第40話 絶望的な一閃
ゾルグが解放した真の魔力は、玉座の間を満たしていた。それは、アキトの定着した力とは比較にならない、魔界の深き闇と狂気を凝縮したような、重く禍々しい力だった。
「貴様が到達した悪魔の力など、この魔界の深き闇を知るわたしの『本質』の前では、戯れ言に過ぎん!」
ゾルグの言葉通り、アキトの優勢は一瞬にして覆された。彼の左手の紋様が放つ漆黒の魔力は、ゾルグの本質的な力の前では、まるで温室の光のようにかき消されていく。
「こ……これが、真の悪魔の力……!」アキトは、全身を押しつぶされるような重圧に驚愕した。
ゾルグは、その圧倒的な魔力差を背景に、嘲笑した。「さて、貴様に悪魔の深淵に触れさせてやろうか」
ゾルグが動いた。その速度は、先ほどまでの弱々しさを完全に払拭していた。アキトが反応する間もなく、ゾルグの拳が悪魔の魔力を纏い、アキトの腹部に叩き込まれた。
ドォン!
アキトは激しい衝撃と共に吹き飛ばされ、崩れかけた壁に叩きつけられた。定着した魔力が自動で防御結界を展開したが、その結界は一撃でひび割れ、彼の口から血が滲んだ。
「ゾルグ様!」セレネは歓喜と恐怖が入り混じった声を上げた。ゾルグの力が完全に戻っていなくとも、アキトを倒すには十分だった。
「やはり、ゾルグ様は最強だわ……」
しかし、リリアンは静かに首を振った。
「まだ終わりではない。ゾルグは、アキトの力を完全に破壊するのではなく、自身の力の一部として取り込むつもりだ。それゆえ、まだ全力で使ってはいない」リリアンは、アキトを見つめた。「そして、あの子は、その程度で折れるほど脆くない」
アキトは壁からゆっくりと立ち上がった。彼の体は悲鳴を上げていたが、その瞳の虚無は変わらない。復讐を終え、感情を失った彼は、敗北という感情すら持っていなかった。
「どうやら、僕の力は、ゾルグの『本質』に及ばないみたいだ。でも、僕のこの力は、ゾルグを倒すために作り上げられた。僕は、強くなった。ここで壊れるわけにはいかない」
アキトの心に宿るのは、自己証明への冷たい渇望だけだった。
ゾルグは、アキトに止めを刺すため、両手で巨大な闇の球体を生成した。
「終わりだ、アキト。諦めてわたしの力の一部になれ!」
闇の球体がアキトに迫る。アキトには、もはや避ける選択肢も、普通の防御術もなかった。
アキトは、残されたすべての魔力を、ゾルグのナイフと左手の紋様に集中させた。定着した悪魔の力を、自身の命と魂を燃料とするかのように、限界を超えて引き出した。
「これが、いまのぼくができる、最高の一撃だ」
アキトは、憎悪や狂気ではなく、純粋な論理に基づき、自身の生命維持を完全に無視した特大の斬撃を放った。それは、定着した悪魔の力の全てを、一点の刃として放出する、『虚無の一閃(ヴォイド・スラッシュ)』だった。
漆黒の光が、玉座の間を切り裂いた。ゾルグの放った闇の球体は、その光に触れた瞬間に蒸発し、虚無の一閃はそのままゾルグの胸元へ向かって突き進んだ。
ゾルグは驚愕し、防御を固めた。
グシャアァァァ!
玉座の間全体を吹き飛ばすほどの凄まじい轟音と共に、光が弾けた。
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