25 レファリア帝国動乱④
――レファリア帝国の使者が帰ってから1週間が経過していた。その間に、レオンがレファリア帝国の貴族に送った檄文の返事が届いた。その内容は、ほとんどがレオン皇子に味方するということであった。一部、断られしまったが、結局、レファリア帝国の貴族の4割が、レオンに協力する形になった。思ったより、フィンの態度を嫌う貴族が多かったようだ。
レオンは、マッテオを通じて、味方になってくれた貴族に領地防衛の指示を出していた。レファリア帝国では、アスール王国の使者への返答に激怒したフィンが、アスール王国と戦争を始めるために準備を進めているようであった。
アスール王国からは、アンティーク奇襲戦で活躍したロナルドを指揮官とする中央軍1万、リカルドを指揮官とする西方軍1万の計2万の軍がレオンに貸し与えられた。近衛騎士団からは、若手を中心とした人員が中央軍に配属された。その部隊の指揮官をアリアが務めることになった。
レオンについて行く気であるサラの、『アリアもついて来て下さいまし!』という一言でアリアがレファリア帝国に行くことが決まった。これを、近衛騎士団の若手の成長の機会と思ったルビエが、近衛騎士団の若手の派遣を決定し、その指揮官をアリアとした。
そして、レオンが戦争をするための準備を進めていたある日の夜。アリアはハルド家の自分の部屋で寝ていた。レオンも、戦争準備が完了するまで、ハルド家に滞在することになっていた。もちろん、サラもハルド家に滞在していた。
(何か、違和感があるな)
アリアはそう思い、ベッドから起き上がった。時計を見ると、夜1時を過ぎていた。そして、自分の部屋から窓の外を見た。すると、黒い服をまとった人間の集団がハルド家の塀を乗り越えていた。人数は、20人を超えていた。
「襲撃です!」
アリアは自分の剣を持つと、寝間着のまま、急いで部屋を出て、そう叫びながら屋敷を走り回った。
「……はぁ、面倒だな」
レリフが自分の剣を持ちながら、そう言って、寝間着のまま、屋敷の入り口に向かって行った。
「兄上! もっと、緊張感を持って下さい! レオン皇子が殺されたら、全てが瓦解するのですよ!?」
レリフの後ろを、ルビエがそんなことを言いながら、追っていた。寝間着のままであったが、その手には、槍が握られていた。
「師匠! 私は、レオン皇子の護衛に向かいます!」
「う~ん、よろしく」
まったくやる気のないレリフの返事を聞いた後、アリアはレオンの部屋へ向かった。そして、レオンの部屋へ到着すると、既にサラとカレンがいた。レオン皇子も剣を構えていた。
「レオン皇子、無事ですか!?」
「大丈夫だ!」
アリアは、剣を構えているレオンの無事を確認した。その横では、『レオン皇子は絶対に守りますわ!』とサラが言っていた。そうこうしていうちに、窓が割れる音が聞こえ、こちらに向かっている足音がどんどんと大きく聞こえて来た。
レリフとルビエは、既に戦っているようで、金属音が打ち付けあう音が屋敷中に響いていた。
「敵が、来ますよ!」
カレンがそう言うと、黒い服をまとった人間が攻撃をしてきた。どうやら、武器は短剣のようであった。アリアは、その短剣を弾こうとしたが、寸前で避けられてしまった。室内ということもあり、剣が味方に当たらないように配慮した結果、剣の振りが遅くなっているようであった。
カレンはというと、短剣で敵の心臓をえぐっていた。えぐられた敵は、すぐに倒れていた。
「彼らは、レファリア帝国の暗殺部隊です! 短剣に注意して下さい! 毒が塗られていますので、かするだけでも、死にます!」
カレンは、そう言いながら、敵を倒していた。『ど、ど、毒ですの!?」と騒いでいるサラを横目に見ながら、アリアは敵を倒していた。敵の持っている短剣の方が、室内では有利であるが、実力的には、アリアの方が上であったので、短剣の攻撃を避けると、アリアは敵を倒していった。
(……報告が上がって来ない)
レファリア帝国の暗殺部隊の隊長であるダリオはいら立っていた。今まで、厳重な警備をすり抜け、多くの者を暗殺してきたダリオの部隊にとって、今回の任務は難しいものではなかったはずだ。確かに、暗殺部隊の前隊長であるカレンがレオン皇子の護衛をしているという情報と剣聖レリフ・ハルドの屋敷であるという情報があった。
だが、いかにカレンといえど、何人もの暗殺者には対応出来ないはずだ。また、剣聖と言っても、寝込みを襲えば、対処は容易であるとダリオは考えていた。実際に、武技が優れていると言われている者の寝込みを襲い、何回も暗殺をしてきた。
だが、30分を過ぎても、報告が上がってきていなかった。普段の任務では、早くて10分、遅くても20分後には、暗殺完了の報告が上がってきていた。
(もしや、この屋敷に隠れているのか?)
