第4話 希望の光


【英譚ダンジョン~ランクG~】


 学園ダンジョンの入り口は魔物を外に出さないよう、シェルターの役割を果たす壁に覆われている。飛行する魔物も出さないように設計されている。遠目ではドームに見える。


 二週間後、ダンジョン前に生徒が集まる。他クラスは別の入り口からの探索演習になる。一堂いちどう先生は注意点などを伝える。


「訓練でもやった通り、基本は武具化で戦ってもらう。信頼関係が大切だ。しかし、緊張で上手くできない者や、魔力の消耗、あるいは深刻なダメージを負うと武具化が解除される。念には念を。貸し出し用の武器がある。皆持つように」


「わ、私たち死にませんよね……」

「大丈夫だ。教えた通りにやれば一階層ではほぼ死なない。でも抵抗しないたたかわないと死ぬからなー」

「アハハハハ!! 当然じゃないですかー!!」


 笑いが起こり場が少し和む。


「目標は一年でLV10以上、二年で30以上、三年で40以上を目指せー。上位を目指すなら一年で20以上は頑張って上げないとだぞー」

「20以上か……」

「っし!! やってやる!!」


 探索者シーカーになるなら総評値が高めの者ならLV30以上、低い者ならLV40以上は目指さないとならない。それは個人による。最低総評は武具化状態で140である。


「それじゃあパーティーを組め~」


 他にはマジックバッグが支給される。ウエストポーチのタイプである。これは不思議な鞄で無限ではないが、見た目からは想像できないほどの荷物を収納できる。


 皆がワイワイと楽しそうにパーティーを組む。毒嶌どくじま穴九魔あなぐまは一緒のパーティーであった。数人ほど他の者もいたが、二人は所かまわずカップルのようにふるまっていた。


 そんな時、玉森が視界に入った。無理やり誘われて嫌がっているように見える。


「や、止めろよ。玉森君が嫌がってるだろ?」


「っせーなせきぃ。雑魚は囮しかやる事がないだろう?」

「囮? ふざけるな。クラスメイトじゃないか!!」

「てめーら底辺は対抗戦たいこうせんで脚を引っ張んだろ。こういう時くらい役に立っておけよ」


「も、もういい!! 分かった俺はお前等と組むっ……も、もう関わらないでくれせき。俺が惨めになる」


「ハハハッ。玉森にも見捨てられたなせきぃ」

「ほらぁ。玉森くぅんも自発的にこう言ってんだしさぁ~」

「で? なんか文句あんのせき?」


「ッ……いや。ない……」


 俺だけは一人となった。URと組みたい人はいない。自分が危険にさらわれるだけだからだ。


 指定された場所に行って、先生が置いたカードを取ってくるという授業だ。ルートはサモンドロイドがナビをしてくれる。これは自動マッピングではなく、先人シーカーたちがダンジョンの情報を報告し、それに基づいて作られた叡智の結晶である。



【ダンジョン内。一階層】



 沈んでいる俺とは反対に元気な声が響いた。


「行きましょう!! ご主人様!!」

「……じゃあ練習通り、魔剣になってくれ」

「はい!!」


 何度見ても見事なもので数秒ほどで剣に変化した。学園で借りた剣よりも軽い。


「これなら俺でも振れる」


 早速魔物が現れる。ゴブリンと呼ばれる人型の魔物。緑色で醜悪な顔をしている。小さく最弱の魔物と呼ばれているが、群れるとので危険。幸い敵は一匹である。



※必要なLVと総評は推定。固体によって微妙に変化するため。報告を元にした指標値である。

――――――


【魔物】


ゴブリン(緑)

Gランク

LV1

総評4


――――――


 切りかかろうとした時、問題が発覚した。何時もの素振りと違う。奇妙な力が加わり上手く触れない。剣が見当違いな方向に向かう。


 魔物が容赦なく小さな棍棒で殴りかかってきた。俺は慌てて棍棒を避ける。ウルナも焦っているようだ。


『あわわわわ!!!』


(そうだ……武具化は彼女の精神面も強く影響するんだった!!)


 昨日先生が薄っすらとそんな事を言っていたが、聞き逃していた。勿論、探索者シーカーを調べると基本項目に書いてある。


 しかし、知識を持っている事と実際に実戦で活用する事は別であった。先の事を考えすぎて基礎を忘れていた。召喚獣が手に入れば強くなれると心のどこかで慢心してしまった。


 それに精神面が未熟だと、緊張など集中力低下の影響で脳が働かず知識を有効活用できない。寝不足や長時間の活動など他にも集中力低下の要因もある。


(馬鹿か俺は!! 冷静になれ!! ここはダンジョンだ)


 予備の剣を左手で抜き、敵に向けて近づけないように威嚇する。ただ前に突き出すだけ。つっかえ棒の役割しか果たせていないが今はこれで十分だ。


 そこからは隙を見て右手の魔剣を振る。振れども振れども当たらない。そしてまぐれ当たりで魔物を何とか討伐した。体力を消耗し、肩で息をしていた。


「最弱の魔物を一匹倒すのにこれか……」


 その後も制御できない剣に振り回されながらも皆に追いついた。


(……毒嶌どくじま。それに皆も。なんでここに居るんだ?)


