第5話 停学処分


【保健室】



 ダンジョンで意識を失った俺は保健室で意識を取り戻す。白いカーテンやベッド。薬品の香り。俺は保健室で目が覚めた。隣にウルナがいた。


「大丈夫ですか!! ご主人様!!」

「あ……ああ……ありが……とう」


 保健室の先生がすぐに治ると言っていた。癒しの召喚獣の力を使い治癒したとの事。教室に戻る。一堂いちどう先生と毒嶌どくじまが黒板前に立っていた。


「とんでもない事をしてくれたね……せき君」

「とんでもない事ですか?」


「ダンジョンでビッグボアを引きつれてきて皆を危険にさらした後、毒嶌どくじま君たちを妨害した。彼は危うく殺されかけたと言っている」


「ち、違います!! 俺は喧嘩を売られて、魔物はその時にいきなり現れて!!」

「お前。これを見ても言えんのか? これが証拠動画だ」


 記憶にない動画があった。途切れ途切れで都合の良いように編集されていた。動画撮影が初めてということで途切れている事は仕方ないと先生は言う。


「君は停学処分になる」

「ちょっと待ってください!! そんな急に!!」

「生徒指導室にきなさい」


 先生が先に指導室に向かう。ひそひそ話が聞こえた。


「うわっ。まだあんなゴミ召喚獣持ってたの?」

「俺なら速攻で破棄するね。くせーし」


 俺はその場から逃げるように指導室に向かう。先生と対面で会話となった。


「君は半年ほどの停学になる。詳細は追って連絡する」

「半年っ。それはいくらなんでも!! 喧嘩を売って来たのは本当に毒嶌どくじま君からなんです!!」

「仮にそうだとしても。君も応戦したんだろ?」

「そ、それは……」


「……ふぅ……彼はBRの聖獣を持っている。毒嶌どくじま君は今の日本に必要な人材なんだ……探索者シーカーを目指すなら分かるだろう?」

「っ……そんなっ……」

「それにね。半年あるんだよ? その子についても考えるべきなんじゃないかな?」


 俺はウルナを見た。破棄してから再契約できるまでは最低でも半年。一年以上かかる可能性もある。しかし、先生は破棄も考えろと遠回しに言っていた。俺はなにも言えずに指導室から退室した。


「ご主人様……」


 ウルナはなにかを言っていた気がするが頭に入ってこなかった。帰宅する。妹や両親が心配していたのを薄っすらと覚えている。俺は部屋でボーっとしていた。


(停学中は学園のダンジョンには入れない……一般のダンジョンに……いや駄目だ。危険すぎる……くそっ毒嶌どくじまの奴っ……は、破棄……か……もっと強い召喚獣があれば……)


 俺は悩んだ。考えても分からない。ふと部屋の壁に貼られたポスターを見る。剣を抜いて構える天羽さんが笑っていた。


(駄目だ分からん!! もう一度だ!! 一度失敗したくらいで!! 行こう、ダンジョンに!!)


 俺は親から反対されると思ったので内緒で出かける準備をする。学園から支給されたマジックバッグ以外にもバックパックに服などを入れた。玄関から出る時、妹の蜜柑がいた。


「お兄ちゃんっ。どこに行くの?」

「ちょ、ちょっと出かけるだけだ」

「嘘。その荷物っ。ダメだよ!! 無理だよ一人で行くなんて!!」

「っ。無理じゃないッ……俺は!! ダンジョンに行かなきゃいけないんだ!!」


「行かなきゃいけないっ? そんなことない!! 

きっとその悪魔に騙されてる!! きっとお兄ちゃんをダンジョンで殺そうとしてるんだよ!!」


「ふぇ? ち、違いますよー!!」

「じゃあただの役立たずじゃない!!」


「っ……ごめんなさい。私が弱いせいで……」

「み、蜜柑みかん……っ」


 妹の名を呼ぶと言いすぎたと口を塞ぐ。


「あ……と、とにかく危険だからダンジョンに行っちゃダメだよ!! 絶対に死んじゃう!!」


 その声を聞きつけ母の足音が聞こえた。止められるのを恐れて俺は家を飛び出した。妹がなにか言っていたが無視して走る。俺はこの日初めて家出した。


☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡




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