第6話 ダンジョンの怪物
【中央ダンジョン~ランクE~】
剣は購入していない。食料や傷を癒す飲み物を優先して購入したからだ。バックパックはコインロッカーに預けている。
ランクEのダンジョン。難易度ランクが高いほど強い魔物が多く、予想外の事故が起こりやすい。強敵がいることで有名なこのダンジョンを選んだ理由。それは人気のダンジョンで人口が多いからだ。狩る人が多いということは浅い階層ほど魔物の数が少ない傾向にある。
ダンジョンは
ただし新規や後輩の教育に借り出される事もあるし、緊急時に召集される可能性もある。しかしそれでも、一定収入は大きい。例えば怪我や病気になった際でも生活する事ができる。
最大の恩恵はやはり熟練者とパーティーが組みやすい事だろう。一般人は深い層まで積極的に行く者は少ないが、
他にも
ダンジョンの入口付近で声が聞こえた。
「初心者か?」
「死んだなあいつ……」
(気にするな……ダンジョンはどこも危険だ。そこから逃げたんじゃ深層にすら。いや中層にすら到達できない)
一階層の比較的上部で狩りをする。相変わらず魔剣と嚙み合わずに空振りが多い。死にかけたが命からがら逃げきった。何度挑戦しても思い通りにいかない。
たまに他の
ダンジョン内は殆ど暗いが、サモンドロイドで周囲を照らせるので関係ない。しかし、夜になると魔物が強くなる。狩りをするなら昼間が良い。
三日が経った。他の
―――
【ステータス】
LV2
総評4
召喚獣
【千つ子の悪魔】
スキル・魔法
なし
アビリティ
なし
―――
総評の増加量が少ない。こんなのじゃ駄目だ。英雄になんてとてもなれない。そして、最初にLVが上がってから一週間ほど経ったが成長していなかった。しかもウルナの方はまだLVが上がってない。
家から出たため安心して休めない分体力を消耗し、状況が悪くなっている気がする。日に日に絶望感が増していく。
「駄目だこんなんじゃ……」
(やっぱり半年後を考えて契約破棄した方が良いのか……)
ダンジョン内で休んでいると恐ろしい咆哮が聞こえた。慌てて立ち上がる。
「なんだッ」
逃げていく者が数人。彼等は悲鳴をあげて逃走する。周辺にいた者も反応した。
「うわあああ!!」
「ミノタウロスだ!!」
「逃げろォ!!」
「なんでこんな階層にッ!!」
「馬鹿っ。口より先に脚を動かせ!!」
俺はその声に驚いた。
「っ……ミノっ……」
―――――
【魔物】
レッサーミノタウロス
ランクE
LV21
総評147
―――――
『ご主人様!!』
逃げ行く人に気を取られた。
その僅かに目を逸らした瞬間、すでに走ってきていた。
(速いっ。直線的に逃げても追いつかれるッ)
横に跳んで必死に転がりながら紙一重で回避できた。急いで立ち上がり、態勢を立て直す。
互いににらみ合う。二足歩行の魔物。大きな戦斧を持った牛の化け物。心臓の鼓動が早くなる。俺は死を強く意識した。
魔物は戦斧を振る。偶然だった。剣で受け止める事ができた。しかし、大きく吹き飛ばされた。激痛を我慢して立ち上がる。俺は異変に気が付いた。剣が重たい。足が前に出ない。同時に武具化が解除された。
「どうして解除を!!」
「ご主人様。ここは私が食い止めます。逃げてください!!」
ウルナは一撃で悟ったらしい。どう逆立ちしても迷宮ダンジョンの怪物は倒せない。俺も薄々そう感じていた。
「でもウルナはどうする!! お前っ。もしも死んだらどうなるっ?」
「分かりません……どうやら私たちは生まれが特殊なようなので……」
「特殊?」
魔物が接近する。彼女に策はない。相変わらず目を閉じていたからだ。今分かることは一つだ。彼女は震えながら俺を必死に守ろうとしていた。思い返せば学園ダンジョンでもそうであった。
俺にとってその姿は憧れた英雄そのものであった。だからこそ目を逸らしたのかもしれない。
(嗚呼……俺はなんて馬鹿なんだ。自分の事ばかり……今までウルナをなに一つ理解しようとしなかった。言葉をまともに聞こうとしなかった)
「そんなのでなにが英雄だよ。馬鹿しい。それじゃあ皆から笑われて当然だよな……」
今までのおこないを恥じて自嘲する。魔物が間合いに入った。戦斧で薙ぎ払う。俺は痛みを堪えてウルナを押し倒す。間一髪。薙ぎ払いを回避した。
「ご主人様っどうしてッ」
「ウルナ!! 武器化だっ」
「ぇ……は、はい!!」
俺は魔剣を持って逃走する。それを見た魔物は腹を立てて突進する。俺は横に跳んで避ける。その隙にマジックバッグから傷と体力を癒すポーションを飲んだ。安物なので気休めだが、これでまだ動ける。いや、ウルナのアビリティを考えるとこれで良い。
魔物も俺の眼を見て警戒している。戦う意思を感じ取ったようだ。
『戦うつもりですか!! 危険です!!』
「……ウルナ。あの時……また捨てられるって言ってたよな……」
『……はい。前にも召喚されて……私のミスで凄く怒らせてしまい……私を肥溜めに落とした後にゴミ山に捨てられて契約破棄されました』
「……だから召喚した時に異臭が……」
『でもどうして今それを……?』
「もしもここで死んだら。聞かなかった事を後悔しそうだからだ」