 ルートは一方通行になっていて、カードを取ったら別ルートで出入り口に行く手はずである。しかし、不快な笑みを浮かべて彼等は立っていた。何かを待っているように。


「遅すぎだろ……ここまで来るのにどんだけ時間かかってるんだ?」

「ま、魔物を倒すのに少し手間取っただけだ……」


「まあいいや。お前、学園を去れよ」

「は、はぁ? な、なんでッ……」


「馬鹿かお前ぇ? 今度はクラス対抗戦があるが、二週間経ってもこの体たらく。お前は才能ないんだし、参加できないのは明らか。そこでお前が辞めれば補充がくるかもしれない。もしそうなれば俺たちは助かり、この学園に入学できる奴が増える。相互利益があるだろうが」


「お、俺はそれでも立派な探索者シーカーになりたいんだッ。諦めきれるわけっ」

「うるせーよ雑魚が」


 毒嶌どくじまが手甲を付けた右腕を意味深に動し、構えた。手甲は右手だけに身に着けている。それは拳、腕だけでなく複雑に絡みつく網目状の金属が彼の肩まで伸びて彼の腕を守っている。


 彼は問答無用で接近してきた。俺は自衛のために剣を振る。しかし、上手く制御できない。


「はっ。どこで剣を振ってんだ!! こっちだ馬鹿が!!」


 隙をつかれ腹部を思いっ切り殴られた。たった一発なのに俺は膝をつく。尋常な痛みではない。立ち上がるが、その度に何度も殴られる。毒嶌どくじまの仲間は笑っていた。


 俺が立てなくなった頃、誰かが叫んだ。


「ビッグボアだ!!」

「嘘だろ!! なんで一階層の上部にこんな魔物が!!」


 ダンジョンには階層がある。その階層の位置で表現する事もあり、比較的一個上の階層と近い部分を上部。中央付近を中部、次の階層に近い部分を下部と表現する。



―――


【魔物】


ビッグボア

Gランク

LV20

総評56


―――



 各々が武器を持って攻撃する。しかし、攻撃が弾かれる。皮膚がゴブリンなどとは違い、けた違いに硬い。あまりの力の差にクラスメイトは絶望していた。


「てめーら!! なに諦めてやがる!! 俺たちはA組を倒すんだろ!!」

毒嶌どくじまっ」


 毒嶌どくじまが魔物を殴ると少し怯んだ。辛うじて彼の攻撃は魔物にとって脅威になるらしい。


「俺に着いて来るやつは立て!!」

毒嶌どくじま君……かっこいい……」


 皆はその声に感化されて立ち上がる。それでも彼等は苦戦していた。しかし、強敵にヒット&アウェイを繰り返してダメージを蓄積させる。


 ある時、毒嶌どくじまが一瞬だけ俺を見た。そして、少し後退する。


(はっ。まさか毒嶌どくじまッ。動けない俺を囮にする気かっ)


 その時、隣で玉森が蹴飛ばされて転ぶ。彼も囮にされたらしい。


「ククク。ダンジョン内では事故は付きものだろ……」


「う、うわああああ!!」


 魔物が俺たちに突進してくる。俺は体がボロボロで玉森は恐怖で動けない。


 その時、武具化が解けた。ウルナが俺の前に立ちはだかる。何か作戦があるのではないとすぐに理解できた。彼女は両手を広げて目を閉じていたからだ。


「ご主人様!!」

「ッ……」


 そこで魔物が突然吹き飛び倒れる。毒嶌どくじまが側面から渾身の一撃を放ったのだ。ビッグボアは腹部を損傷し、絶命した。


「へッ。雑魚が」


「すげー!!」

毒嶌どくじま君凄すぎぃ!!」

「一発かよ!!」


毒嶌どくじまこそが英雄だ。俺たちD組の!!」

「うんうん!! そうだよ!!」


 嬉しそうな穴九魔あなぐまたちが見えた。


(そんなっ。俺たちを囮にしてその隙をついた……そんなの英雄なんかじゃない……英雄はっ……英雄は……)

「っぅ……」


 俺は体に限界がきてその場に倒れ意識を失った。



☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡



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