27 レファリア帝国動乱⑥

 結局、アリアが率いる近衛騎士団は、ミナスに潜入し、軍需物資を焼き払うという任務を遂行することになった。そして、アリアは近衛騎士団の面々の前で、このことを話した。


「いや、絶対に死ぬだろう!」


 マグヌスがアリアの言葉を聞くなり、そう叫んだ。他の者の顔も険しかった。


「確かに、相当、厳しい任務だと思います。北西部から、迂回して行くとはいえ、レファリア帝国軍の占領地を潜入して進み、ミナスを焼き払うのは、厳しいでしょう。ただ……」


「ただ?」


 マグヌスが聞き返した。他の者も、アリアの発言に注目した。


「ただ、こんな難しい任務を出来るのは、アスール王国軍の中でも、精鋭中の精鋭である私達にしか出来ないということは言えると思います。ここにいる人は、レイル士官学校の首席や、それに匹敵する実力の持ち主か各種選抜を突破した、まさに精鋭であると胸を張って言える人しかいないはずです。そんな私達にしか、レファリア解放軍の命運を握る作戦は出来ないと私は考えていますが、皆さんはどうですか?」


 アリアの言葉を聞いた近衛騎士団の面々が黙ってしまった。


「アリアの言う通りだ! 我々に出来なければ、誰に出来るというのか!? それに、我らが小隊長であるアリアは、レイル軍大会を個人戦と団体戦で優勝しているのだ! これほど、この任務にうってつけの指揮官がいるだろうか? いや、いない! だから、アリアを信じよう!」


 ブルーノが、黙ってしまった近衛騎士団の面々に、そう訴えた。ブルーノの様子を見て、アリアは頼もしさを感じた。


「ブルーノの言う通りだ! 俺達でやってやろうぜ!」


 マグヌスがブルーノに続いて、そう叫んだ。そして、ブルーノとマグヌスをきっかけにして、近衛騎士団の面々は、やってやるぞ!と口々に叫んでいた。


「ブルーノさん、マグヌスさん、ありがとうございます」


「いや、当然のことを言ったまでだよ!」


 ブルーノがアリアにそう言った。こんなに頼もしいのに、なんか、残念なんだよなとアリアは思った。


「どうせ、ここにいたって最終的には負けるんだ! だったら、やるしかないだろう!」


 マグヌスはアリアの方を見て、そう言った。思い切りの良さがマグヌスの良さだなとアリアは思った。


 そして、近衛騎士団の面々が自分の天幕に戻ると、アリアは、カレンの下を訪れていた。


「カレンさん、敵地に潜入する際の注意事項を教えて下さい」


 アリアは、潜入の達人であるカレンにそう聞いた。傍には、レオンとサラがいた。


「そうですね。基本的に敵がいない場所を通るのは当たり前として、もし、民間人と偶然、出会ってしまった場合は、お金で解決出来るのなら、お金で解決した方が良いです」


「それが、不可能だった場合は?」


「盗賊にやられたように見せかけて、殺した方が良いです。理由は、その民間人から、情報が漏れてしまう可能性が高いからです」


「分かりました」


「痕跡を残さず、誰とも会わない。この二つを部隊に徹底して下さい。そうすれば、潜入は上手くいくでしょう。私がついて行ければ、良いのでしょうが、レオン皇子の護衛がありますので、難しいです」


「いや、私の護衛より、アリアについて行って欲しい」


 レオンは、カレンの言葉を聞き、そう言った。カレンは驚いた顔をしていた。


「よろしいのですか!?」


「あぁ。私の護衛は心配ない。そもそも、ミナスを焼き払えなければ、どの道、レファリア解放軍は敗北し、私の命もないだろう。だから、カレンはアリアに協力してくれ」


「承知しました」


 カレンはレオンにそう言った。アリアはカレンに向き直った。


「それでは、カレンさん。よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 カレンはそう言うと、手を差し出した。アリアはその手を握り返した。そして、アリアは自分の天幕に戻って行った。


