第5話 災害備蓄庫2
「どうじゃ、何か役立ちそうなスキルはないか?」
「そう言われても『罠解析』、『罠生成』とか罠関連のスキルばっかりなんだが……」
「な、なにっ?」
俺のスキル内容に目を見開くロリ魔王様。
「素晴らしい……実に素晴らしいぞ、ユーリよ」
「マジで?」
「ああ、汝を呼んだのは大正解だったようだ」
パチパチと手を叩くシエラ。
よくわからんけど褒めてくれている。
「まず通常スキルは一つ、多くても二つというところだが、お主はそれ以上あるとはな、さすがは世界超えを果たした強靭な魂だ」
「そうなの?」
すげえ一点特化してる感じなんだけど。
「これじゃあ、もう罠師になるしか道がないというか」
「何を言うか、罠師よいではないか! お主のスキルこそ我の求めていたものだぞ」
熱く語り始める魔王様。
「ユーリが来る前にダンジョンを歩いたんだがな。落とし穴だったり、スイッチを踏むと水が物凄い勢いで吹き出したり、さっき死にそうになった。やばかった、目覚めたばかりで本気で泣きそうになった……ああ、思い出すと、ふ、震えがっ!」
ぽんこつ魔王様め。
自身を抱きしめるように腕を組む。
自分のダンジョンなのに、満足に動けないとか。
「ふん、まぁ……この場所は我らの最終防衛ラインだ。危険な罠が多いのは当然なのだがな」
「仕掛けたことを忘れたら意味ないけどな」
「う、うるさいのう」
自慢げに言うシェラに突っ込む。
「そうは言うが、細かい管理仕事は部下に任せておったのだ、仕方ないだろう」
「そうなのか」
「アホみたいに広いダンジョンだ、個人で罠の位置を全部覚えるなど不可能に近い」
本来は各エリアごとに管理者がいたそうだ。
まぁ魔王様って入り口近くじゃなくて最深部で待ち構えるもんだしな。
それが戦略の上で、合理的手段かどうかはともかく。
纏めると、レンジャー的な存在がいないとダンジョン探索は無理ってことか。
災害備蓄庫の入り口は、ダンジョン入口から三百メートルほど歩いたところにあった。
何もない草地だったが、シェラが近づくと地面が淡く光り出す。
浮かんでくる幾何学模様、ファンタジー映画のような光景を見てちょっと興奮を覚える。
「マジで魔法陣だ、これ、俺も乗れるのか?」
「我と一緒であれば問題ない。しっかりと手を繋いでおくように、絶対に離すなよ、時空の裂け目に放り出されるぞ」
「わ、わかった」
しっかりとシェラの華奢な手を握る。
直後、妙な浮遊感を覚える。
数秒後、見知らぬ薄暗い空間に移動していた。
俺がいたのは幅五メートルほどの通路のど真ん中だった。
かなり広めの廊下だが……使うのは人間サイズとは限らないか。
カツンカツンと靴音をたてながら通路を進んでいく。
「にしても、よく地下にこんな大空間を作れたな、作るの大変だったろ?」
「工夫したからな、魔法で内部空間を拡張することで物理制約を緩和しているのだ。ダンジョンの方はもっとすごいぞ」
様々な地形のフロアがあるそうだ。
氷河や溶岩フロアまであるらしい。
「ちなみにだが、この中に魔物とか出ないよな」
「心配するでない。転移魔法陣が侵入者を防ぐ門代わりになっておる。この中にはまず出てこんよ」
「そ、そうか」
今のシェラはとても戦える力はない。
魔物に出会わないことを祈るしかないな。
この中に……という言葉が少し気になったが、深く考えると怖いのでスルーする。
「ふむ、千年放置していたからな、灯の魔道具もいくつか壊れているな」
「それでも千年持つって凄いけどな」
長持ちなんてレベルじゃない、どういう構造なんだろうか。
ぼんやりとした赤い光が照らす通路を五分ほど歩いていくと。
「と、着いた……これが備蓄庫だな」
「ここが」
辿り着いたのは 五十メートル四方はありそうな広大な空間。
天井高も二十メートル以上、まさしく超巨大倉庫だ。
使用するのが人型サイズの生物だけではないため必然このくらいのサイズは最低限必要になるそうだ。
重厚な雰囲気を受ける黒光りする金属の倉庫がずらりと並ぶ。
「で、どの倉庫を開ければいいんだ? たくさんあるけど」
「目的の倉庫はアレだな……」
シェラが指で倉庫を示す。
