エピローグ 並んで立つ者
エピローグ
暖かな陽射しが降り注ぐ季節となり、契りを交わしてから数月が過ぎた。
積もった雪も溶け始め、石畳を濡らし、梅の枝先には淡い蕾が芽吹いていた。凍てつく空気にも、かすかに春の香りが混じる。この国にも、ようやく春が訪れようとしていた。
契りを交わして以来、凌雪の身体にはさまざまな変化が現れていた。胸に青龍の印が刻まれただけでなく、体温が上がって寒さを感じにくくなった。そして何よりも、景耀との結びつきを前よりもずっと強く感じられるようになった。
そのとき、景耀が書房に戻ってきた。顔色は優れないが、以前のような不安は見えない。
「陛下のご様子はいかがでしたか?」
「眠っておった。医官の処置のおかげで、まだしばらくは大丈夫そうだ」
国王の病状が急変したと知らせを受けた景耀は、見舞いに行っていた。もう、目を開けることなく、ずっと眠ったままのようだ。死期は刻一刻と迫っている。
だが景耀は前を向いていた。もう、迷いはない。
「殿下、陛下は――」
「医官の話によると、春は迎えられんだろうとのことだったが……」
執務机の上にいけてある梅の枝を見て顔をほころばせた。
「もう春が訪れたようだな」
景耀はもう不安な表情を一切見せず、強い決意が感じられた。凌雪の胸元に視線を落とし、静かに微笑んだ。
「父王が亡くなっても、私には凌雪がおるからな。私の伴侶が」
凌雪は胸元に手を当てた。青龍の印が、温かく脈打っている。
「わたくしが殿下をお支えいたします。いつまでも、これから先ずっと」
「あぁ、一緒に素晴らしい国を作り上げていこう」
暖かい陽射しが格子窓から降り注ぐ。まるでこれから二人の歩く道を明るく照らしているようだった。
凌雪は景耀の隣に立った。もう、半歩後ろではない。伴侶として、並んで立つのだ。
春風が窓から入り込み、梅の花びらを散らした。薄紅色の花びらが、二人の足元に舞い落ちる。
新しい時代の幕開けが、そこまで来ていた。
凌雪は景耀と目を合わせ、静かに微笑んだ。どんな困難が待ち受けていようとも、二人で乗り越えていける。そんな確信が、胸に宿っていた。
青龍の印が、二人の中で同じように脈打っていた。
もう、孤独な王太子はいない。
ここには、共に歩む二人の龍がいるだけだった。
禁断の忠誠 海野雫 @rosalvia
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