ギロチンバイカー

かみあだりん

第1話

これは私が父から聞いた話です。


話すのがあまり得意でなかった父から聞いた数少ない話のなかでも特に心の中に残っています。


もともと超がつくほど口下手だった父のことですから、若干の脚色はあるものの、おそらくこの話はほぼ実話だと思います。


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父は中国地方の出身で、仕事を探すのにも困るくらいのど田舎から就職のため関西に出てきました。

就職先は世界的に名の通った大手企業でしたが、残念ながら配属は大阪や東京などではなく、近畿地方のとある県にある小さな営業所でした。


父の配属先は出身地と変わらないぐらいのど田舎で、田舎がイヤで大阪に出てきた父には何ら代わり映えのないいつもの景色でした。

仕事は営業でしたが、決まった取引先を回るものだったので特に変わったこともなく、ただただ時間だけが流れていく、田舎から出てくる前と同じような生活をしていたようです。


そこで後に親友となる友人2人と出会います。


父とその親友2人は車のレースが非常に好きで、休みになると3人揃って鈴鹿サーキットに入り浸っていたそうです。週中は3人で車のセッティングを相談しながら変更し、週末にはサーキットでその車を走らせタイムを競うというようなことをしていたようです。そのためいつも金欠だったと笑いながら話してくれたのを覚えています。


また後に日本人初のF1レーサーとなる方とも同じ時期にサーキットで走っていたそうで、その方のレースをテレビで見るたびに「彼は素人の時からスポンサーが付くほど速かった。ホントにすごいんだよ」と、なぜか自慢げに、また自分のことのようによく話しをしていました。



それはさておき、父の当時住んでいた社員寮の近くには、県内では知らない人はいないほど走行が危険で、事故が多く発生することで有名な国道のY区間と呼ばれる場所がありました。この道は勾配がきつく、また急カーブが多いことから事故多発地点として昔から地元では広く知られています。


Y区間は昔と変わらず今も存在していますが、現在では中央分離帯を設置したり制限速度を下げたりして国が対応を行ったこともあり、昔と比べてもこの道での事故数は大幅に減少しています。ですが、未だにY区間の通行を嫌う地元の人は多く、30年ほど前にできた高速のひと区間だけをわざわざ使ってY区間を回避したりする人もいるくらいです。


そして、父が話してくれた時代のころは中央分離帯などあるはずがなく、また勾配のキツさと急カーブの多さからドリフト族や公道レーサーたちに非常に好まれた道でした。週末ともなると関西のドリフターや公道レーサー、バイカーたちがこぞって訪れた場所でした。


そういう父も週末になると例の親友2人とY区間を訪れ、曲がりのきついカーブを誰が何キロで走行できるか、誰の車が一番早いのかなどを競っていたそうです。


そのようなことを続けていたある日、1つの大きな事故が起こりました。



いつものようにドリフターや公道レーサー、バイカーたちが多く集まった週末の夜でした。


レーサーたちは急カーブを何キロで走行できるか競い、ドリフターたちは急カーブでの高速ドリフト成功を目指して何度も同じカーブを走行していました。

方やバイカーたちは普通に走行している車の間を縫ってどれだけスムーズに且つ早く前の車を追い抜くことができるかを競っていました。


カーブの比較的少ない箇所から数名のバイカーたちがスタートし、乗用車やトラックなどを次々に追い抜いていきました。そこへ、大量の荷物を重そうに運んでいるトラックが見えてきました。


2人のバイカーは次の獲物を狙う動物のように前を走るトラックに狙いを定めます。1人目がスムーズにトラックを追い抜き、続けて2人目が追い抜こうとした際、何かが宙を舞いました。



たまたまその日は早めに切り上げ、バイカーたちの後ろを走行していた父と親友2人は、いきなり前のトラックからボールのようなものが飛んできたことに驚き、急いで車を路肩に停め、飛んできたものが何だったのか確認するためにそのモノに近づきました。


「◎$♪×△¥●&?#$〜 !!!!!!」と、言葉にならない叫び声をあげるボールに見えた物体は


……バイカーの頭でした。



2人目のバイカーがトラックを追い抜こうとした際、理由はわかりませんが、鉄板を留めていた鉄ワイヤーがちぎれ、そのはずみで後ろの荷台から鉄板が滑り出したそうです。

留め具を失った大量の鉄板は走行中のトラックの荷台を飛び出し、今にも追い抜こうとしてトラックのすぐ後ろを走っていた2人目のバイカーの首をギロチンの如くスパッと跳ね飛ばしてしまったのです。まるでどこからか大きなギロチン刃が飛んできたかのようにキレイに切断されていました。

荷台から流れ出てきた鉄板ギロチンの勢いで飛ばされた頭は、父の乗っていた車を飛び越し、トラックから数十メートル後ろに転がっていました。


そして、バイクに跨ったままの胴体は、様々な制御を司るヌシを失い、普段ならなんら難しくもないバイクの制御ができず、呆然と立ち尽くす3人の眼の前でバイク共々谷底に落ちてしまいました。


トラックの運転手も目の当たりにした惨状に言葉を失い、放心状態が長く続いたのか、なかなかトラックから出てくることができなかったそうです。


警察や消防が来るのを待つ間、ほんの少しだけ息のあったバイカーの頭は「頭が痛い!! 痛い!! 早く助けてくれ〜!!!」とひたすら叫んでいたように聞こえ、その声は長い間父の耳にこびり付いたままでした。



この事故以降、このY区間ではスピードを出して走っている車やバイクをスイスイ追い抜いていく黒尽くめの不審なバイカーが何度も目撃されており、事故現場に近づくと件の事故の時と同じように首がギロチンのようにスパッと切断される怪異が報告されています。


自分たちの車やバイクめがけて飛んでくるバイカーの頭、そして頭のないバイカーがバイクごと谷底へ落ちていく……。


この光景に驚いたドライバーたちは車両をうまく制御できずにガードレールや壁などに衝突する事故が多く発生しました。


事故を起こし、車両を路肩に停め、途方に暮れるドライバーたちの耳に必ず泣き叫ぶ声が聞こえるそうです。



「頭が痛い!! 痛い!! 早く助けてくれ〜!!!」と……



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ギロチンバイカー かみあだりん @wgdpwgd

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