三メートルぐらいの高さの、大型冷蔵庫を超えるサイズ。
ご指定の倉庫の前面中央にはボタンが存在した。
ボタンは縦横三列ずつで全部で九個、異世界の数字で一から九までふられている。
公衆電話機みたいだな……とか思っていると。
『暗証番号十五桁を入力してください』
「うおっ! 倉庫が喋った!」
突然、無機質なメッセージが倉庫から流れて驚く。
こいつめ、驚かすんじゃないよ。
「あ、暗唱番号なんてあるのか、てか番号の桁数多すぎない?」
「だろう? 我、扉の前でずっと頑張ったが無理だった。おかげで寝不足だ、復活して餓死など本当に笑えんわ」
扉の前で苦笑するシェラ。
「一応、ヒントはあるのだがな」
「ヒント?」
「ああ、実は我が何回か失敗したら教えてくれたのだ」
「え? そんな親切にすることって普通あるか?」
シェラの言葉に俺が疑問に思っていると。
『暗証番号の冒頭の四桁は(3)、(7)、(5)、(6)……となります』
本当に無機質な音声が流れだす。
ま、まじかよ。
「ほら……こんな具合に教えてくれたのだ」
「んな、馬鹿な」
「くく、魔王である我の覇気にびびったのかもしれんな」
ビビるもなにも、相手は心のある生命体じゃないだろ。
わざわざ答えを教えるとか、そんなことってある?
「とはいえ残り十一桁だ。先は長い……だが、希望はある。今の我には隣にユーリがいる! さぁ、頼むぞ」
「頼むぞと言われてもなぁ」
どうしたもんか。
最初の四桁が当たっているとしても、確率的に十の十一乗。
適当で当たる数字とは思えないし、虱潰しじゃ時間がかかり過ぎる。
ここは普通に考えちゃダメだろう。
異世界に来てスキルを授かったし、打開策があるとすればソレか。
確か罠を解析するスキルがあったな。
いやでも……倉庫って罠じゃなくない?
普通こういう時役立つのって鍵開けとかだろ?
と、ごちゃごちゃ考える俺だったが……。
(まぁ今は思い付くことなんでも試してみるべきか)
失敗上等だ。
「とりあえず、スキルってどう使えばいいんだ」
「念じろ、使いたいと念じるんだ」
結構雑だよね、この世界のスキル使用法。
初心者にわかりやすくて助かるけど。
念じる、俺は念じる……えいやと。
(罠解析発動……と)
すると、眼前の扉に関する情報が本当に頭に流れ込んできた。
まじかよ……いけたよ。
解析スキル、本当に使えちゃったよ。
そして無事罠スキルが発動したということは……。
つまり、そういうことである。
「どうだ? 何かわかったか?」
「ああ、えぇと、この倉庫の正式名は『時食庫』? ……っていうらしい」
「時食庫?」
「そうだ、とにかく頑丈で特殊な倉庫らしく、開けるには特殊なカードキーが必要、下の方に小さな溝があるみたいだ」
「え、な、なんだ……それ」
うん、ちゃんとあるな……触って凹みを確認。
倉庫の色が黒だから余計に差し込み口がわかりにくい。
「カードキーって、じゃあ、さっきの番号メッセージとボタンなんなのだ?」
「意味がないな、全部ダミー」
「んなっ!」
思考誘導して本命を隠す。
まぁ仕組みとしてはよくある手口だ。
「倉庫が罠解析に引っかかったのは実際に罠だったからだな」
この倉庫についての解説をそのままシェラに伝える。
「シェラが聞いた通知メッセージは、ボタンで開くと勘違いした不正利用者を始末するためのものだな。ボタンを押した回数に応じてヒントの誤情報を流していき、3、7、5、6、4とボタンを続けて押すと、死の宣告とかいう呪いが発動される。おい、これもっと続けていたら危なかったんじゃね? 6まで来てたぞお前」
「う、お、おおぉ……」
ちょっと足が震えている魔王様。
銀行のATMだって何度も暗唱番号を間違えると、不正使用者と見なされロックがかかるしな。
これはその凶悪版だ。
「わ、我は、完全にコイツの術中に嵌まっていたというのか」
「まぁ、死ぬ前に気づけてよかったんじゃないのか」
「そ、そう……だな」
がっくりと落ち込むシェラを慰める俺だった。
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