ダリオは、目の前のこじんまりとした屋敷を見ながら思った。この屋敷は、アリアという少女の屋敷であるらしい。通常、狭い家に隠れると、襲撃された際に、逃げる時間が稼げないので、あまり隠れることはないと、ダリオは思っていた。実際に、狭い家に隠れている標的を暗殺するのは、逃げられないので簡単であった。
(とりあえず、確認するか)
ダリオはそう考え、部下数人と一緒に、アリアの屋敷に忍び込んだ。屋敷の中は、夜中にも関わらず、明るかった。なぜか、ロウソクなどを使っていないはずなのに、明るく感じた。そのような状況に、ダリオ達が戸惑っていると、部屋の奥の方から、女性が歩いて来た。
「あら、こんな夜分にどのようなご用事かしら?」
一目で高貴な服だと分かる、赤い髪をした女性が、ダリオに問いかけた。ダリオは、部下に目配せをした。そして、部下の一人がその女性に短剣で斬りかかった。これで、この女性は死ぬとダリオ達は、思っていた。
「貴方達、運がないわね。この屋敷の周囲に敵意を持って侵入すると、普段は見えない私達が人間に見えるようになるのよ。しかも、自衛のためなら、人間に力を振るうことが許可されているわ」
赤い髪の女性はそう言いながら、部下の短剣での攻撃を手で受け止めた。そして、短剣を握って、ただの鉄の塊にしていた。
「はっ?」
ダリオは、目の前で起こった出来事に理解が追いつかず、素っ頓狂な声を出した。部下達も戸惑っているようであった。そして、その女性が斬りかかった部下の腕に触れた。その瞬間、部下の腕が凍りつき始めた。
「うわぁぁ! 俺の腕が!」
部下がそう騒ぎながら、凍った腕を反対の手で握っていた。だが、部下の凍っていなかった腕も、手先から凍り始めていた。数秒もしないうちに、女性に斬りかかった部下は、全身が凍りつき、動かなくなった。そして、女性が、凍りついた部下に触れると、パリン!という音とともに、粉々に砕け散った。
「引け!」
ダリオは、目の前で起こった出来事をまったく理解出来ていなかったが、本能的に逃げなければならないと思い、退却の命令を出した。そして、急いで屋敷の外を部下とともに出ると、そこには、燕尾服に身を包んだ初老の白髪の執事と思われる男性と、掃除で使う箒を持ったメイドと思われる女性が立っていた。
「お客様、逃げられては困りますな」
執事と思われる男性が、そう言っているのがダリオに聞こえた。
「やれ!」
ダリオは即座に、部下に二人を倒すように命令した。命令を受けた部下が一気に二人に襲いかかった。
「血気盛んですな」
執事と思われる男性は、そう言うと、短剣での攻撃を避け、部下の頭を殴った。パン!という破裂音とともに、部下の頭はなくなっていた。ダリオは、メイドと思われる女性の方を見た。その女性に襲いかかった部下は、箒で滅多打ちにされ、ただの肉塊となっていた。
「うわぁぁ! 化け物だ!」
部下の一人がそう叫び、逃げ出そうとしたが、メイドと思われる女性に箒で殴りつけられ、地面に倒れた。そして、滅多打ちにされ、肉塊となっていた。そうこうしているちに、ダリオの部下は一人残らず、倒されていた。
「ハハッ! これは夢だ! 夢に違いない!」
ダリオは目の前で起こった出来事を信じられず、そう呟いた。そんなダリオの肩に、誰かの手が置かれた気がした。
「まぁ、信じたくない気持ちも分かるけど、残念ながら、現実よ」
ダリオは、手が置かれたと思われる肩から、自分の体が凍りつき始めているのを感じた。
(……いったい、何だというのだ)
ダリオはそんなことを思いながら、意識を手放した。ダリオの体が凍りついた後、パリン!という音とともに、粉々に砕け散った。
