36 王都タイム包囲戦

 ――アスール王国軍が、バジル王国の王都タイムを包囲してから、2週間が経過した。その間、アスール王国軍は、苛烈に王都タイムを攻撃したが、陥落には至っていなかった。何とか、王都タイムの城壁へ近づこうと、アスール王国軍の兵士は、必死の突撃をしたが、バジル王国軍の攻撃によって防がれていた。


 そのため、アスール王国軍には、甚大な損害が発生していた。どうやら、テメレを攻めてきたバジル王国軍とは違い、士気が桁違いに高いようであった。バジル王国軍は、士気が低く、すぐに降伏すると考えていたマイロは、衝撃を受けていた。


 アリアも、アリア隊を率いて城壁に近づこうとしたが、城壁からの矢の雨が凄まじく近づけなかった。負けじと、アスール王国軍も矢の雨を降らせたが、未だに、バジル王国軍が降伏する気配はなかった。


 このような状況を打開するために、アスール王国軍の指揮所がある天幕では軍議が開かれていた。


「それでは、軍議を始める。リカルド、現状の説明をしてくれ」


「分かりました。現在、我が軍は、王都タイムの全方向から攻撃を続けていますが、バジル王国が降伏するような気配はありません。そして、2週間にわたる攻撃によって、我が軍は、5千の兵士を失いました。また、負傷者は、死傷者の倍はいる状態です」


「……そこまで、やられたか。バジル王国軍の士気は低く、すぐにバジル王国は降伏するものと思っていたが、どうやら、違うようだ。我が軍の現状は分かった。次に、オーシア王国の王都を攻めているレファリア帝国のことを教えてくれ」


「分かりました。現在、レファリア帝国軍は、オーシア王国の王都を包囲し、10万の大軍で攻撃を続けている状況です。また、オーシア王国の救援のために、ブルーティア帝国からは援軍が送られてきており、それに対処しているため、短期的にオーシア王国の王都を陥落させることが出来るような状況ではないようです。どうやら、ブルーティア帝国は、レファリア帝国の10万の大軍がオーシア王国の王都を陥落させた後に、その勢いで、ブルーティア帝国に攻め寄せるのではないかと考えているようです。そのため、バジル王国にではなく、オーシア王国の救援に全力をあげているようです」


「ならば、しばらくは、ブルーティア帝国軍が、バジル王国の救援に来ることはなさそうだな。ただ、我々も、これ以上、兵士を失う訳にはいかない。かといって、バジル王国が降伏するまで待てば、そのうち、ブルーティア帝国の援軍が到着し、我々は苦境に陥るだろう。どうすれば良いか、誰か、意見はあるか?」


 マイロが指揮所となっている天幕の中を見渡しながら、そう言った。すると、ロナルドが手を上げた。


「おお! ロナルド、何か、良い案があるのか? 教えてくれ!」


「……良い案かどうか分かりませんが、この場で進言させていただきます。その案は、ここから王都タイムの地下まで、穴を掘り、そこから侵入して、テメレの門を開くという案です。この坑道戦術であれば、確実に王都タイムを陥落させることが出来ます」


「なるほど、坑道戦術か。確かに、ここの地質であれば、地面を掘ることに問題はなさそうだな」


「ただ、穴を掘ることに時間がかかるので、すぐに王都タイムを陥落させることは出来ないと考えられます。しかも、昼夜を問わず、穴を掘るのであれば、気づかれないように、穴の入り口を天幕で囲い、なおかつ、矢での攻撃でバジル王国軍をけん制し続けなければなりません」


「分かった。現状では、ロナルドの案が被害を出さずに、王都タイムを陥落させられそうであるな。それでは、ロナルドの案でいこう! あと、王都レイルに矢の補給を今まで以上に送らせろ! これにて、軍議を終了する! それでは、準備せよ!」


「ハッ!」


 天幕の中にいた将官達は、返事をすると、準備に取りかかった。






 軍議によって、坑道戦術を行うことが決まったので、アスール王国軍の陣地から王都タイムまで、地下に穴を掘るために、数十ヶ所の天幕の中で穴が掘られていた。その外では、王都タイムに向けて、アスール王国軍が矢の雨を降らせていた。また、突撃は損害が出るので、やめたようであった。


