第41話 新たな運命
玉座の間。アキトが放った、命と魂を燃料とする渾身の『虚無の一閃(ヴォイド・スラッシュ)』は、玉座の間全体を吹き飛ばすほどの凄まじい轟音と共に炸裂した。
漆黒の光が消え去った後、アキトは片膝をついていた。彼の体からは魔力が激しく漏れ出し、左手の紋様は力を使い果たしたかのように鈍く光っている。
その目の前には、ゾルグが立っていた。
ゾルグは、アキトの一撃を真正面から受け止めたにもかかわらず、完全に無傷だった。彼の胸の皮膚には、漆黒の斬撃がぶつかった痕跡すら残っていない。
「フン……」ゾルグは嘲笑した。「それが貴様ができる最高の攻撃か、アキト。なかなか見事な魔力制御だ。定着した力は確かに本物だろう」
しかし、ゾルグの言葉には、侮蔑が込められていた。
「だが、この程度だ。わたしの『本質』の防御を破るには、全く及ばない。貴様の命を削って放った一撃が、わたしの服を汚すことさえできなかったな」
アキトは、その圧倒的な力の差に戦慄した。全力を出し尽くしたにもかかわらず、ゾルグの真の力には触れることさえできなかったのだ。彼の瞳の虚無の中に、初めて絶望の影が宿った。
ゾルグは、アキトを見下ろした。「だが、貴様を生贄の核として、貴様を取り込むつもりだったが、その必要はなくなった」
この言葉に、セレネは安堵したような、戸惑ったような表情を浮かべた。リリアンは静かにゾルグを見つめている。
「貴様は、その力を定着させたがゆえに、並の悪魔よりもよほど価値がある」ゾルグは続けた。「その力をただ儀式の核として溶かすのは惜しい」
ゾルグは、アキトの顎を掴み、強制的に顔を上げさせた。
「貴様の傲慢さと力、そして復讐を終えてなお戦いを求めるその冷たい渇望は、いずれ魔王様の使い魔になるわたしの役に立つだろう」
ゾルグは、生贄にすることをやめ、代わりに傲然と告げた。
「貴様は、今日からこのわたし、ゾルグの直属の使い魔となれ。最高の道具の座は、最高の使い魔の座へと変わるのだ」
ゾルグの魔力が、アキトの左手の紋様と共鳴し始めた。生贄としてではなく、より強固な、主従の契約を結び直すための魔術だった。
セレネは、ゾルグの判断が最善であると理解し、静かに頷いた。
「アキト、ゾルグ様の決定よ。この契約を受け入れなさい。これこそが、あなたが望んだ新たな運命なのだから」
アキトは、屈辱と敗北感に打ちのめされていた。彼は最高の力を手に入れたはずだった。しかし、その力をもってしても、ゾルグの真の力の前では無力だった。
「僕の力は、復讐を果たすためのものだ。ぼくの復讐はまだ終わってない。この力を生かして、かならずゾルグ、おまえに復讐をしてやる」
アキトは、ゾルグの魔力に抵抗することをやめた。
「ゾルグ」アキトは、力を失った声で答えた。「僕は、あなたの使い魔となる」
ゾルグは満足げに笑った。主従の契約が成立し、アキトの左手の紋様は、ゾルグの魔力の色を帯びて、より深く、冷たい輝きを放ち始めた。
「フフフ……ようこそ、わたしの忠実なる使い魔よ。貴様には、早速新たな任務がある」
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