、口や目から血を流して絶命したわんこが三匹横たわっていた。
直径2mほどのつむじ風の中で高速回転されたので、高Gの重圧に耐えられなかったのだろう。
横たわるホーンドッグはぐんにゃりしていて、これをギルドに持ち込むと要らぬ詮索をされそうなので草叢に放り込んで見なかった事にする。
確か戦闘機のパイロットが対Gスーツを着ていても、高速旋回で耐えられるのが8Gか9Gくらいだったかな。
8Gとして自重の8倍、つむじ風の高速回転の中ならいったい何倍の重さになったのやら。
自分の身体で自分を押し潰すことになるのだから、生きてはいられないって事か。
対人戦では手心を加えた方が良さそうだ。
三匹をつむじ風に包んでぶん回している間に、仲間の悲鳴を聞いてわんこ達は逃げ散っていた。
次に出会ったのがホーンボアの中サイズだが、狩りはしないと決めているのにのこのことやって来る。
面倒なので〔リング・横回転!〕と変則技で包み込み、豚の丸焼きのようにくるくると回してポイと放り捨てた。
人一人相手と舐めてかかったが、くるくると回されて投げ捨てられてホーンボアも驚いた事だろう。
〈プヒプヒ〉と可愛く鳴きながら、よろよろと逃げて行った。
* * * * * * *
四日目の夕暮れ前にロクサーヌの街に戻り、冒険者ギルドに直行すると今回は大混雑している。
買い取りの親父に解体場に行くよと告げると、チラリと俺を見て頷いてくれた。
解体場では多数の冒険者が列を作っていてうんざりしたが、彼らも見知らぬ俺が一人で来たのでジロジロと見てくる。
「兄さん、何を持ってきたんだ?」
「鳥が殆どですね。後はウルフとホーンボアですよ」
「何人で狩りをしているんだい」
〈鳥とウルフにホーンボアだぁー〉
〈おい、後ろで大口を叩いている奴がいるぞ〉
〈わんこをウルフ、ホーンボアも小さい奴に決まっているさ〉
「うるせえぞ! 俺が聞いているんだが、邪魔をする気か」
「ああー、・・・〔剛力〕の、すまねぇ」
あららら、ごついがたいのおっさん連中にビビって、即座に詫びを入れたよ。
「邪魔がはいったな。何てパーティーだ?」
「俺は一人ですよ」
「よう、兄ちゃん。今日もランナーバードやチキチキバードを持っているかい?」
「グレッグさん、両方とも持っていますし、レッドチキンとグリンバードも持っています」
「おっ、それじゃーこっちへ来てくれ」
「ウルフが七頭とホーンボアも持っているんですが」
「構わねえ。ランナーバードとチキチキバードが入荷したら、即座に知らせろと突かれているんだ。今日は高めに査定してやるぞ」
「ほう。ソロで腕も良いのか」
話しかけてきたおっさんに会釈して解体係の後についていき、指定された場所に獲物を並べる。
ランナーバード、7羽
チキチキバード、9羽
グリンバード、11羽
レッドチキン、15羽
ブラックウルフ、7頭
ホーンボア、1頭
「ほう、ブラックウルフを一撃で仕留めるか。ホーンボアは傷が見当たらないが」
このおっさん、後をついてきていたのかよ。
ごっついがたいなのに、全然気づかなかったぞ。
「バレットを頭に射ち込んでます」
「バレット、土魔法か氷結魔法使いか。それにしても良い腕だ」
「オルガさん、この兄ちゃんは風魔法使いだそうですよ。バード類を持ちこんんでくれるので、入荷次第知らせろと突かれて大変です」
「風魔法・・・それでバレットを射ち込むって何だよ?」
「風魔法も使い方次第では石ころ以上の物も飛ばせますので」
ランナーバード、7羽×40,000=280,000ダーラ。
チキチキバード、9羽×66,000=594,000ダーラ。
グリンバード、11羽×31,000=341,000ダーラ。
レッドチキン、15羽×24000=360,000ダーラ。
ブラックウルフ、7頭×32,000=224,000ダーラ。
ホーンボア、1頭×65,000ダーラ。
合計1,864,000ダーラ。
おっさんがホーンボアを仔細に見ている間に、査定を済ませて用紙が差し出されたので礼を言って受け取る。
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