 そんな状況で、アリア率いるアリア隊は、アスール王国軍の陣地の天幕の一つで、穴を掘っていた。


「確かに、普通に穴は掘れるけどさ、これ、王都タイムまで掘るって、どんだけ掘らないといけないんだよ!」


 マグヌスが文句を言いながら、穴を掘っていた。アリア隊の他の面々も穴を掘っていた。


「まぁ、しょうがない。実際に、王都タイムを力押しで攻略出来たとしても、甚大な被害が出るのは目に見えている。ここは、大人しく、穴を掘ろう」


 ブルーノがそう言いながら、マグヌスとともに、穴を掘っていた。その横で、アリアも黙々と穴を掘っていた。そして、穴を掘る際に出た土を隠すために、天幕の大きさは日に日に、大きくなっていた。



 そして、アスール王国軍が、穴を掘り続けて、1ヶ月が経過した。その間、アスール王国軍は、矢で王都タイムを攻撃し続けた。そのため、アスール王国軍の損害はほとんどなかった。逆に言えば、バジル王国軍にも、損害を与えられていなかった。


 だが、さすがに、3ヶ月もアスール王国軍に包囲されているため、王都タイムを守るバジル王国軍の兵士の動きが目に見えて、悪くなっていた。また、アスール王国軍に向かって、射られる矢の量も少なくなっていた。


 オーシア王国の王都での戦闘は、レファリア帝国が、ブルーティア帝国とオーシア王国の連合軍と激戦を繰り広げているようであった。大軍同士がぶつかり合い、一進一退の戦闘様相であるようだ。また、レファリア帝国だけでは、軍需物資と食料をまかないきれず、足りない分をアスール王国が提供していた。


 ブルーティア帝国は、レファリア帝国と対決しているため、バジル王国に援軍を送る余裕はないようであった。実際に、この1ヶ月間、ブルーティア帝国からの援軍は、バジル王国に現れなかった。アスール王国軍にとっては、幸運であった。


 そして、アスール王国軍の陣地からバジル王国の王都タイムまでの坑道も、ほぼ完成していた。そのため、明日には、坑道を通り、王都タイムに侵入し、門を開け放ち、一気に攻めこむという段取りになっていた。


 アリア隊も、何とか、王都タイムまでの坑道を掘り終えていた。この1ヶ月間、交代しながら、1日中、穴を掘っていたため、アリア隊は疲れきっていた。そのため、掘り終わった後は、土を体中につけたまま、アリア隊の面々は、天幕で寝ていた。


 アリアも疲れきっていたので、明日の作戦をルビエから聞いた後、自分の天幕に帰り、そのまま寝た。そして、アリアは次の日の早朝に起きると、アリア隊の面々を叩き起こし、今日、行われる作戦のための準備をさせていた。


 そして、作戦の開始時間となった。今回の作戦では、近衛騎士団が坑道を通り、王都タイムの内部に侵入し、門を守っているバジル王国軍を倒して、門を開けるという役割が重要であった。その後、門が開けられたのを確認したら、アスール王国軍が王都タイムに突撃をするという作戦であった。


 近衛騎士団は、それぞれの自分の部隊が掘った坑道から、王都タイムを目指して出発した。アリア隊もアリアの指揮の下、坑道を進んでいった。そして、木材などで補強した坑道を、明かりもなしに進むこと、10分。


 アリア隊は、坑道の出口部分に達した。まだ、出口は開けていなかったため、そこだけ掘ると、すぐに明かりが差しこんだ。そして、急いで外に出ると、既に坑道を抜けていた近衛騎士団の面々が戦闘を開始していた。


「門に向かって、進め!」


 アリア隊の近くで戦闘していたルビエが、そう叫んだ。アリアもアリア隊の指揮をしながら、必死の形相で襲いかかってくるバジル王国軍の兵士を倒していた。


「敵の狙いは、門だ! 絶対に通すな!」


 バジル王国軍の小部隊の指揮官と思われる人物が、そう叫んでいた。そして、バジル王国軍の兵士が、アリア隊の進路をさえぎっていた。


「邪魔だぁぁ!」


 アリアはそう言うと、向かってきたバジル王国軍の兵士を、まとめて斬り飛ばした。一気に5人の兵士が、指揮官と思われる人物の方に飛んでいった。


「まさか、アスールの悪魔か!? だが、ここを抜かせる訳にはいかない! 全員、突撃!」


 小部隊の指揮官と思われる人物は、そう言うと、自分も剣を抜き放ち、周りにいるバジル王国軍の兵士とともに、アリア隊に襲いかかった。


(やっぱり、テメレで戦ったバジル王国軍の兵士とは、士気が違うな!)


