26 レファリア帝国動乱⑤

 ――ハルド家でアリア達が襲撃されてから、2週間が経過した。その間、レファリア帝国の貴族の中で、レオンに協力する貴族は、自らの領地を守るための防御準備を進め、ある程度、形になったようであった。

 また、フィンの意向を受け、レオンに協力するフリをしていた貴族は、カレンに始末されたようであった。


 フィンもレオンに協力するとは表明していなかった貴族の中に、自分の領地の防御準備を固めている貴族がいるという報告を受け、アスール王国に攻め込む前に、その貴族の領地を攻めようと考えていたが、軍需物資の徴発が思うように進まず、攻めることが出来なかった。


 そうこうしているうちに、レオンは、味方してくれる貴族の領地の防御準備がほとんど、完了したと判断し、フィンに対して、宣戦布告をした。そして、レファリア解放軍と名乗り、西部の大都市であるカダスに司令部を設置し、自身もそこに移動した。


 レオンの宣戦布告と同時に、各地の貴族もフィンから離反し、レファリア解放軍に合流するという表明をした。その貴族の領地は、レファリア帝国の北西部から南西部にあり、レファリア帝国の西部一帯はレファリア解放軍の支配下にあった。


 アスール王国軍から貸し出された2万の部隊は、苦戦している貴族の加勢を出来るように、カダスに駐留していた。また、レオンがいるカダスが最も攻撃されると考えてのことであった。アスール王国は、表立って、レオンを支援しているとは表明しなかった。だが、フィンも含め、周辺諸国は、アスール王国がレオンに支援しているだろうと考えていた。


 だが、アルテリオ帝国は、アンティーク奇襲戦で大敗したため、軍の立て直しをしており、アスール王国を攻める余裕はなかった。北のバジル王国と南のルール公国も、アスール王国の北方軍と南方軍がにらみをきかせているため、攻めることが出来なかった。アスール王国の東方軍は、フィンが勝利した場合に攻め寄せて来ることは一目瞭然であったので、それに備えていた。


「アリア! 見て下さいまし! カダスの堅牢さを! これなら、攻撃されても大丈夫ですわ!」


 そのような状況の中、サラとアリアは、カダスの都市の周辺を囲っている城壁の上から、外を眺めていた。防御のための柵と塹壕が、幾重にも作られていた。これは、攻めるのに苦労するなとアリアは思った。


 カダスの都市を守る城壁からサラとアリアは降りた後、サラはレオンの下に向かったようだ。アスール王国軍は、2万人いたので、カダスにある建物では足りず、空いた場所に天幕を設営していた。そんな天幕の間を通って、アリアはアスール王国軍の司令部がある建物に向かった。


 そして、司令部が置かれている建物に到着し、そこの指揮所がある部屋に入った。その中には、アスール王国軍の各部隊の指揮官が集まっていた。一応、アリアも派遣された近衛騎士団の指揮官であったので、招集されていた。


「それでは、各部隊の指揮官が集まったところで、現状の説明と今後の方針を説明しようと思う」


 リカルドはそう言って、指揮所にあるレファリア帝国全体が分かる地図の前に、地点を指し示せる棒を持って、立った。


「まず、現状だが、フィン皇子率いるレファリア帝国軍は、軍需物資の徴発が完了した状態である。そして、北西部の都市を攻略するために5万、レオン皇子がいるカダスを攻めるために7万、南西部の都市を攻略するために5万、皇都アスローンに3万の計20万の軍勢がレファリア帝国軍となる」


 リカルドの言葉に、指揮官達は、一様に黙ってしまった。20万の軍勢というのは、それほど、多い数であるらしい。アリアも、ため息を吐きそうになった。


「レファリア帝国軍の各軍は、4日後には攻撃を開始すると考えられる。そして、我々の任務は、苦戦をしている各都市の救援とカダスに攻め寄せるレファリア帝国軍の迎撃だ。状況は、流動的に変化するため、各指揮官は、速やかに移動できるような態勢を整えておくように」


「ハッ!」


 各指揮官は、返事をした。アリアも周りの指揮官に負けないような声を出して、返事をした。そして、リカルドの説明が終わり、各部隊の指揮官は、自分の部隊が駐留している場所の天幕に戻って行った。アリアも、派遣された近衛騎士団がいる天幕に戻って行った。