――アリア達が戦い始めてから、時間が経ち、空は明るくなってきていた。どうやら、ルビエとレリフは、屋敷の入口の敵を片付けたようであった。レオン皇子を襲って来た敵も、アリアとカレンで全て倒した。
「一応、屋敷とか敷地に敵がいないか、見て来るよ! アリアちゃん達は、敵の死体を片付けておいて!」
アリア達が合流すると、レリフはそう言って、屋敷の方に向かって行った。アリアは、片付けが面倒だから逃げたなと思った。
「剣聖殿、屋敷の使われていない部屋をお借りしてもよろしいでしょうか?」
カレンが屋敷に向かって歩いているレリフにそう言った。
「使っていない部屋はたくさんあるから、どこでも使っていいよ! ただし、汚したら綺麗にしてね!」
「ありがとうございます」
レリフは振り返らず、上に手を振りながら、そう答えた。カレンはレリフにお礼を言うと、屋敷の入口でレリフとルビエに倒され、かろうじて生きている黒服の男性の一人の襟首をつかんだ。
「……俺はどんなことをされても、口は割らない。元隊長だったあんたが、一番よく、それを知っているだろう?」
「そうですね」
男性の言葉にカレンはそう答えると、屋敷の中へ引きずって行った。そして、使われていない部屋に入った。そして、アリア達が、死体を片付けていると、何度もカレンが入った部屋から、男性の悲鳴が聞こえてきた。その度に、サラは、ビクッ!と悲鳴の声に体が反応しているようであった。
30分後。カレンがアリア達に合流した。返り血を一滴も浴びていなかったはずのカレンは、血塗れであった。サラはその姿を見ると、『ヒッ!』と短く悲鳴を上げていた。
「それで、何か有益な情報は得られたのか?」
ルビエが死体を片付けながら、カレンに聞いた。アリアも死体を片付けながら、耳だけカレンの言葉に集中した。
「レオン様に協力した貴族の中に、フィン皇子の意向を受けて、レオン様に協力している裏切者が誰かが分かりました」
「結構な収穫だな」
「はい。これで、裏切者を始末出来ます」
カレンとルビエはそう言うと、死体の片付けを再開した。そして、屋敷の入口の死体を片付け終わると、屋敷の中の死体を片付け始めた。その中で、カレンが使っていた部屋に入ることになった。
「部屋の壁や床は私が掃除しますので、死体だけ、部屋の外に出して下さい」
カレンはそう言うと、部屋の扉を開けた。部屋の中には、人間だったと思われる肉塊があった。そして、部屋中に血が飛び跳ねていた。
「あわわわ!」
サラはそう言うと、失神して、廊下に倒れてしまった。
「サラ王女には刺激が強過ぎたようだな。私はサラ王女をお部屋にお連れするから、アリアは死体を運び出してくれ」
「分かりました」
ルビエがサラを持ち上げると、廊下の先へ消えて行った。アリアは、改めて、死体を見た。
(……死ぬとしても、こんな死に方は嫌だな)
アリアはそんなことを思いながら、死体を部屋の外に運び出した。そして、カレンの方を見ると、手際良く部屋を綺麗にしていた。きっと、慣れているのだろうなとアリアは思った。同時に、カレンさんを敵に回すのはやめようとも思った。
そうこうしているうちに、死体の片付けは終わり、レリフも屋敷の中と敷地の見回りから、帰って来た。
「潜んでいる敵は一人もいなかったよ!」
レリフはそう言うと、汗を流しに行った。アリア達も、疲れが見える顔で汗を流しに行った。
(……はぁ。本当に疲れた)
アリアはそんなことを思いながら、汗を流していた。
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