 自分の天幕に戻ると、天幕の前にレリフが立っていた。空は暗くなり、松明の火が辺りを照らしていた。


「アリアちゃん、ミナスを焼き払いに行くんでしょう? 僕も行こうか?」


「いえ、レオン皇子の護衛のカレンさんがついて来てくれるので、師匠はサラさんとレオン皇子を守って下さい」


「了解。まぁ、アリアちゃんも死なないように頑張ってよ。まだまだ、アリアちゃんは強くなるからね」


「ありがとうございます、師匠。私も死ぬつもりはありません。だから、安心して下さい」


「分かったよ。それじゃ、頑張ってね」


 レリフはそう言うと、どこかへ行ってしまった。そして、アリアは、天幕に入り、横になって仮眠した。あと、3時間後、闇夜にまぎれて、カダスを出発する予定であったためである。



 2時間後、アリアは起床した。そして、カダスを出発するための準備を天幕の中で行っていた。すると、天幕の入口の垂れ幕が開き、サラが入って来た。


「アリア! 絶対、生きて帰って来てくださいまし! そうしたら、今度こそアリアが食べたいものをたらふく、ごちそうしますわ!」


「そういえば、まだ、食べてませんでしたね。帰って来たら、ごちそうして下さい」


「分かりましたわ! アリア、頑張って下さいまし! それでは、準備の邪魔をしないように帰りますわ!」


 サラはそう言うと、アリアの天幕を出て行った。


(これは、絶対に死ねないな)


 アリアはそう思いながら、天幕の中で、出発の準備を進めた。そして、アリア率いる近衛騎士団とカレンは闇夜にまぎれて、アスール王国側の城壁から、カダスを出発した。






 ――アリア達がカダスを出発してから、4日が経過した。現在、アリア率いる近衛騎士団とカレンは、レファリア帝国軍の支配している地域に潜入していた。レファリア解放軍の支配している地域までは、途中の村で手に入れた馬を使って、移動していたが、レファリア帝国軍の支配している地域に入ってからは、徒歩で移動していた。


 途中、アリアは北西部の都市でリカルドと出会った。そこで、北西部の戦況を聞いた。北西部でも、カダスと同様に、各都市の城壁が攻撃されているようであった。ただ、敵の士気が低く、何とか、防御出来ているような状況のようであった。リカルド率いる西方軍1万は、そのような状況の中で、ほぼ無傷であったようだ。


 リカルドから話を聞いたアリアは、早くミナスを焼き払わなければと思った。そして、現在、アリア率いる近衛騎士団はカレンが先導してくれているおかげで、誰とも会わず、また、痕跡も残さず、着実に進んでいた。



 そんな徒歩での潜入を2日続けていたところ、ミナスに到着した。何回か危ない場面があったが、カレンのおかげで何とかなった。カレンがいなければ、確実に全滅していたなとアリアはミナスを木の陰から観察しながら、思った。


 ミナスは、レファリア帝国軍の支配地域ということもあり、軍需物資集積地ではあるが、警戒の兵士が少なかった。ただ、カレンが観察したところによると、300人ほどの守備兵はいるらしい。


「アリア殿、ミナスを焼き払うのは、万全を期して、夜にしましょう」


「分かりました」


 カレンの提案を採用したアリアはそう返事をすると、潜伏している近衛騎士団にブルーノを通じて、夜に奇襲を仕掛けることを伝えた。その際、『我が愛しのアリア! 分かったよ!』と小さな声でブルーノはアリアに言った。こんな状況でも、変わらないなあとアリアは思った。


 そして、夜になった。その間、近衛騎士団とカレンはミナス近くの森の中で伏せていた。カレンは慣れているのか、ミナスを観察しながら、ずっと寝た姿勢であった。カレンさんは凄いなとアリアが思っていたところ、寝息が聞こえたので、その方向を見るとマグヌスが伏せたまま寝ていた。アリアはマグヌスを何回か小突いて起こしたが、すぐに寝てしまった。


 この状況で、よく寝れるなとアリアは感心した。自分には、絶対に無理だとアリアは思った。そして、夜になり、アリアがミナスの守備兵の様子を観察すると、昼間よりも守備兵が減っていた。しかも、レファリア帝国軍の支配地域ということもあり、ミナスの守備兵の中には、立ったまま寝ている者もいた。