 アリアはそう思いながら、剣を振るった。ブンという音とともに、突撃してきた敵の指揮官と思われる人物の首を斬り飛ばした。吹き上がった血が、アリアにかかっていた。他の兵士も、アリア隊の面々に倒されていた。


「アリア隊! 私に続け!」


「おう!」


 アリアはバジル王国軍の小隊を倒すと、そう言った。そして、アリア隊の面々も、返事をすると、王都タイムの門に向かって走り出した。そして、走り始めて、10分が経過した。アリア隊は、道中、バジル王国軍の兵士を倒しながら、何とか、門に到着した。


 門は、鉄で出来た棒状の留め具で留められているようであった。既に、ルビエの直属部隊とルビエが門の周辺で戦っていた。また、城壁の上では、近衛騎士団の他の部隊が戦っていた。バジル王国軍の兵士も必死の抵抗をしているため、門に近づけないようであった。


「アリア! 良いところに来た! 私の部隊が敵を抑えるから、門の留め具を外して、開けてこい!」


「分かりました!」


 ルビエの指示にアリアは返事をすると、アリア隊は門に向かって走っていった。そして、アリア隊の後ろから、バジル王国軍の兵士が襲いかかってきたが、ルビエの直属部隊がそれを防いでいた。ルビエは、凄まじい槍さばきで、バジル王国軍の兵士を倒していた。


 そして、アリア隊は、門の留め具に到達した。


「これ、重いぞ!」


 マグヌスが、真っ先に門の留め具を肩に担いで、外そうとしたが、ビクともしなかった。


「アリア隊、留め具を肩に担げ!」


 アリアはそう言うと、自分も門の留め具を肩に担いだ。その間にも、バジル王国軍の兵士がアリア隊を排除しようとしていたが、ルビエとその直属部隊が防いでいた。だが、バジル王国軍の兵士が殺到しているため、長くはもちそうになかった。


「良し! せ~ので、動かせ! せ~の!」


「せ~の!」


 アリアの掛け声とともに、アリア隊は声を出しながら、一斉に担いで持ち上げた。アリア隊の面々の肩に、棒状の留め具が載っていた。


「良し! 地面に落とせ!」


 アリアがそう言うと、アリア隊の面々は、地面に留め具を落とした。ゴンという音とともに、地面に留め具がめりこんでいた。それだけ、重かったようである。


「門を開け!」


 アリアがそう言うと、アリア隊の面々は、門を全身で押した。門は、その大きさに見合った重さであった。


「一気に押すぞ! せ~の!」


「せ~の!」


 アリア隊は声を出しながら、門を押した。アリアも一緒に門を押した。徐々にではあるが門が動き、そして、門が完全に開いた。


「ルビエさん! 開きました!」


「でかした! こちらに加勢してくれ!」


「分かりました! アリア隊、団長に加勢しろ!」


「おう!」


 アリア隊はそう返事をすると、アリアを先頭にして、ルビエとその直属部隊が戦っているバジル王国軍の兵士に突っこんでいった。相手は必死な顔で、門の前の近衛騎士団の部隊を排除しようとしていた。そのような状況で、戦っていると、銅鑼の音とともに、アスール王国軍が近づいてくる音が聞こえた。


 そして、数分後、アスール王国軍が王都タイムの門を通って、一気に突撃をしてきた。バジル王国軍の兵士は、何とか、アスール王国軍を止めようとしたが、多数の騎馬兵の攻撃の前に、次々と倒されていった。


 結局、アスール王国軍が王都タイムに突撃してから、30分後。観念したのか、王都タイムの中心地にあるタイム城に白旗が掲げられた。

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