『し、死にませんよ。ご主人様は!! あ、危ないです!!』
魔物が斧を薙ぎ払う。俺は背後に跳んで避ける。まずは敵の攻撃を見極めなければ戦えない。
(早めに動け……レッサーミノタウロスの動画は昔から何度も見ている……大丈夫だ。自分を信じろ。俺が死ねば次はウルナが……)
「ウルナ。俺はお前を危険にさらしてでもアレを倒したいと考えてる。無理を承知でお願いする。一緒に戦ってくれるか?」
『はいもちろんです。ご主人様!!』
「そ、そんなにあっさりと……俺は酷い事をした……それでもっ」
『良いじゃないですか。私は悪魔。気が合いますね』
顔は見えないが、彼女は笑ってくれている気がした。
「ハハ。少しの間で良い。俺を信じてくれ。行くぞウルナ!!」
『はい!!』
通常、レッサーミノタウロスは戦斧を振り下ろすか薙ぎ払うか。そして突進。攻撃パターンは少ないがその耐久力とパワーで多くの人々を葬ってきた。
分厚い皮膚に総評1の
振り下ろしの攻撃を待っていると俺は自然と微笑がこぼれた。魔剣が軽い。今まで以上に。そして魔物が戦斧を振る。待っていた振り下ろしの攻撃を最小限で回避する。カウンターで太腿を狙った。今までとは違い思い通りに動く。魔物は出血する。
(浅いっ。だけど十分。少しでも傷はつけることができた。そして俺の体力は減っていく。危機的な状況は継続……いやもっと悪くなる。それでいいッ…………それで……いい?)
俺はその思考に笑みをこぼす。より危険を楽しむ。そうすれば強くなる。まさに悪魔の囁きである。
何度も魔物の振り下ろしを狙い。足や利き手を傷つける。ダメージは蓄積していった。そこで魔物は攻撃パターンを変える。振り下ろしを止めたのだ。
(気が付いたかッ。だがもう遅い……脚や上半身は負傷させている。最初のような鋭い攻撃はできない!!)
チャンスを作るために戦斧を振りかぶる際に使う筋肉、軸足を狙い続けた。俺は勇気を出し、最小限の動きで回避した。ギリギリ首が僅かに切れた。
「危なかった。でも!!」
魔物は予想外の激痛で僅かにバランスを崩す。俺は魔物の太い首を狙う。
「うおおおおお!!」
(俺はもう英雄を目指さない……そうだ。英雄ってのはなるものじゃない。なにかを成し遂げた時にそう呼ばれるだけ。だからお俺は……ッ)
「純粋に深淵を目指すッ!!」
次の瞬間、魔物の首から出血し倒れた。肩で呼吸をする。
「や……った?」
「やりましたねご主人様!! 凄いです!!」
「良しっ!!!! 勝った!! 俺は勝ったんだァ!!」
武具化が解除されたウルナが抱き着いてきた。短い期間で何となくだが、もう武具化する魔力が残っていないと感じた。
――――――――
【ステータス】
LV8
総評17
召喚獣
【千つ子の悪魔】
スキル・魔法
なし
アビリティ
なし
―――
ウルナ
レアリティ:UR
LV8
総評81
友好度12
武具タイプ
魔剣
武具効果
切られた者の傷が治りにくくなる(小)
スキル
なし
アビリティ
窮地ステータス上昇 熟練3
窮地硬度上昇 熟練3
――――――――
「LVが7も上昇したのか!! しかも総評が跳ね上がって……っ」
「あわわわわ!!!」
ウルナが変な声を出したので周囲を見ると十数体のキラーウルフに囲まれていた。
「ッ……しまっ」
LVが上昇しても傷や体力が回復するわけではない。食料を優先したので武器は持っていない。ここにきて予備武器の重要性を実感する事となった。魔物がじりじりと近寄ってくる。
「くっ!!」
「ごしゅ……ぁぁっ」
「ウルナ!!?」
ウルナが慌てて俺の前に出ようとするも躓いてしまう。顔面から地面に転がった。それを見て魔物が飛び掛かろうとする。その時、俺の体が強い光を放つ。魔物は警戒し少し後退した。
「なんだァ!!!」
「うわぁっ……なんで今なのよ。マジでありえないんだけどぉ……」
「……はい?」
光が弱まった頃、目の前の光景に俺は驚いた。ウルナの声ではない女の子。
特徴的だったのは金髪のロングツインテール。毛先や一部分が薄いピンク色に染まっている。タンクトップにミニスカート。パンストにガーターとロンググローブなども身に着けていた。
身長はウルナが147㎝くらいなので130㎝を切るくらいだろうか。意地悪そうな笑顔。八重歯を覗かせていた。悪魔のような角はないが、尖った耳と悪魔の尻尾。そして腰から悪魔のような翼が生えている。
オッドアイも特徴的であった。右目は赤色に怪しく光り。左目は綺麗な蒼白であった。胸はウルナと違い平らだが、太腿周りの太さが彼女と良い勝負をしている。
「あー。ネルシデスですー。初めましてですー」
「はぁー……なにあんた仲良くなってんの? そのせいで……」
彼女がなにか言おうとした時、キラーウルフが襲いかかる。
「うっさいわねェ!! 私が今喋ってるでしょ!!」
周囲に雷が発生した。キラーウルフが何体か焼き焦げた。脅威を感じた魔物が逃走する。俺はその光景を呆然と見ていた。
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