第4話 災害備蓄庫1
この寂れたダンジョンで暮らすことになった俺。
いよいよ、本格的にシェラと相談を始める。
「で、衣食住って、具体的にどこから何をすればいいんだ?」
「ふむ」
シェラに尋ねる。
周辺は草ぼうぼうで、大地は荒れ、家どころか使えそうな小屋もない。
やるべきことはきっと多いのだろう。
しかし、何をすべきかわからない。
せめて、呼び出したシェラに最低限の方針ぐらいは示して欲しいんだが。
「ど、どうしようか?」
「それを俺が聞いてんだよ」
無策かよ。
まったく、わかんねえのかよ?
これから大丈夫かな、本当。
「ほら、そこらの石とか木材を合わせて、家とか建てられんか?」
「いきなり無茶言うな」
DIYとかまったく経験ないし、釘も手ごろな材料も建築技術もない。
「昔の我なら土魔法で簡単な家ぐらい建築できたろうが、今は魔力もなく、見ての通り完全ではないからな」
「ふぅん」
魔力は知らないが、確かに魔王の威厳はまったく感じない。
「失礼なことを考えておるな? 本来の我の身体は凄いのだぞ、ぼぼん、なのだぞ!」
「ぼぼん?」
「うむ、こうだ!」
子供特有の起伏のない体型の上で、手を動かしてくびれと胸を表現する魔王様。
「どうすれば大人の体に成長するんだ」
「きっと良質な食事を摂取すれば、肉体成長も早まろう」
普通の人間の子供と同じですね。
「なんにせよ、力を取り戻すにこしたことはない、何が起きるかもわからんからな」
「それには同意だ」
ここで一つ懸念が生まれる。
ていうか……食事? ふと嫌な予感がよぎる。
うん……一応聞いておこう。
「なぁシェラ、そんな長期的な話じゃなくて、もっと目先の話をしよう。俺の食べる物とか、少しは確保してあるんだよな」
「ふふふ、ふふふふ……」
腕を組み、笑うシェラ。
その「ふふふ」どっちの意味のふふふ?
くっ、真意が読み取れねえ。
「勿論そんなものはない!」
「お、お前……配下にするなら、ちゃんと確保してから呼んでくれよ!」
「う、うるさい! わ、我だって復活してから食べておらんのだ! 強制転移されたと話しただろうが!」
逆ギレする魔王様、理不尽だ。
「心配するでない、世の中は何が起きるかわからんからな。災害備蓄庫があるのだ、中には食料も保管されているはず」
何故か自慢気に、頭をとんとんと指で突くシェラ。
大丈夫かな? 結構中身が空っぽみたいだけど。
「変なオチはないだろうな? 備蓄庫の入り口の場所を忘れたとか?」
「くく……既に発見済だ。搬入経路を考慮して、入口も地上にある。特定人物にしか反応しない転移魔法陣の先にあるから、中身を奪われてもいないはずだ」
「転移魔法陣はきちんと反応するのか? あと千年の時間経過で備蓄が腐っているというオチは?」
「汝は心配性だのう。転移魔法陣の起動は確認済みだ。備蓄庫の食料には保存魔法が刻印されているから、腐っている心配はない」
「ほう? 本当にやるじゃないか」
「であろ、あろ」
俺は安堵しかける、が……ちょっと不思議だな。
だったらなんで、シェラはここまで食事していないんだ?
「ま、まぁ……ちょっとあれだ。目当ての食糧庫が開かなくて困ってるんだが」
「お前ぶつぶつ言ってるけど、しっかり聞こえてるからな」
やっぱり期待しすぎるものじゃないな。
ジト目で見ると目をそらそうとするシェラ。
「やめろ、そんな目で我を見るでない、我だって泣きたいのだ、辛いのだ。しかしお主がいれば解除できる可能性があるのではないかと思ったのだ」
「……え?」
「詳しいことは移動しながら話そう……災害備蓄庫へ向かうぞ!」
めっちゃ早口の魔王様。
かなり不安ではあるがダンジョンに向かう。
「さぁさぁ、行くぞ、ユーリよっ!」
「はいはい」
シェラについていく俺。
「しっかし、意気込まれても、人間の俺にできることなんて知れていると思うがなぁ」
倉庫が開かないったって。
専門知識なんてあるはずないし、解錠に必要な道具すらここにはない。
「いや、そう決めつけるの早いぞ」
「も、もしかして俺に絶大な魔力が宿っていたり……」
「いや、ゼロだな。ユーリに魔力は存在しない」
「そ、そうですか」
異世界の定番をシェラにあっさりと否定される。
魔法を使ってみたかったんだけどな。
ちょっと、いや……相当に残念である。
物理法則から抜け出したいと……夢一杯だった、子供時代。
この身一つで空を飛びたいと考えていたのは俺だけではないはずだ。
「だが、魔力の代わりに、この世界に召喚されたユーリはスキルを授かっているはずだ」
「スキル?」
「ああ、スキルとは魂に刻まれた特殊な力のことだ」
「ほう、ほほう……俺に隠された力が存在するというのか」
「ああ、我はこの地に適応する最高の魂を呼び寄せた、期待してもいいはずだ」
ちょっとテンションがあがってくる。
魔法を強化したり、肉体を強化したり、薬や武器防具といった物作りの成功率が高まったり。
スキルの効果は人によって千差万別だそうだ。
「で、どうやって自分のスキルを知るんだ?」
「知り方は簡単……念じるのだ、自分をより深く知りたいとな」
「なにその、哲学的な感じ」
ま、まぁいい。
言われた通りにやろうじゃないか。
その言葉を信じ、俺は念じる。
知りたい、俺のすべてを……そんなことを考えていると。
頭の中に浮かんでくる文字、情報がはっきりと流れ込んできた。
**************
名前:橘悠里
スキル:
罠解析、罠作成、罠ボックス
探査、暗視
毒耐性(超特大)、病気耐性(超特大)
**************
なんか……全体的に罠の文字が多い。
すんげえ偏ったスキル構成っぽいんだけど。
大丈夫なのこれ?
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