第六話:牢獄のネゴシエーション
冷たく湿った石の牢獄。健司とエリアーナは、別々の独房に入れられた。エリアーナは王族の身分を隠しているため、助けを呼ぶこともできない。まさに八方塞がりだった。
「すまない、ケンジ。私に協力者がいるなどと信じたばかりに……」
隣の独房から、エリアーナの悔しそうな声が聞こえる。
「気にするな。想定外のトラブルはプロジェクトの華だ。問題は、どうやってこの状況を打開するかだ」
健司は嘆く代わりに、思考を巡らせていた。牢の構造、看守の交代時間、食事の回数。あらゆる情報を収集し、分析する。それは、彼が社畜人生で培った、唯一にして最強のスキルだった。
数日が過ぎた。健司は、一人の若い看守に目をつけていた。彼は他の看守と違い、囚人である健司たちに時折、同情的な視線を向けていたのだ。
「おい、そこの若い兄ちゃん」
食事を運んできた看守に、健司は声をかけた。
「あんた、この仕事、長くないだろ。もっと割のいい仕事に興味はないか?」
「な、何を言うか!」
「まあ聞けよ。俺たちは、あんたが思っているような凶悪犯じゃない。むしろ、とんでもないVIPだ。俺たちをここから出す手伝いをしてくれたら、あんたが一生遊んで暮らせるだけの褒賞を約束する」
看守は唾を飲み込んだが、首を横に振った。「無理だ。バレたら俺の首が飛ぶ」
「バレなきゃいいんだ。それに、このまま俺たちをここに置いておく方が、よっぽど危険だぞ」
健司は、衛兵隊長に言ったのと同じロジックを展開した。反乱軍が口封じに動く可能性。街が戦火に巻き込まれるリスク。看守の顔が青ざめていく。
「……どうすればいい」
「簡単だ。今夜、見回りのふりをして、俺たちの独房の鍵を開ける。それだけでいい。あとは俺たちがうまくやる。あんたは何も見ていない、何も知らない。それでいい」
アメとムチ。リスクとリターンを天秤にかけさせ、相手に「こちらの提案に乗る方が得だ」と錯覚させる。悪徳コンサルタントのような手口だったが、背に腹は代えられない。
その夜、約束通り看守は現れた。だが、彼の背後には、屈強な体躯を持つ獣人の男が立っていた。同じ囚人らしい。
「こいつ、ガルムも一緒に連れて行け。反乱軍に恨みがあるそうだ。あんたたちの役に立つかもしれん」
狼のような耳と尻尾を持つ獣人、ガルムは、鋭い目で健司を値踏みするように見た。
「お前がリーダーか? 面白え。俺の家族を人質に取った反乱軍に一泡吹かせられるなら、手を貸してやる」
こうして健司は、思いがけず新たな仲間を得て、牢獄からの脱出に成功したのだった。
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