 そして、ブルーノに皆を集めるように頼んだ。『分かったよ、我が愛しのアリア!』というと、ブルーノは、近衛騎士団の皆を呼びに行った。10分後、アリアの前に派遣された近衛騎士団が集まった。20人程度の面子を見ると、皆、顔が若かった。その中には、マグヌスも、もちろんいた。


 一番若いのはアリアであったが、一番年齢が高い人間でも、21歳であった。そのような状況の中で、ブルーノがアリアの副官のような役割をしていた。別に、アリアはブルーノに副官になって欲しいと頼んでいなかったが、勝手に副官として活動していた。


「皆さん、集まったようなので、現状と今後の方針を説明します」


 アリアはそう言って、今の現状と、今後のアスール王国軍の方針を説明した。


「それじゃ、現状は、待機っていう認識で大丈夫?」


 マグヌスがアリアに質問した。他の者も、それが気になるようであった。


「そうですね。ただ、いつでも動けるように準備だけはしておいて下さい」


「分かった」


「他に質問がある人はいますか?」


 マグヌスの質問の他にはなかった。アリアはこれで、集まりを解散させようと思った。


「それでは、質問もないみたいなので、解散して下さい」


 アリアがそう言うと、派遣された近衛騎士団は解散した。アリアも、自分の天幕へ戻って行った。


「お疲れ、アリアちゃん!」


 自分の天幕の前にレリフが立っていた。レリフは、サラの護衛をアスール王メギドに頼まれたようであった。『まぁ、アリアちゃんもいるし、しょうがないか』と言いながら、メギドの頼みをレリフは聞いた結果、ここカダルにいるという訳であった。


「師匠、サラさんの護衛していなくても大丈夫なんですか?」


「いや、サラ王女、ずっとレオン皇子に引っ付いているから、お邪魔かと思って、サラ王女から離れたんだよ」


「……それでは、護衛の意味がないじゃないですか?」


「まぁ、レオン皇子の護衛として、カレン殿もいるから、大丈夫でしょ! それより、アリアちゃんが暇なら、修行しない? 最近、近衛騎士団の仕事が忙しくて、出来ていないでしょ? 幸い、レファリア帝国軍は4日後に攻撃を始めるみたいだから、少し時間あるしね」


「分かりました、師匠」


 そうして、アリアとレリフは修行を始めた。いつも通り、最終的に剣で弾かれ、地面をゴロゴロとアリアは転がっていた。






 ――アスール王国軍の指揮所の集まりから、4日後。予想通り、レファリア帝国軍が各都市に、攻撃を始めた。だが、各都市は、防御準備をしていたため、レファリア帝国軍は苦戦をしていた。


 アリア達のいるカダスにも、7万の軍勢で攻め寄せているが、幾重にも作られた柵と塹壕の前になすすべもなく、撃退されていた。そして、初日は、どの都市も、大した損害なく、レファリア帝国軍を撃退していた。


 そのため、アスール王国軍は、カダスに駐留している状態であった。だが、いつでも動けるように準備はしていた。



 そして、1ヶ月が経過した。さすがに、1ヶ月も経つと、各都市の防御が破られ始めたので、リカルド率いる西方軍1万が北西部の都市に、ロナルド率いる中央軍が南西部の都市に、それぞれ救援に向かった。ただし、アリア達、近衛騎士団はカダスに残った。


 この頃には、カダスの柵が破壊されたり、塹壕が崩されたりしていたので、アリア率いる近衛騎士団がカダスから馬に乗って出撃し、レファリア帝国軍の側面を少し攻撃し、逃げるというような遊撃をしていた。


 レファリア帝国軍は、この1ヶ月、ひたすら力押しをしてきたため、各都市の防衛が破られることは多かったが、レファリア帝国軍の被害も甚大であった。アリア達も遊撃をしていたが、日に日に、レファリア帝国軍の士気が下がっているのが、伝わって来た。


 マッテオが放った密偵の報告では、どうやら、軍需物資が全体的に足りなくなっているようであった。

 その中でも、食料が足りていないようであり、バジル王国やルール公国などの周辺諸国に食料の提供を求めているようであった。


 逆に、レファリア解放軍には、アスール王国からレファリア帝国に提供されるはずであった食料や軍需物資が提供されていたので、疲れはしていたが、士気自体は落ちていなかった。アリアも戦争中ではあるが、とりあえず、味の問題は別として、毎日、食事が食べられていたので文句はなかった。