 アリアは立ち上がると、カレンとブルーノに目配せをした。そして、ブルーノは近衛騎士団に油と武器の準備をさせた。それが完了すると、ブルーノがアリアに目配せをした。アリアはそれを確認すると、走り出した。


 それを合図に、近衛騎士団とカレンもミナスに向けて走り出した。そして、ミナスの周辺を照らしている松明を拝借すると、軍需物資に油をかけ、火をつけた。勢い良く、軍需物資が燃え上がっていた。


「か、火事だ!」


 ミナスの守備兵がそう叫ぶと、どこからか、続々と守備兵が集まって来た。その間にも、アリア率いる近衛騎士団とカレンは軍需物資に火をつけていった。途中、アリア達に気づいたミナスの守備兵が攻撃してきたが、前線の兵士よりも、練度が低いようであった。そのため、近衛騎士団の面々は、即座に返り討ちにしていた。


 そして、30分後。ほぼほぼ全ての軍需物資に火をつけたことを確認したアリアは、撤退の指示を出そうと考えた。


「逃げろ!」


 アリアがそう叫ぶと、カレンと近衛騎士団の面々は、ミナスの守備兵を倒しながら、混乱にまぎれて、北西部の方に向かって、走って逃げだした。相当、ミナスの守備兵は混乱しているのか、大半の守備兵がアリア達に気づかなかった。気づいた守備兵も、即座に倒したため、応援を呼ばれることはなかった。


「我が愛しのアリア! このまま、北西部に向かって逃げるということで良いかい?」


「はい! ブルーノさんは、他の人にも伝えて下さい!」


「分かった!」


「カレンさんも、それで良いですね?」


「はい、それで良いです!」


 カレンとアリア率いる近衛騎士団は、森の中を走りながら、そのまま北西部に向かって逃げて行った。






 ――アリア達がミナスの軍需物資に火をつけることに成功した頃。レオンは、ミナスの軍需物資が燃えている火を、カダス城から見ていた。


「どうやら、アリア達は成功したようですね」


「さすが、アリアですわ!」


 レオンの隣にいたサラがそう言った。そこに、カダスの将軍の一人がやって来た。


「兵の出撃準備が完了しました!」


「分かった。私も出るよ。行って参ります、サラ王女、祖父君」


「行ってらっしゃいですわ!」


 サラはレオンにカダスに残るように説得されていたので、今回の出撃にはついて行かなかった。


「頑張るのだぞ、レオン!」


 マッテオは、レオンの肩をつかみながら、そう言った。そして、レオンはカダス城を出て、馬に騎乗した。


「敵の兵糧は焼かれ、士気は落ち、戦の流れはこちらにある! レファリア帝国を解放するために戦うぞ! 全軍、突撃!!」


 レオンがそう叫ぶと、カダス城は開門し、守備兵5千を除いた、レファリア解放軍2万が一斉に突撃を開始した。銅鑼が打ち鳴らされ、兵士の声が、カダス周辺に響いていた。そして、目の前のレファリア帝国軍に襲いかかった。


「うわぁ! 奇襲だ!」


 レファリア帝国軍の兵士は、そう叫ぶと我先に逃げ出し始めた。それを見た、他の兵士も逃げ始めていた。


「逃げるな! 戦え!」


 レファリア帝国軍の指揮官らしき男が叫んでいるが、まったく効き目はなかったようだ。レファリア帝国軍の兵士達は我先に逃げ出していた。その後ろから、レファリア解放軍が襲いかかり、次々と倒して行った。


 

 時を同じくして、北西部と南西部のレファリア解放軍も攻撃を開始していた。こちらも、カダスと同様に、レファリア帝国軍の兵士は逃げ出すばかりで、軍としての体裁をなしておらず、レファリア帝国軍は総崩れとなっていた。


 レファリア帝国の西部一帯から、反撃を開始したレファリア解放軍の勢いは凄まじく、朝には、多くのレファリア帝国軍の多くの兵士の死体が大地に横たわっていた。今まで、攻め寄せていたのが、嘘のような光景であった。それほど、レファリア帝国軍の士気は下がりきっていたようであった。

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