 そして、レファリア帝国軍と戦闘を開始して、2ヶ月が経過した。西方軍や中央軍が、各都市に派遣されているおかげか、まだ、陥落した都市はなかったが、苦しい戦いが続いていた。カダスでも、柵はほとんど破壊され、塹壕も崩されていた。そして、カダスを囲っている城壁に対して、攻撃が開始されていた。


 アリア達もカダスから出撃し、必死になってマッテオ軍とともに、敵を撃退していたが、レファリア帝国軍を防ぎきることは出来ず、城壁までの攻撃を許してしまった。こうなってしまっては、出撃が出来ないので、城壁の上から、アリアが率いる近衛騎士団は、矢を射ていた。


 マッテオの放っている密偵の報告では、いよいよ軍需物資が尽きかけているらしい。また、フィンは周辺諸国に食料の提供を求めたが、どこの国も応じていないようであった。周辺諸国の考えは、将来、自国に侵攻をしてくるであろうフィンより、穏健派のレオンの方がまだマシというものであるらしい。そのため、周辺諸国は中立を保っていた。


 レファリア解放軍も、甚大な損害を受けているが、レファリア帝国軍は、この2ヶ月間、ひたすら力押しを続けたため、兵士の損耗は全体の3割になっているようであった。また、フィンが軍需物資の徴発を強制しているため、餓死者が続出し、治安が劇的に悪化しているようであった。昼間から賊が都市の中で、略奪をし、それを取り締まる兵士もいないため、無法地帯になっている都市もあるようであった。


 アリアは、連日、城壁の上から矢を射ている中で、レファリア帝国軍の兵士の士気が劇的に落ちているのが手に取るように分かった。レファリア帝国軍の兵士の顔を見ると、頬がこけて、動きが悪かった。城壁に取り付いた兵士にも、勢いが感じられなかった。


 レオンは、このような状況を踏まえ、これ以上、レファリア帝国軍と戦うことは、帝国臣民に負担をかけ過ぎ、なおかつ、守っているだけでは勝つことが不可能と判断し、反攻作戦を計画していた。その作戦を話し合うために、カダス城のレファリア解放軍の指揮所に、指揮官が集まっていた。


 アスール王国軍でカダスに残っていたのは、アリア率いる近衛騎士団しかいなかったので、アリアも参加していた。そして、討議が始まった。


「現状、我が軍には、少なくない損害が発生し、このまま守るだけでは、いずれ我らは敗北するだろう。そこで、全軍で反攻作戦をしようと考えている」


 レオンの言葉に、指揮官達はどよめいた。それが、難しいことは、この場にいる全員が理解していたからだ。


「当然、難しいと思う。だが、敵の軍需物資が尽きかけている現状、敵の軍需物資が集まっているミナスを焼き払い、敵の士気をくじいた上で、全軍で反攻すれば、勝機はあると考えている」


 指揮官達は、その言葉を聞き、険しい顔をした。ミナスは、皇都アスローンとカダスのちょうど中間辺りにあるレファリア帝国軍の軍需物資集積地であった。ここから、レファリア帝国軍の各戦線に軍需物資が送られていた。確かに、ここを焼き払えば、レファリア帝国軍に大損害を与えることが出来るのは間違いがなかった。


「だが、ミナスをどうやって焼き払うというのです? カダスから全軍で出撃しても、レファリア帝国軍に阻まれ、ミナスまでたどり着けるとは到底、思えませんが」


 指揮官の一人がレオンに質問した。アリアもその疑問を持っていた。


「全軍では出撃しない。一部の少数の部隊で、比較的、敵兵が少ない、レファリア帝国の北西部から迂回して、ミナスを目指してもらう。そして、到着したら、ミナスを焼き払い、同じ道で帰還するという方法をとる」


「確かに、それしかないでしょう。では、その任務を、どこの部隊にやらせるというのですか?」


 当然の疑問を、レオンに質問した指揮官が尋ねた。その疑問を聞いたレオンが、なぜかアリアの方に顔を向けた。アリアは、嫌な予感がした。


「アスール王国軍から派遣されたアリア・ロード少尉が率いる近衛騎士団にやってもらいたいと考えている」


 私の運命もどうやら、ここまでのようだと思いながら、アリアはレオンの顔を見た。指揮官達が一斉にアリアに注目した。

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